温泉につかり、食を楽しむ 霧島の温泉郷で名湯の恵みを享受する

リフレッシュ! 極上旅

急に寒くなった晩秋に旅をしたのは、九州南部の鹿児島県霧島市。関東に暮らしていると遠い場所というイメージもありますが、鹿児島空港を擁する霧島市なら、アクセスが便利で移動時間の長さに悩まされることがありません。急ぎ足なら日帰りもできますが、私は2泊3日でゆったりと街を巡ることにしました。なにはともあれ、満喫したいのが温泉。この街には四つの温泉郷があり、全国トップレベルの泉質数を誇ります。

温泉の恵みをこだわりのパンで楽しむベーカリー

霧島市を旅したいと思った理由の一つが、温泉でした。市内には「霧島温泉郷」「日当山ひなたやま温泉郷」「霧島神宮温泉郷」「妙見みょうけん・安楽温泉郷」という四つの温泉郷があり、それぞれに異なる雰囲気で訪れる人を魅了しています。温泉郷がある街は日本全国の至るところにありますが、注目すべきは泉質のバリエーション。アルカリ性単純温泉から硫黄泉までさまざまな泉質があります。

天降川沿いにある妙見温泉は、平安時代にはすでに温泉が湧いていた歴史ある場所

そんな名湯の地に魅了された歴史上の人物もいます。西郷隆盛は日当山温泉郷に何度も通い、坂本龍馬は新婚の妻のおりょうを連れて霧島温泉郷を旅したといいます。時代を動かした志士たちが癒やされたお湯は、公私ともに忙しい現代人にとっても魅力は大。さらに、今はお湯だけでなく、温泉地ならではのスペシャルな楽しみもあります。

その一つが、日当山温泉郷にあるベーカリー「ブランジェリ・ノエル」の「ひなた山温泉食パン」。この地の源泉水を使って仕込んだ食パンです。色白のパンは驚くほど柔らかく、口にしてみると、ふんわり、もっちり。卵もハチミツも使用していないのに、バターやジャムをつけずにそのまま食べたくなる自然の甘さと食感がありました。

近くにある旅館「湯本庵清姫」の温泉を使った「ひなた山温泉食パン」(左)は、温泉水の成分である炭酸水素塩泉(重曹)の働きでもちもちとした食感。そのほかのパンも国産小麦粉を使用

原材料へのこだわりは水だけではありません。そのほかのパンも、小麦粉や塩、砂糖などの原材料は国産のみに限定し、酵母は自家製と徹底しています。オーナーでありパン職人の津崎清二さんが素材にこだわるようになったきっかけは、長年、パン作りをしてきた自分の手が荒れてしまったことでした。原点に立って原料を見直し、天然酵母についても学び、たどり着いたのが、残留農薬の心配がない国産小麦粉。全国の産地からたくさんの小麦粉を取り寄せて研究し、現在は厳選した4種類を生地に応じてブレンドしています。

オーナーの津崎清二さん、志乃さんご夫妻。パンを作るのは、「パンは化学式。小麦粉と卵はいかようにも変化するんですよ」と話すブランジェリ(パン職人)の清二さん。コーヒー選びや店内のインテリアは志乃さんが手がける

外国産の小麦粉を使う製造法に比べると、コストと手間はかかりますが、食の安全は言わずもがな、風味の違いは一口食べればすぐに分かります。もちもちとした食感といい、食べ応えといい、食欲を誘う香りといい、きっと毎日食べても飽きないでしょう。こんなパンを頻繁に食べられる地元の人がうらやましい!

お店に並ぶパンは、定番や季節商品をあわせて常時20~30種類ほどですが、何百種類ものレシピがあるといいます。思いついたらすぐに記録できるように、寝るときもメモ用紙を傍らに置いているという津崎さん、根っからのパン職人です。

日当山温泉郷の住宅街にあるベーカリーは、いつもお客さんでいっぱい。午後1時頃に焼き上がる食パンは、早々に売り切れてしまうことも(左)。店内には、イートインスペースも

店内にはイートインスペースもあり、購入したパンや手作りのランチボックスと一緒にコーヒーやジュースを楽しむこともできます。北欧スタイルのインテリアが配された店内は、居心地も満点。お店は空港から車で15分ほどなので、旅の最終日に立ち寄って、パンをお土産にするのもよさそうです。ただし、売り切れ次第終了ということをお忘れなく。

「フレッシュな温泉」を実感する川沿いの宿

宿泊したのは、天降川あもりがわ沿いに温泉宿が点在する妙見温泉です。霧島に数ある温泉場からここを選んだ理由は、川沿いに宿が点々と立つこぢんまりとした雰囲気と泉質の良さに魅力を感じたから。土産物店が建ち並ぶにぎわいよりも、お湯そのものを満喫したいと思ったのです。

