「ヨコハマトリエンナーレ2020」…自ら学び、互いをいつくしみ、毒と共存する

美術展ナビ

いま考えたい5つのキーワード

日本を代表する国際港湾都市を舞台に2001年に始まり、3年に1度の現代アートの祭典として定着した「ヨコハマトリエンナーレ」。7回目となる今回は、アーティステッィク・ディレクターに初めて外国人を起用し、インドの3人組のアーティスト集団「ラクス・メディア・コレクティヴ」(以下、ラクス)が選ばれました。

「ラクス」は今トリエンナーレに際して、「独学(自らたくましく学ぶ)」「発光(学んで得た光を遠くまで投げかける)」「友情(光の中で友情を育む)」「ケア(互いを慈しむ)」「毒(いや応なく存在する毒と共存する)」という5つのキーワードを昨年提示しており、あたかもコロナ禍を予測したかのような不思議な符合を見せました。

会場の横浜美術館

出展した約70組のアーティストは半数が20歳代、30歳代という若い顔ぶれ。出身は30の国と地域を数え、アジア、中東、アフリカからの参加者が多いようです。印象的だった展示を紹介します。

揺れ動く現代社会を先取りしたアートの数々

横浜美術館を入ると、巨大でにぎやかなニック・ケイブの展示が出迎えてくれます。天井からつられているのは、アメリカでよくみる「ガーデン・ウィンド・スピナー」という庭用の飾りです。キラキラと回転する様々な形のオブジェが楽しく、よくみると「拳銃」や「弾丸」の形をしたものもあり、一筋縄ではいかないアメリカの状況を映し出しているかのよう。

ニック・ケイブ(アメリカ)《回転する森》2016年(2020年再制作)
拳銃の形をしたオブジェ

ラヒマ・ガンボ(ロンドン生まれ、ナイジェリアを拠点に活動)の「タツニヤ(物語)」(2017年)は、一見、無邪気に遊ぶ少女たちのスナップ写真に見えます。が、西欧式の教育を拒否するアフリカのイスラム過激派組織「ボコ・ハラム」の脅威から生き延びた末に、自らの意思で再び教育の機会を得て、学校で遊び心を取り戻していく様子を記録したものといいます。そう聞くと、見る側も思わず居ずまいを正さずにはいられません。

仙台市生まれの青野文昭は、被災地などから収拾した廃棄物や拾得物を用いた表現で知られています。壊れたもの同士が、不完全ながらもお互いに補い合って組み合わさる姿は、とりわけ日本人にはいまだに生々しい感情を呼び起こします。感染症という大きな傷を受けた後だけに、改めて強い印象を残します。

青野文昭《なおす・合体・代用・融合・連置(石巻で収拾した看板/三つのテーブル)》 2014年
青野文昭《イエのおもかげ・箪笥の中の住居―東北の浜辺で収拾したドアの再生から》 2020年

ジャイアント・ホグウィード(和名・バイカルハナウド)という巨大な植物。中央アジア原産で、19世紀に鑑賞用としてヨーロッパに輸入され、世界中に広まりました。ところが、その樹液は触った人の肌が光に当たると、かぶれを引き起こし、目に入ると失明することもあるほど、強い毒性を持っていました。今では有害植物として嫌われている存在といいます。あまりに大きく禍々まがまがしい姿と、「毒」というキーワードに強く反応してしまいます。

インゲラ・イルマン(スウェーデン)《ジャイアント・ホグウィード》2016年(2020年再制作)

作者は肩こりをほぐす指圧グッズのように、人間の体にとって気持ちのいい形や感触に興味をもち、この作品を作りました。一方、アーティスティック・ディレクターの「ラクス」の3人は、人間の腸のような形を見て、善玉菌や悪玉菌が共生する、わたしたちのおなかの中へ想像を広げたそうです。この中で「友情」「ケア」「毒」がからみあっています。

エヴァ・ファブレガス(スペイン)《からみあい》2020年

こわれてしまったカップや電球や時計を、光る糸で縫い、修復する。傷ついたものが新しい命を得る、というイメージにひかれます。使われている糸は、青白く発光するオワンクラゲ由来。このクラゲの発光をつかさどる遺伝子をカイコに組み込み、「蛍光シルク」という光る絹糸が作られました。

竹村京《修復されたY.N.のコーヒーカップ》2018年 ほか50点

変革の時代にアートの能力を発信

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開幕前日の7月16日に開催された記者会見に、リモートで出席した「ラクス・メディア・コレクティヴ」のモニカ・ナルラ氏は、今トリエンナーレを「世界全体が変革を迫られている時期に、先陣を切っていくイベントになる」と位置付けました。その上で「世界に対して、私たちの存在が癒やしになることを示し、アートの能力を発信していく」と語ります。

左上から時計回りで、ジーベシュ・バグチ氏、モニカ・ナルラ氏、ヨコハマトリエンナーレ2020展示風景、シュッダブラタ・セーングプタ氏

新型コロナウイルスのために開幕が2週間遅れた今トリエンナーレ。折しも感染症や「Black Lives Matter」に揺れ動く現代社会を先取りしたかのような意欲的な展示が並び、見る側も終始、「お前は?」と問いかけられているかのよう。会場を後にするころには、心身にずっしりと重いものを感じる人が多いのではないでしょうか。

(読売新聞東京本社事業局専門委員 岡部匡志)

ヨコハマトリエンナーレ2020 AFTERGLOW―光の破片をつかまえる

会場:横浜美術館、プロット48
会期:2020年7月17日(金)~10月11日(日) 木曜日休場(10/8を除く)
※10/2(金)、3(土)、8(木)、9(金)、10(土)は21:00まで開場
開場時間:10時~18時
※会期最終日10/11(日)は20:00まで開場

チケットは日時指定の予約制。オンランチケットに空きがある場合は、横浜美術館、プロット48のチケット販売窓口でも購入できる(開場日のみ・開場30分前まで)。料金は一般2000円、大学生・専門学校生1200円、高校生800円、中学生以下無料。詳しくは公式ホームページへ。

公式サイト