美しい海を眺めながら食べる、長崎・上五島のおいしいもの

リフレッシュ! 極上旅

新鮮な魚介類に五島手延うどん。長崎・上五島(かみごとう)には、全国にその名を知られるローカルフードがあります。海を眺めながら食べるランチや、波の音を聞きながら飲む島焼酎も、旅情たっぷり。上五島のグルメは、味もシチュエーションも、ここに来なければ楽しめないものばかりです。

1000年以上の歴史が育む、幻のうどん

上五島に行くのならぜひ食べたいと思っていたものが、「五島手延(てのべ)うどん」です。九州の最西端に位置する上五島は、遣唐使(7~9世紀)の寄港地であり、東西文化の重要な中継地点でもありました。五島手延うどんは、その頃に唐(中国)から伝わった「索麺」という麺がルーツとも言われています(諸説あり)。

……という歴史に興味があったのはもちろんですが、一番の理由は、やっぱりおいしいから。普段はうどんをあまり食べない私ですが、ある日、お土産でいただいた五島手延うどんを食べて以来、すっかりその食感と喉ごしに魅了されているのです。

しょうゆと卵でいただくと、さらにおいしい五島手延うどん。だしは焼きアゴからとったもの

「ぜひ本場で食べなければ!」と、上五島に上陸して、真っ先に向かったのは、有川港に近い「島ダイニング とらや」。2019年6月にオープンした、製麺店が営むカフェレストランです。BGМにジャズが流れる店内に入ると、アゴ(トビウオ)だしのいい香り!

有川港から近い「島ダイニング とらや」。市場で仕入れた魚で作る海鮮メニューや、ハンバーグなどカフェメニューも人気

島では、グツグツと煮えたぎる鍋から直接うどんをすくい、アツアツをいただく「地獄炊き」という食べ方がスタンダードです。アゴだしにうどんをつけて食べてもよし、または、しょうゆをちょっとたらした溶き卵につけて食べてもよし。どちらの食べ方もそれぞれ、口当たりや、ふんわりと優しい風味がたまりません。

長くゆでても伸びにくい五島手延うどんは、鍋で煮込む「地獄炊き」が定番の食べ方。ツルツルの麺を上手にすくえる「うどんすくい棒」は必須アイテム

食感と喉ごしの秘密は、昔ながらの手延製法。生地を熟成させながら棒状にし、それを2本のハシにかけ、手作業で細く長く延ばし、乾燥させながら、さらに1日かけてじっくりと熟成させていく、手間暇かかる方法で作られています。島で細々と手作業で作られる麺は生産量が少なく、「幻のうどん」とも呼ばれていたのだそう。

棒状の生地を2本のハシにかけ、手作業で引っ張り、細く長く延ばしながら作るのが五島手延うどんの伝統的な製法。絶妙な手加減で延ばすことで、細いながらもコシのある、滑らかな食感が生まれる

加えて、島ならではの原材料も、おいしさの決め手。生地に海水を煮詰めて作った天然塩を入れ、表面に島特産の椿油を塗ることで、細いながらもコシがあり、なめらかな麺に仕上げています。五島手延うどんは素朴に見えますが、まさに、島の風土と職人の熟練した技術が作り上げる、極上の島グルメなのです。

オーナーの南慎太郎さんは、新上五島町産のアゴを、椿油と自家製海塩で漬け込んだ「あごんちょび」など、上五島ならではのアイデア商品も開発

「島ダイニング とらや」オーナーの南慎太郎さん、こころさんご夫妻は、上五島生まれの上五島育ち。こころさんの父・虎夫さん(故人)が営んでいた製麺所「虎屋」の後を継ぎ、「とらや」ののれんでその味を守っています。

オリジナルの塩やうどん。パッケージもかわいらしくて、お土産に欲しくなる

うどん作りに欠かせない塩も手作りです。「目の前に、こんなにきれいな海があるのだから、その恵みを最大限に生かしたものを作りたい」と慎太郎さん。うどん、塩、そしてお店の改装まで手がけたアイデアマンの五島手延うどんは、島の幸がたっぷりと詰まった一品でした。

