採れたての野菜がごちそうに! 鶴岡の農家レストランへ

リフレッシュ! 極上旅

泊3日で羽越を巡る旅、新潟県村上市を後にして向かったのは、山形県鶴岡市です。特急いなほ号で約1時間。電車の窓に日本海を眺めながら移動する時間も、旅情を誘います。鶴岡を訪れようと思った一番の理由は、「食」。ユネスコの「食文化創造都市」に認定されている食文化は、他にはないオリジナリティーにあふれています。

心と体を育てる食材を食べる喜び

以前から体験してみたいと思っていたもののひとつに、鶴岡の食があります。ここは日本で唯一、ユネスコの「食文化創造都市」に認定されている街。世界に二十数都市しかない「食文化創造都市」に鶴岡が選ばれた理由は、ただ「おいしい」「食材が豊富」というだけではありません。

対馬暖流がもたらす海の幸や、庄内平野が作るお米や野菜が豊富なことに加えて、出羽三山がそびえ、交通が不便だったことから、保存食や醸造が発達し、独自の食文化が築かれたといいます。

鶴岡の特産品といえば、「だだちゃ豆」。種をほかの地域に持っていって育てても、同じ味にはならないのだそう。つまり、ここだけで生まれるおいしい味覚

難しいことを考えるより、その土地に足を運んで食べてみるのが一番! そんな食いしん坊の私を迎えてくれたのは、一面に広がる“だだちゃ豆”の畑でした。枝豆に似ているようで、より甘味が強いだだちゃ豆は、鶴岡を代表する特産品のひとつです。ほかにも、一帯では50種類以上の在来作物(気候や土壌など地域の特色を生かしながら代々受け継がれてきたもの)が大切に育てられています。

農家のお母さんが作る家庭料理がおいしい「知憩軒」

知憩軒ちけいけん」は、そんな豊かな風景に溶け込むようにして建つ農家レストラン。ランチメニューは1種類のみで、畑で採れた野菜を使った料理や昔ながらの保存食が、その日のお膳に並びます。

「採れる場所でそのときに採れたものが旬」と長南さん。畑で採れたばかりの食材がごちそうになる

庭から入る風が心地いい古民家でいただいたのは、高野豆腐の含め煮や切り干し大根の煮物、小松菜のけんちん(油で炒めた後、だし汁を加えて汁気がなくなるまでさらに炒め、醤油しょうゆで仕上げる料理法)、身欠きにしんとジャガイモの甘露煮など。見た目に派手さはないけれど、ていねいに手作りされた料理からは、食材を育てた人や調理する人の温かな心が伝わってきます。

おいしくて、栄養もぎゅっと凝縮している保存食のすばらしさを実感

ひたすら、「おいしい!」を連呼して食べる私に、オーナーの長南ちょうなんみつさんが、土地の食のことをいろいろと教えてくれました。「昔は今のように交通が便利ではなかったから、海が近いのに簡単に行くことはできなかったの。だからこそ、魚の乾物や塩漬けの文化も発展したのよ。保存食は、厳冬期に野菜の収穫量が減るなか、家族においしく栄養があるものを食べさせたいという女性の思いから生まれた工夫ですね」

季節の風が心地よい古民家でランチ。営業は11時半~14時(13時半ラストオーダー)

便利な生活道具も、一年中野菜が出回る流通システムもない時代、昔の農家の女性は、今の私たちよりきっと忙しかったと思います。そんななかで生み出された知恵や工夫に驚かされます。ご自身も農家である長南さんの「命は食。手作りの料理は心と体をつくってくれるもの」という言葉が、心に響きました。

野菜って奥深い! 食材の底力を教えてくれるレストラン

ぁ」も、食の大切さを教えてくれるレストランです。お店は、目の前にだだちゃ豆の畑が広がる古民家が目印。ここでは、代々農家を営む小野寺おのでら紀允のりまささんが、畑の管理から料理まで一貫して手掛けています。

建物は、ひいおじいちゃんが建てた築130年の古民家

小野寺家は、30年も前から食の安心を考え、無農薬・無化学肥料の野菜作りを手がけるようになったという、野菜作りのプロフェッショナル。自家製の肥料を研究し、土作りにこだわった田畑で、お米や野菜の栽培に励んでいます。

そんな野菜を知り尽くした小野寺さんが作る料理は、まさに今、世界の潮流となりつつある「Farm to Table(その日収穫された食材が一貫した安全管理によって、食べる人へ届けられる)」。小野寺さんが「野菜も米も、鮮度がおいしさの決め手です」と話すように、料理から食材を考えるのではなく、その日にある食材から料理を考えるのだそうです。

この日のメニューは、じゃがいものナムル、ナスとオクラとズッキーニの揚げびたし、キュウリとシソのえ物、ナスの鍋焼き甘味噌みそ和えといった野菜料理のほか、さけの味噌チーズ焼き、庄内豚のしゃぶしゃぶ、オカラのタルトケーキと、フルコース。小野寺農園が育てた有機栽培のお米は、ファンが多い定番メニューです。

野菜料理に加え、庄内豚や鮭も使う。庄内豚のしゃぶしゃぶは、採れたてのツルムラサキとの相性が抜群

お手製は野菜とお米だけではありません。塩こうじや、地元産の大豆と自家栽培のお米から作った味噌など、野菜にマッチする調味料も手作りしているのだそう。

いただいた野菜料理はしっかりとした味わいがあり、かといってアクが強くなく、食べるほどに「旬の野菜っておいしいんだなあ」と、感動すら覚えるほどでした。「さすが、夏野菜!」と思ったのですが、「これから寒くなれば、大根や白菜などもおいしい季節ですよ。冬は野菜が凍らないように自ら糖度を上げるから、ぐっと甘みが増すんです」と、小野寺さん。

家族で有機の米、枝豆、野菜づくりを手がける小野寺農園の小野寺紀允さん。1日2組限定の宿泊施設「農家の宿 母家(おもや)」と「東屋カフェ ふぅ」も併設

私はもともと野菜が好きですし、スーパーではできるだけ旬のものを買うようにしています。でも、これほど、野菜を身近に、そして大切に感じたことはありません。野菜の奥深さを知った、すてきな食体験でした。

菜ぁ
日本海きらきら羽越観光圏

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芹澤和美
芹澤和美(せりざわ・かずみ)
旅行ライター

 編集職を経て、1996年、中国・上海へ短期留学。帰国後、フリーランスの旅行ライターとして活動。主なフィールドは、98年から通い続けているマカオや、中国語圏、アジア、中米、南アフリカ。主に、旅行雑誌やカード会員誌、機内誌、新聞などで国内外の旅行記事や紀行文を掲載。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。

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