「温泉は生きもの」というこだわりにかれて宿泊したのは、「妙見石原荘」。源泉100%かけ流し、露天風呂あり……そう聞くと、どこにでもある温泉宿のような気がしてしまいますが、ここは源泉の炭酸ガス成分を逃さないように、貯槽加水もせず、空気に触れさせず浴槽に引いています。つまり、地中からあふれ出す自然のままの自噴泉を楽しむことができるのです。宿泊棟と温泉棟が離れているのは、フレッシュなお湯を楽しんでもらうため。お風呂に入るまでは、いったん屋外に出て温泉棟へ行くのがちょっと面倒に感じていたのですが、温泉に入り、その素晴らしさを実感し、納得しました。

新鮮な湯を楽しめるよう、源泉近くに湯船を用意。温泉棟までのアプローチも気分が盛り上がる

到着してまずつかったのは、川沿いの露天風呂。シュワシュワと肌に当たる温泉の炭酸成分が、疲れを癒やしてくれます。目の前には緑に包まれた山があり、周囲の自然と一体化したような爽快感がたまりません。

川沿いの露天風呂「椋の木」は基本的に混浴で、女性は湯あみ着を着用。混浴とはいえ、宿泊者同士、うまく譲り合っている様子

趣が異なる有料の貸し切り風呂もあります。夕食後に入った「睦実の湯」は、浴槽に仕込まれたライトで炭酸成分が目に見えることが楽しく、翌朝に入った「七実の湯」は、緑とヒノキの浴槽の香りが、しゃきっと心身を目覚めさせてくれました。

すがすがしい緑と浴槽のヒノキの香りを感じる「七実の湯」

温泉につかっておなかがすいたところで夕食の時間です。レトロとモダンがミックスするレストランは全室半個室で、一人旅でもリラックスして食事することができます。

レストラン「石蔵」は半個室。窓の外に天降川を眺めるテーブル席もある

山の恵みから近海の鮮魚まで、地元の食材を使った料理は、味も香りも見た目も季節感たっぷり。盛り付けは印象的なのですが、決して奇をてらうことなく、高級食材のオンパレードでインパクト重視というわけでもなく、一つ一つ丁寧に仕上げられています。霧島が育んだ食材の底力を感じる料理でした。

五感で楽しむ夕食。鹿児島では「山太郎蟹(がに)」と呼ばれるモクズガニと原木シイタケ入りの土瓶蒸しや、地元の清流で養殖したサーモン、クエのからすみ焼きなど、土地の豊富な食材を満喫
黒豚と黒牛の薬膳鍋も秋仕様。乾燥し、せきが出やすい季節にあわせて、保湿効果のある白キクラゲやハスの実、鎮静作用のあるユリ根、慢性のせきに効果的なクコの実をだしに入れている

おなかがいっぱいになったら、夜空を仰ぎながら温泉に入って、ぐっすりと就寝。翌朝ももちろん、朝食前の温泉を満喫しました。朝食は前日に伝えた時間にあわせて、南部鉄の羽鍋で有機米が炊かれます。私は朝食を食べる習慣がなく、ましてや旅館のしっかりとした朝食には食欲が湧かないことがほとんどなのですが、今回は朝から完食。温泉効果か、イワシの丸干しの香ばしい香りにつられたか。炊き立てのご飯は、枕崎産の「ほんがれ節(手間をかけて作られる貴重なかつお節)」と辛味を抑えたワサビで、2杯も食べてしまいました。

朝食も地元の食がたくさん。黒酢入りニンジンジュースで喉を潤した後は、炊きたてのご飯や優しい味の料理で体にエネルギーをチャージ

温泉に地元の食材に、川沿いの清らかな空気。どれもが新鮮、唯一無二で、1泊2日がとても濃厚に感じる滞在でした。温泉とランチ懐石のプランもあり、関東から日帰りするリピーターもいるとのこと。私は次回もゆっくりと、宿泊して温泉三昧をしようと思っています。

ブランジェリ・ノエル
妙見石原荘

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芹澤和美
芹澤和美(せりざわ・かずみ)
旅行ライター

 編集職を経て、1996年、中国・上海へ短期留学。帰国後、フリーランスの旅行ライターとして活動。主なフィールドは、98年から通い続けているマカオや、中国語圏、アジア、中米、南アフリカ。主に、旅行雑誌やカード会員誌、機内誌、新聞などで国内外の旅行記事や紀行文を掲載。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。

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