女性作家の美しい手仕事を、天草旅のお土産に

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熊本・天草にほかの地域にはない独特の風情を感じるのは、今から450年以上も前、この地にキリスト教が伝来するとともに、西洋の文化がもたらされたからこそ。16世紀中頃にポルトガル人宣教師が訪れて以降、活版印刷機で本が出版されたり、パイプオルガンが製作されたりなど、天草では南蛮文化が開花しました。そんな天草ならではのヒストリーが表現され、しかもかわいらしくて美しいクラフトがあります。女性作家がていねいに作るアイテムは、日常使いもしやすく、旅のお土産にもぴったりです。

小さくて美しくて丈夫。世界にひとつの天草ボタン

そこに描かれているのは、教会に見守られる小さな漁村や、のんびりくつろぐ猫、海に出ていく船……。天草の日常風景がぎゅっと凝縮したかのような、かわいらしいアイテムは、「天草ボタン」。作家のINOUE  YUMIさんが手がける、磁器製のボタンです。

ブランド名は「+botão(ボタオ)」。天草と歴史上、つながりが深かったポルトガル語でボタンを意味するbotão(ボタオ)に由来する

天草ボタンの素材は天草陶石。この地で採掘される、陶磁器の原料となる粘土の鉱石です。天草の陶石は、埋蔵量と品質で日本一を誇る特産品。江戸時代の才人・平賀源内も、天草陶石を「天下無双の上品」と絶賛したほどのクオリティーで、有名な有田焼をはじめとする焼き物の産地で使われています。

繊細な絵付けはハンドメイドならでは

天草ボタンは、そんな天草陶石の粘土で型どり、素焼き、下絵付け、本焼きという長い工程を経て完成します。窯元で仕上げに行う本焼き以外は、全てYUMIさんによる手作業。ひとつひとつに、作り手の思いとこだわりが込められています。

デザインはかわいらしくも繊細で、「これほど小さな面にどうやって絵を描いているの?」と不思議に思うほど。磁器製なので焼き上がりが収縮するのは当然ですが、その日の湿度や気温によって、収縮度合いが異なるといいます。小さい物だけに、その差は影響大。「焼くと色が変わるし、描く筆の速さや筆圧も仕上がりに影響します。完成を想像しながら描かなければいけないけれど、それが楽しいんです」と、YUMIさん。

温度や湿度も考慮しながら、形を作ったり、絵付けをしたり。完成までには少なくとも1週間はかかる

天草ボタン誕生のきっかけは、かつては東京のアパレル業界で働いていたYUMIさんが故郷の天草に帰り、洋服のデザイナーとして活動を始めようとしていたときのこと。強度と白さが特徴の天草陶石を使ったボタンを作ってみようと思いついたのだといいます。

下絵を付けたボタン。デザインのモチーフは、「天草に暮らしていて、ふだん感じていることや目にしているもの」なのだそう

細やかな絵付けはもちろん、完成するまでの過程を知ると、「天草ボタンを付けた洋服は扱いが難しそう」と思ってしまいます。ところが、YUMIさんいわく、「洗濯機でガンガン洗っても大丈夫!」とのこと。天草陶石が丈夫であるのはもちろんのこと、何十年も使ってほしいとの思いから、ボタンの付け心地やはめ心地を考えて形を作り、穴は糸が引っかからないよう処理を施しているのだそうです。

「石山離宮五足のくつ」のセレクトショップでは、「天草ボタン」を使ったピアスや髪留めなどを販売

髪留めやピアスなどのアクセサリーに加工した「天草ボタン」もあります。いくつでも欲しくなってしまいますが、手仕事ゆえ大量生産はできず、どこでも手に入るものではありません。だからこそ、大切にしたくなる天草ボタンは、天草下田温泉のホテル「石山離宮 五足のくつ」のセレクトショップと、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産となっている﨑津地区の寿司店「海月」で購入可能。私は「石山離宮 五足のくつ」で買ったピアスを大切に愛用しています。

現代の天草によみがえった南蛮渡来のバティック、天草更紗

16世紀、ヨーロッパから来航していた南蛮船が天草に伝えた、更紗さらさ(文様染めの布)。舶来品である更紗に、天草の人々は島の花鳥風月をかたどった柄を融合させ、この地の文化へと発展させました。鎖国時代には、国外へ追放されたキリシタンたちが、望郷の念を布の裏にこっそりと模様風に記した「祈りの更紗」があったという説も。天草更紗はその後、衰退を繰り返し、昭和半ばには消滅してしまったといいます。

そんな天草の文化を復興し、現代風にアレンジしたのが「平成の天草更紗」。イチジク、聖杯、西洋の古楽器・・・・・・。天草の情緒を吹き込んだエキゾチックな柄に心が奪われます。

一見すると日本のものではないような、エキゾチックな情緒が魅力の「平成の天草更紗」

手がけるのは、「染元 野のや」の染め師、中村いすずさん。天草更紗には、きちんとした資料が残されていません。草木染め師でもある彼女は、天草更紗の最後の染め師の過去帳や、残っていた端切れの模様、年配者のかすかな記憶などを頼りに、ようやく復刻にたどり着いたといいます。

「どの時代の染め師たちも、自分が見た風景や風土を、流行や風潮にうまくマッチさせながら、柄に表現してきました。私も、自分が感じた天草を柄に託しています」と中村さん。

型を作るところから、中村さんが手がける

築100年の古民家を利用した工房兼ショップを訪ねると、天草の世界観を表現した天草更紗がずらり。天草更紗を使った小物も人気で、私も愛用しています。時を経てよみがえった南蛮模様の美しさもさることながら、私が天草更紗の小物を使いたくなる理由は、機能的で、裁縫がとても丁寧で丈夫だから。使うたび、女性目線で使いやすさを考えているなあと実感します。

がま口型ポーチは、マチが広く化粧ポーチに便利

私が使っているのは、ポーチにブックカバーに名刺など、日常で重宝するものばかり。ときどき、「そのデザインはどちらの?」と聞かれるのがひそかな自慢です。天草更紗は、「染元 野のや」のほか、「石山離宮 五足のくつ」のショップでも販売しています。

ポーチやペンケース、トートバッグなど、日常使いできるものがたくさん
畳敷きの上にアンティークの家具が置かれたショップで、お土産探し

工房の1階は「野のや 町屋カフェ」となっていて、地元食材を使ったスイーツや手作りのランチがいただけます。旅の途中、ここで一息いれながら、柄に託されたストーリーを中村さんにうかがったり、お土産を探したりするのが、私の天草旅の楽しみとなっています。

天草ボタン
石山離宮 五足のくつ
天草更紗 染元 野のや

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芹澤和美
芹澤和美(せりざわ・かずみ)
旅行ライター

 編集職を経て、1996年、中国・上海へ短期留学。帰国後、フリーランスの旅行ライターとして活動。主なフィールドは、98年から通い続けているマカオや、中国語圏、アジア、中米、南アフリカ。主に、旅行雑誌やカード会員誌、機内誌、新聞などで国内外の旅行記事や紀行文を掲載。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。

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