江戸時代の文化を舌と目で楽しむ、城下町・村上

リフレッシュ! 極上旅

夏の終わり、ふと思い立って向かったのは、羽越うえつ。現在の福井、富山、新潟、山形、秋田の5県に当たるエリアです。今回の旅ではこのうち、2泊3日で新潟県村上市、山形県鶴岡市・酒田市の3都市を巡りました。「車がないと移動が難しそう」というイメージもあるエリアですが、レンタカーを借りなくても、街巡りは十分に可能。ペーパードライバーの私も、存分に晩夏の羽越を満喫しました。

村上でなければ食べられない、貴重な鮭料理

東京から新潟まで上越新幹線で約2時間。さらにそこからJR羽越本線に乗り換え、村上まで約1時間。自宅から新潟県最北部まで、思いのほかスムーズに到着することができました。

まずはランチ。村上の名物といえば、さけ料理です。街を流れる三面川みおもてがわは昔から鮭漁で知られ、今も秋になるとたくさんの鮭が遡上そじょうします。鮭というと、焼き鮭ぐらいしか思い浮かばなかったのですが、村上では食べ方がとても豊富。その料理法は100通り以上もあると言われています。

街を流れる三面川は鮭漁が盛ん

鮭料理専門店の「千年鮭 井筒屋」は、かつて旅籠はたごだった建物を利用した風情あるお店。こちらでさまざまな鮭料理をいただきました。

鮭に粗塩をすり込み、冷たい風の中に3週間さらして発酵、熟成させた「鮭の塩引き」、さらにそれを自然の風で1年熟成させたものを薄くスライスし、お酒をかけて食べる「鮭の酒びたし」、鮭の切り身を秘伝のかえし醤油じょうゆ(醤油とみりんと砂糖を混ぜて温めた調味料)に一晩漬け込んだ「鮭の焼漬け」……。どれもうまみ調味料を使わず、素材のおいしさがしっかりと引き出されているからか、鮭尽くしなのに飽きることがありません。

松尾芭蕉の宿泊地として知られ、かつて旅籠だった建物を利用した「千年鮭 井筒屋」でランチ。うまみ調味料や保存料を一切使用しない鮭料理のバリエーションに、鮭の概念が変わる

「鮭の塩引き」を発酵させた後に低温熟成した「鮭の生ハム」は、燻製くんせいとは違ったまろやかさがあり、ワインにも合いそう。平安時代、都に献上していたと言われる幻の料理を再現した「鮭のきそ」は、日本酒が欲しくなる味わいでした。もちろん、契約農家が育てたお米も食が進みます。とくに、七輪で焼いた鮭は皮までおいしくて、ご飯をお代わりしてしまうほどでした。

土鍋で炊いたご飯は契約農家の栽培。締めは、村上茶やかつおぶしなどで作った特製だしをかけて食べるお茶漬け

この豊かな鮭文化を語るうえでキーパーソンとなるのが、江戸時代中期の中級武士だった青砥あおと武平治ぶへいじ。三面川にいる鮭を取れるだけ取っていた時代、鮭の母川回帰性に着目し、保護して増やすことを提案した人物です。彼の案は、三面川に支流を造り、本流ではこれまで通り鮭を取りつつ、支流で鮭の遡上を止めて産卵させるという方法でした。この案は採用され、鮭の自然増殖事業は大成功、その恵みは今も続いています。200年以上も前のサステナビリティー(持続可能性)に対する高い意識に驚かされます。

村上の鮭文化を紹介する「イヨボヤ会館」の種川観察窓。秋になれば、必死の表情で遡上する鮭を見ることができるかも

村上では、鮭は骨や内臓にいたるまで、余すところなく食べます。その理由は、「たくさん取れるから」ではなく「大事に食べたいから」。命を大切にいただく、すてきな文化だなあと思います。

息遣いが感じられる町屋通りを散策

村上は、1620年に整備された城下町。日本全国に旧城下町は残されていますが、ここは、その四大要素である城跡、武家屋敷、町屋、寺町が残る、希少な場所です。旧城下町一帯はコンパクトで、徒歩で容易に巡ることができます。

古くから「安善小路」と呼ばれる小路。まるで映画のセットのような風景が日常にある

ランチの後は、町屋が残る通りをぶらりと散策してみました。風情たっぷりのこの辺りは、決して城下町テーマパークではありません。格子窓や古瓦などが風情を醸し出す建物は、今も店舗や住居として利用されています。人の息遣いが感じられる本物の街だからこそ、往時の風景もありありと思い浮かんでワクワクします。

通りはくねくねと曲がりくねっているし、なかには2度、直角に曲がっているところもあって迷子になりそうですが、これは、敵の侵入を防ぐための工夫。よく見ると、建物が道に対して斜めに建っているところもあります。これは、城下で敵に遭った時、家の陰に隠れて迎え撃つために設けられたものなのだそう。

江戸時代から明治にかけて造られた風情ある建物が、今も店舗として使われている

この街並みのなかに、鮭の加工品店、「千年鮭 きっかわ」があります。趣ある建物の中に入ると、天井のはりから鮭がるされ干される、昔ながらの風景に出会いました。加工された鮭のおなかの一部がつながっているのは、「鮭に切腹をさせてはならぬ」という、いかにも城下町・村上らしい習慣であり、鮭に感謝する心がうかがえます。

明治時代に建てられた店舗奥の土間で鮭を干す光景に圧倒される

村上は鮭に加えて、酒も有名な街。「大洋酒造」では、朝日連峰の雪解け水を水源とし、数百年かけて自然ろ過された仕込み水を使って酒造りをしています。試飲した純米酒は、すっきりとしていて私好み。直売限定の蔵出し原酒は、「冷蔵で持ち帰らなくちゃ」と思っていたのに、その日の晩、あっという間に飲み終えてしまいました。

「大洋盛」の限定蔵出し原酒は、瓶に詰めた後にラベルを貼ってもらえる

さて、村上を後にし、次の目的地の鶴岡へ。移動途中の電車からは、美しい海岸線が見えました。なかでも鳥越山から狐崎まで約11キロメートルにわたる海岸線は「笹川流れ」と呼ばれ、風光明媚めいびなことで知られています。次に来る時には途中下車してJR桑川駅(村上市桑川)に立ち寄り、すぐ目の前の夕日スポット「サンセットブリッジ」にも立ち寄ってみたいと思います。

日本海きらきら羽越観光圏

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芹澤和美
芹澤和美(せりざわ・かずみ)
旅行ライター

 編集職を経て、1996年、中国・上海へ短期留学。帰国後、フリーランスの旅行ライターとして活動。主なフィールドは、98年から通い続けているマカオや、中国語圏、アジア、中米、南アフリカ。主に、旅行雑誌やカード会員誌、機内誌、新聞などで国内外の旅行記事や紀行文を掲載。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。

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