刻一刻と変わる海の表情を眺める海辺の絶景カフェ

五島手延うどんと並ぶ上五島の名物といえば、新鮮なシーフード。海流に乗って多種多彩な魚が回遊していること、海流がぶつかるポイントに魚のえさとなるプランクトンが豊富にいることなどから、上五島は最良の漁場として知られています。

魚の味をさらにおいしくさせるのが、芋(いも)焼酎の「五島灘(ごとうなだ)」。いくつか種類があり、それぞれにおいしさがあります。黒麹仕込みはキリッとロックで飲むのがおいしく、上五島産の「紅さつま」で仕込んだ無濾過(ろか)はフルーティーで食後にもチビチビいけました。

ビジュアルがあまりにも衝撃だったのは、「かっとっぽ」。ハコフグのおなかを割き、その中に身とみそ、ショウガ、ネギなどを練り合わせたものを詰めて焼いた郷土料理です。見た目こそインパクトがありますが、身を箸でこそぎながら、みそを絡めて食べると絶品。濃いめの味付けに、五島灘の黒麹仕込みがつい進んでしまいました。

早春に訪れたときの旬は、ヒラメ、アカハタ、メジナ、真ダイ、アジ、水イカ。どれも絶品。手前は、ハコフグを逆さにして器のようにして食べる「かっとっぽ」。お酒が進む濃厚な味

最終日、上五島を代表する美しいビーチがあると聞いて訪れたのは、蛤浜(はまぐりはま)海水浴場。遠浅で波は穏やか、底が見えるほど澄んだ海は、パンフレットで見ていた以上の美しさです。

海水浴シーズンにはにぎわう蛤浜も、季節はずれは静かでのんびり

ビーチに隣接する「はまぐりデッキ」は、まるで自然の一部のようにしっくりと蛤浜になじむ絶景カフェ。マリンアクティビティーやレンタサイクルも利用でき、海の家のようなスポットとしても親しまれています。

「はまぐりデッキ」は島内外の人に愛されるスポット

このロケーションを一目見て、ランチはここに決定。私は、カラフルなヒオウギ貝を使った「ひおうぎチャウダー」を食べてみました。磯の香りがコクのあるクリームスープと混ざり合い、優しい味に癒やされます。

貝の色が鮮やかなヒオウギ貝を使った「ひおうぎチャウダー」

メニューには、オリジナリティーあるものがいろいろあります。カリカリに揚げたかんころ餅(天日干しにしたサツマイモと餅米で作る、上五島のお菓子)と、イモのペーストをソフトクリームにトッピングした「かんころパルフェ」は、上五島らしいスイーツです。

イモのペーストと揚げたかんころ餅をソフトクリームにトッピングした「かんころパルフェ」

店内は、子連れのファミリーやお一人さまなどの地元の人も多く、和やかな雰囲気。ここは、観光客が島の食材や風景を楽しむだけでなく、島の人にとってもくつろげる場所なのでしょう。

ふと、窓の外を見ると、先ほどまでは海面だったところに、真っ白なビーチが現れていました。いつの間にか、干潮になっていたようです。「海の表情は刻一刻と変わって、ここからの眺めは毎日見ていても飽きることがありません。霧に包まれる朝や、海がオレンジ色に染まる夕暮れどきも美しいですよ」と、オーナーの宇戸淳子さん。

「島の人も旅行者も集えるようなハブスポットになれたらいいなと思っています」と、オーナーの宇戸淳子さん

「はまぐりデッキ」では、朝食も6時半から用意(要予約)されます。朝の海を眺めながらここで朝ごはんを食べ、海でひと遊びしたら、デッキでうたた寝をして、バーベキューのランチを食べ、午後はレンタサイクル(電動アシスト自転車)で周辺を巡る……次回はそんな旅もいいなあと、ひそかに思っています。

新上五島町観光なび

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芹澤和美
芹澤和美(せりざわ・かずみ)
旅行ライター

 編集職を経て、1996年、中国・上海へ短期留学。帰国後、フリーランスの旅行ライターとして活動。主なフィールドは、98年から通い続けているマカオや、中国語圏、アジア、中米、南アフリカ。主に、旅行雑誌やカード会員誌、機内誌、新聞などで国内外の旅行記事や紀行文を掲載。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。

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