モスクワ芸術の旅 帝国時代の建物から猫サーカスまで

リフレッシュ! 極上旅

猛暑続きの日本の夏を抜け出して出かけた先は、ロシアの首都・モスクワ。アジア諸国より遠いものの、昼のうちに到着する直行便(所要約9~10時間)があるので、比較的、旅行プランが立てやすいデスティネーションです。避暑地のように空気がからっとしていて過ごしやすく、日没時間が日本より遅くて1日を有効に使えるこの時期。短い旅でも存分に街を満喫できます。

ロシアの歴史を物語るホテル

世界地図で見れば、決して日本から遠くないのに、心理的に遠さを感じて、なかなか足を運べずにいた街がありました。それは、モスクワ。「ビザの取得が面倒」というのが唯一の理由でしたが、ふとしたことから旅が決まり、とんとん拍子に準備が進みました。

モスクワの郊外にあるクスコヴォ庭園。「モスクワのヴェルサイユ」と呼ばれ、地元の人たちに人気のスポット

長年の懸念事項だったビザは、取得代行の専門会社にオーダーし、思いのほか簡単に取得できました(パスポートを最長2週間、預ける必要があります)。飛行機は直行便を利用。1日目の夕方に市内へ入り、中3日を過ごし、5日目の昼過ぎに市内を出発する、無理のないスケジュールです。

中心部の移動は地下鉄が便利
ソ連時代に建設された地下鉄。駅構内の豪華けんらんな内装や社会主義リアリズムを表現した装飾は必見

言葉も分からず土地勘もないので、ホテルはアクセスしやすく、定番観光地の「赤の広場」と「クレムリン」まで徒歩圏内であることを念頭に検討。さらに、外国の資本ではなく、ロシアの歴史とともに歩んだホテルを体験してみたくて、「ホテル・メトロポール」を選びました。

モダニズム建築様式の建物が美しい「ホテル・メトロポール」

ロシア帝国時代の1905年に誕生したこのホテルは、存在そのものがロシア激動の歴史ともいえます。ロシア革命の指導者だったレーニンが演説を行った場所でもあり、毛沢東やトルストイなど多くの政治家や文化人が宿泊者名簿に名を連ねてきました。どれだけ高額なのかと思いきや、他国の首都にある同等のホテルに比べ、かなりリーズナブルです。

吹き抜けの廊下には、ホテルにゆかりのある著名人の写真がずらり

建築や歴史もさることながら、このホテルでもうひとつ、体験してみたかったことがあります。それは、「ロシアで最も豪華な朝食」といわれる朝食ブッフェ。これを食べると決めた日は、早起きしてジムで運動し、張り切ってダイニングへと向かいました。

ステンドグラスの天井で覆われた朝食会場では、ハープの生演奏を聴きながら豪華なビュッフェを

そこに並んでいたのは、スパークリングワインにレッドキャビア、イクラ、ハムにチーズにロシア名物のハチミツなど、たくさんの食材です。朝食会場はステンドグラスの天井で覆われ、中心には噴水、そしてステージではハープの演奏が。朝からディナーのようなゴージャスぶりでした。

この歴史あるホテルを拠点に、まずは「赤の広場」と「クレムリン」へ。ソビエト連邦時代も今も、ずっと政治の中枢部であり、同時に世界遺産としてにぎわう観光スポットです。定番観光地というと凡庸なイメージもありますが、これがなかなかの見ごたえ。クレムリンは赤い壁で囲まれた中に、宮殿や教会、博物館、大統領公邸が群立し、まるで一つの街のような壮大さです。

象徴的な赤い壁と20の塔に取り囲まれているクレムリン。見学する建物によってチケットが異なり、初めてだと迷うことも。見学は時間に余裕をもって
赤の広場に面して立つ「聖ワシリー大聖堂」。ネギ坊主の形をした屋根がかわいらしい

滞在中、気温は低く、ずっと曇り空だったのですが、真っ白な空はキャンバスのようで、カラフルな大聖堂や重厚な建物がよく映えます。旅先で天気は気になるものですが、曇り空も、これはこれでいいものだなぁと思いました。

猫の曲芸? 世界で唯一の猫サーカス

オペラにバレエ、サーカス……と、ロシアは舞台芸術が盛んな国。モスクワといえば「ボリショイ劇場」が有名ですが、私が一番に見たいと思っていたのが、猫のサーカスです。

「ククラチョフ猫劇場」は、ボリショイサーカスのトップクラウン(道化師)だったユーリー・ククラチョフさんが、1990年に設立した世界唯一の猫劇団。現在は息子のドミトリーさんを筆頭に、パフォーマーと猫たちが息の合ったステージを見せています。

ロシアが誇る猫サーカス「ククラチョフ猫劇場」

私は長年、雑種の猫と暮らしていたので、猫の性格をよーく知っています。気まぐれで自分に正直で飽きっぽい彼らが芸をするなんて! 当日券をホテルで予約し、半ば信じられない気持ちでシアターへと向かいました。こぢんまりとした会場は、ちびっ子連れの家族でほぼ満席。ステージとの距離が近く、ほのぼのとした雰囲気です。

猫好きにはたまらないステージ

ニャンコたちによるパフォーマンスは、障害物ジャンプや綱渡りをしたり、棒をよじ登ったりと、バラエティー豊か。演技をしているというよりは、じゃれているようにも見えます。ときには途中で舞台袖に帰ってしまう子もいるけれど、それも猫らしくてほほえましい。

足の間をするりするりとすり抜ける演技

猫劇場と聞いて、「どうやって猫を調教しているんだろう?」と不思議でなりませんでしたが、舞台を見て納得。無理やり芸を教え込ませているのではなく、猫を楽しませているように思えたからです。ここにいるニャンコたちが芸達者であるのはもちろんですが、猫と人との信頼があるからこそ、完成するステージなのでしょう。2幕からなるステージは、かたときも目が離せない、楽しく心が温まる時間でした。

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芹澤和美
芹澤和美(せりざわ・かずみ)
旅行ライター

 編集職を経て、1996年、中国・上海へ短期留学。帰国後、フリーランスの旅行ライターとして活動。主なフィールドは、98年から通い続けているマカオや、中国語圏、アジア、中米、南アフリカ。主に、旅行雑誌やカード会員誌、機内誌、新聞などで国内外の旅行記事や紀行文を掲載。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。

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