アシアナ航空のソウル~リスボン直行便が就航し、日本から行きやすくなったポルトガル。首都のリスボンは最も有名な観光都市ですが、地方にも個性豊かな街が点在しています。九州と四国を合わせたほどの小さな面積のポルトガル本土には、旅人を魅了するスポットがたくさん。まだ見ぬ風景を求めて、リスボンから中部地方に足を延ばしました。
海の街ナザレと、国立公園にたたずむ宮殿ホテル
リスボンから北へ車で2時間弱。松林が続く道を抜けると、やがてコスタ・デ・プラタ(銀の海岸)と呼ばれる美しいビーチと、坂道にびっしりと連なる白壁の家々が見えてきました。ここナザレは、ハイシーズンともなればヨーロッパ各地からツーリストがやって来る人気のリゾート地。世界屈指のビッグウェーブがあることから、近年はサーファーがあこがれる場所としても知られています。

徒歩でも十分に巡ることができる小さな街は、海沿いのプライア地区と、高台のシティオ地区に大きく分かれています。まずは、絶景を眺めるシティオ地区の展望台へ。真っ先に迎えてくれたのは、屋台で豆を売るおばあちゃんたちでした。彼女たちはみな一様に、刺しゅうを施したミニスカートにハイソックスというかわいらしいいでたち! スカートは最大7枚を重ねばきするというキュートなこの服装は、ナザレに伝わる伝統衣装です。

そのルーツは諸説あり、かつて漁師の妻たちが夫の無事を願いながら1週間を数えていたとも、虹の色を表しているとも、波の数とも。いずれにしろ、商売上手で陽気なおばあちゃんに、鮮やかなスカートがとてもお似合いです。
高台にあるこのシティオ地区と海沿いのプライア地区は、ケーブルカーを使えばあっという間です。プライア地区に降りて海岸沿いを散策していると、潮風に乗って、どこからともなく懐かしい香りが……。その正体は、アジの干物でした。ビーチには、魚の干物がずらりと干され、それらを売る屋台が連なっていたのです。

近年はポルトガル屈指のリゾート地として知られているナザレも、もともとは素朴な漁村でした。新鮮な魚とさんさんと輝く太陽に恵まれたこの街では、昔からこうして天日干しで干物が作られているのだそうです。白壁にオレンジ色の屋根の家々に異国を感じる一方、大好きな伊豆の漁村を歩いているような、不思議な感覚。ポルトガルを旅していると、こんなことがたびたびあり、それがまた居心地をよくさせてくれます。
美しい海の街で潮風を浴びた後は一転、うっそうとした森が広がるブサコ国立公園へ。リスボンから容易に日帰り旅行ができる距離ではありませんが、ここには夢見るような美しい宮殿ホテルがあるのです。
「ブサコ・パレス・ホテル」は、19世紀にポルトガル王家の夏の離宮として建てられた建物をリノベーションしたラグジュアリーホテル。今回はスケジュールの関係で宿泊こそかなわなかったものの、中部地方の中核都市、コインブラから約30キロと近いこともあり、旅の途中に立ち寄ってランチを楽しむことができました。

青空の下の宮殿を期待しつつも、到着したホテルは濃厚な霧の中。でも、それがかえって荘厳な雰囲気を醸し出し、お城の風格を増しています。館内に足を踏み入れると、繊細な彫刻が施された柱や窓枠、大航海時代の叙事詩や歴史を表現したアズレージョ(絵タイル)が、圧倒的な存在感で迫ってきました。
ダイニングはかつて王様が晩餐会(ばんさんかい)を開いていた場所。そんな豪華な環境でいただくコインブラやブサコの郷土料理もさることながら、ぜひ味わいたいのが、伝統的な製法で作るオリジナルブランドのワインです。ポルトガルを代表するブドウ品種のひとつ、「バガ」を使った赤ワインはしっかりしたコクがあり、この地の名物、仔豚のローストにとてもよく合いました。

離宮の雰囲気といい、ほかではお目にかかれないワインといい、非日常感をたっぷりと味わえたランチタイムでした。
世界で一番美しい図書館に目を奪われる、古都のキャンパス
ポルトガル3大都市といえば、首都のリスボン、続いて北部のポルト、そし中部地方の中核都市コインブラ。コインブラは、リスボンに遷都されるまでポルトガル王国の首都として栄えていた、美しい古都でもあります。
この街の中心的存在となっているのが、世界遺産に登録されている「コインブラ大学」。13世紀の1290年に国王が創立した、由緒正しき学び舎です。創立当初はリスボンに開校し、その後、コインブラとリスボンとの間で移転を繰り返しましたが、16世紀半ばからコインブラに定着しています。

見どころの多いキャンパスは有料で一般開放されています。なかでも最も有名な場所が、18世紀に設立された「ジョアニナ図書館」。植民地のブラジルで採れる金や砂糖で巨額の富を築いた時の王、ジョアン5世が建てたバロック調の建物は、「世界で一番美しい図書館」とも称されています。

蔵書は約30万冊。貴重な本を食い荒らしてしまう虫の駆除に役立っているのが、館内で飼われているコウモリたち。昼は本と本の隙間でじっと眠っていますが、夜になるとせっせと働いているのだそうです。
館内に入り、まず目を奪われるのは、天井のフレスコ画や、金泥細工が施された書架の豪華さ。でも、ジョアン5世は、決して富をひけらかすためにこの図書館を建てたわけではありません。彼は、「知恵と徳が大切」ということを国民に伝えるべく、これほどまでの施設を造ったのだといいます。私はそれまで、「きらびやかな装飾は権力を見せつけるもの」とばかり思っていたのですが、むしろ逆。豊かさ=平和な治世の象徴でもあり、王様は「安定した治世下で安心して勉強しなさい」と言いたかったのです。

図書館の隣にある「サン・ミゲル礼拝堂」も必見です。アズレージョ、祭壇、パイプオルガンなど、16~18世紀に時代ごとの王が増設した空間は、豪華さの中に可憐さも感じさせます。装飾にはその時々の時代背景も浮かび上がって、ポルトガルの歴史をもっと知ってみたいと思いました。

ところで、はるか400年以上も前に、この大学で学んだ日本人男性がいました。かの有名なフランシスコ・ザビエルに見いだされて布教活動をともにし、ローマ教皇にも謁見したほどの人物ですが、慣れない土地での暮らしや長旅の疲労が積もり、若くして亡くなったといいます。日本の教科書に載ることもなく、本名さえ分かっていませんが、その深い信仰心と勉強熱心な姿勢はコインブラで語り継がれ、洗礼名のベルナルドと出身地の鹿児島から、「ベルナルド・デ・カゴシマ」と呼ばれています。大学近くの「新カテドラル」には、彼のお墓もありました。

キャンパスを歩き回り、疲れた体を癒やしてくれたのは、甘くてカラフルで小さなお菓子、コンフェイト。フェンネルシードを核にしてシロップをかけながら結晶化させて作るポルトガルの伝統菓子で、金平糖のルーツでもあります。

16世紀に、織田信長が献上されたコンフェイトを食べていたく気に入ったというのは、有名な話。現在は簡易的にザラメを核にして作る店が多いなか、コインブラのパティスリー「ブリオザ」では、昔ながらの製法で作られたものが売られています。和菓子の金平糖よりしっとりとした、キャラメルのようなコンフェイトは、異国の風味の中に懐かしさが入り交じる味でした。
【オススメの関連記事】
日本からぐっと行きやすく! 郷愁を誘うポルトガルの美しい街へ
リフレッシュ! 極上旅