「東京モダン生活」都庭園美術館…「時代の転換点」を今知る意義

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国立科学博物館附属自然教育園に隣接し、武蔵野の面影を残す深い緑に囲まれた東京都庭園美術館の本館は、1933年に竣工しゅんこうした旧朝香宮あさかのみや邸。2011年から3年がかりで壁紙やカーテンなどを復元し、外壁を塗り替えるなど創建当時の姿により近づける改修工事が行われました。アール・デコ様式を今に伝える貴重な建築物として、2015年に国の重要文化財に指定されています。

東京都庭園美術館へのアプローチ。終日、交通量の多い目黒通り沿いとは思えない深い緑。周囲の保育園児の散歩コースにもなっていて、のびのびと遊ぶ子供たちの姿にも癒やされる
美術館本館の正面は、ほとんど装飾のないシンプルな造りがかえって印象的

今回の展覧会は、年に一度の「建物公開展」です。通常の展示では置いていない家具調度を室内にあつらえ、普段は作品保護のために閉じられているカーテンも開け放ち、光あふれる空間の中で、宮邸当時の雰囲気を味わえます。写真撮影もできるので、例年人気の催しとなっています。

2014年に設けられた新館の展示スペースでは、朝香宮邸が完成した1930年代の東京の様子を絵画や家具、写真、雑誌、衣服などで紹介。関東大震災と先の大戦に挟まれた短い時期に、「帝都復興」の掛け声とともに近代建築が立ち並び、地下鉄が走り、「モガ・モボ」(モダンガール・モダンボーイ)が銀座を闊歩かっぽ(しました。この頃に、現在の東京につながる都市の原型が造られたといっても過言ではありません。新型コロナウイルス感染症によって、日々の暮らしぶりが大きく変わりかねない現代から見ても、転換点としてのこの時代は興味深いものです。

思わず目を奪われる調度品の数々

朝香宮家は、久邇宮くにのみや朝彦親王の第8王子鳩彦王やすひこおう(1887-1981)が1906年に創立しました。鳩彦王はフランス留学中の25年にパリ万国博覧会(通称アール・デコ博)を観覧し、全盛期を迎えていたアール・デコ様式に強くひかれ、帰国後に建設した宮邸に、この様式の装飾をふんだんに取り入れました。

旧朝香宮邸は、戦後、吉田外相・首相公邸、国賓公賓の迎賓館(白金迎賓館)として使用され、83年からは東京都庭園美術館として一般に公開されています。

大客室は、旧朝香宮邸の中でも、アール・デコの粋が最も集められているスペースです。ルネ・ラリック制作のシャンデリア、扉上の半円形部分の装飾、エッチング・ガラスをはめ込んだ扉や大理石の暖炉の装飾など、この部屋では幾何学的にデザインされた花が主なモチーフとして用いられています。

大客室(東京都庭園美術館提供)

大客室に続くのは、庭園の緑もまぶしい大食堂です。来客時の会食用に使用された部屋で、ルネ・ラリックのデザインによる照明器具やエッチング・ガラス扉などに、果物がモチーフとして用いられています。調度品やちょっとした照明類にも、思わず目を奪われることたびたびです。

左・大食堂のシャンデリア《パイナップルとザクロ》 ルネ・ラリック作(東京都庭園美術館提供)、右・本館第二階段踊り場の照明(東京都庭園美術館提供)

宮邸の建築に並々ならぬ情熱を注いだといわれ、部屋には妃殿下の趣味嗜好しこうが至るところにうかがえます。

妃殿下居間(東京都庭園美術館提供)鳩彦王妃允子内親王の居室

もうひとつ、見落としたくないのが各所に設けられた解説のパネル。それぞれの居室を見る際のポイントや、建材や技法などを事細かく説明しています。「担当学芸員のこだわりが詰まった、非常にマニアックに掘り下げられた内容です」と広報担当の鶴さんは話します。

東京に息づく、モダンの息吹

新館の展示では、1930年代の東京を、東京都江戸東京博物館、東京都現代美術館、東京都写真美術館、東京都美術館、東京文化会館、東京都立多摩図書館が所蔵する多彩なコレクションで描き出します。

新館の外観(東京都庭園美術館提供)
石川光陽《資生堂パーラー》1934年 東京都写真美術館蔵
川上澄生《銀座『新東京百景』》1929年 東京都現代美術館蔵

担当の吉田奈緒子学芸員は、「東京五輪に合わせた企画として考えたが、新型コロナウイルスによってこの展示の持つ意味も変わりました」といいます。「関東大震災によって、東京から江戸・明治の面影がなくなり、いわば『新しい生活様式』が生まれました。そして、戦争によってあっという間にそれもなくなりました。30年代は、そうした歴史の転換点が俯瞰ふかんできる貴重な時代といえます。新型コロナで暮らしぶりが大きく変わるかもしれないこの節目の時期に、30年代を知ることは貴重な体験になると思います」と語りました。

(読売新聞東京本社事業局専門委員 岡部匡志)

建物をみる2020 東京モダン生活ライフ 東京都コレクションにみる1930年代

会場 東京都庭園美術館(本館+新館) 東京都港区白金台5-21-9
会期 2020年6月1日(月)~9月27日(日)まで
休館日 第2・第4水曜日(6/10、6/24、7/8、7/22、8/12、8/26、9/9、9/23)
開館時間 10:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで
公式サイト