小さなマカオだから楽しみたい! 個性派ミュージアム探訪

リフレッシュ! 極上旅

 街中にアートがあふれるマカオは、ミュージアムも充実しています。それらの建物や展示物は、東洋と西洋が入り交じるマカオらしさを感じるものばかり。たとえ芸術の知識がなくても、十分に楽しめます。マカオは小さな街だから、観光の合間に立ち寄るのも簡単だし、1日でミュージアムホッピングをすることだって可能。ぶらりとアートスポットを訪ねる散策も、マカオ旅の醍醐味だいごみです。

雰囲気も楽しみたいシネマのミュージアム

 ピンク色の洋館の向こうに、世界遺産の「聖ポール天主堂跡」の壁がのぞく小路「戀愛巷」。その名もスイートなこの通りは、最近はインスタスポットとしても知られています。この通りの主役とも言えるすてきな洋館こそ「戀愛・電影館」。アジアをはじめとする世界の映画をテーマにしたミュージアムです。

 ポルトガルの面影を残すマカオらしいこの洋館は、築約100年の旧校舎をリノベーションしたもの。館内に入ると、外の喧騒けんそうがうそのように、静かな空間が広がっていました。庭に出てみると、聖ポール天主堂跡が。いつも観光客でごった返している世界遺産を、変わった角度から眺めることができて、うれしくなります。

インスタスポット「戀愛巷」。世界遺産の「聖ポール天主堂跡」が浮かび上がる、印象的な夜景

 資料室には、映画に関する書籍やパンフレットなどが保管・展示されています。なかでもかれたのはアジアの名作コーナー。香港の王家衛(ウォン・カーウァイ)に、台湾の巨匠、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)や蔡明亮 (ツァイ・ミンリャン)、李安(アン・リー)……。アジアの映画が大好きな私は、懐かしいパンフレットの数々に心が躍ってしまいました。1990年代から2000年代にかけて、なんど映画に触発されて、アジアを旅したことか。

窓や壁の装飾に学校だった頃の面影を残す館内(左)には、洋書が並ぶ書棚(右)が

 ここは単に、映画の資料を展示しているだけではなく、映画を通じた文化の発信地としての役割も担っています。年間を通してさまざまなイベントを開催していますが、なかでもユニークなものが、毎年恒例のフェスティバル。期間中はテーマを決めていくつかの作品が上映され、映画鑑賞とともにさまざまな企画が催されています。たとえば、テーマが「食」であれば、食べ物をテーマにした映画を見て、ストーリーに登場するお酒を楽しんだり、ベーカリーまで足を運んだりと、プログラムはなかなか独特です。

「食」をテーマに映画を上映したイベントでは、レストランのメニューのようなパンフレットを用意

 ここはマカオで唯一のインディーズ系映画のシアターでもあります。66席のミニ上映室は、映画好きにはたまらない空間。週末は、日本ではまず観ることができないマカオのインディーズ映画を無料で上映しています。マカオの映画はまだまだマイナーですが、近年は監督が増え、盛り上がりを見せているのだとか。数年後は、マカオ映画のムーブメントが起こるかもしれません。

かわいらしいミニシアター。上映内容は公式サイトやFacebookでチェック

 とはいえ、言葉が分からないと、作品を楽しむのは少々難しいかもしれません。でも、その独特な雰囲気を感じるだけでも、アーティスティックな気分に浸れるはず。マカオの小さなカルチャースポットとして、ぜひ訪ねてみたい場所です。

マカオ人アーティストだからこそ生み出せる作品

 ミュージアムだけでなく、マカオは学校やギャラリーなど、いたるところで展覧会が開催されています。今回の旅の間には、「マカオ理工学院」のホールで、開校20周年として、劉善恆(シーズン・ラオ)さんのインスタレーション(空間芸術)展が開催されていました。手すきの和紙に写真をプリントし、水墨画のような風合いを醸し出す、個性的な現代美術作品の数々が展示されていました。

Hokkaido,Japan/Year:2016(作:劉善恆)

 会場の中央には、凍った池を埋め尽くすはすを表現した和紙と石砂で構成されるインスタレーション「氷蓮図」が。水墨画のような、日本画のような、西洋のモダンアートのようなその作品は、なんとも不思議で、観るほどに心が引き込まれます。

 ラッキーなことに、この日はラオさんにお話をうかがうことができました。その作品には、しっとりとした雪景色が多く使われています。ラオさんいわく、雪、つまり白く見える部分は余白。

 「どんな場所にも歴史があって、過去の面影を残しています。でも、現代の都市社会は、人工的なモノや情報であふれ、私たちは目の前を見るのに必死になっていますよね。余白は、過去や未来に思いを巡らせる“心の余裕”を与えてくれると思うんです」

「氷蓮図」は、日本の東北で見た、雪降る蓮池からインスピレーションを受けた作品

 ラオさんは1987年、マカオ生まれのマカオ育ち。ポルトガルから中国への返還、再開発と、マカオが劇的に変化する時代に育ったからこそ、こんな独特のアートが生み出せるのかもしれません。

ラオさんの現在の拠点は主に京都。日本語も堪能で、日本や世界各地で個展を開催中

 もうひとつ、滞在中は素晴らしいマカオ限定アートに触れることができました。それは、マカエンセ(ポルトガル人の血をひくマカオ人)の劇団によるパトゥワ語の劇。パトゥワ語とは、マカエンセがかつて話していた言葉です。ポルトガル語や広東語、そしてポルトガルの船がたどった各地の言葉が混ざって生まれた独自の言語だといわれています。今は話せる人も少なくなり、劇には字幕(英語、中国語、ポルトガル語)が用意されています。

マカエンセたちによるパトゥワ語の劇。アマチュアとは思えない完成度!

 その年の社会問題をテーマとしたコメディーは、風刺あり、皮肉あり、ちょっとほろっとさせるシーンあり。私はもちろんパトゥワ語が理解できませんが、テンポのよいストーリーは、字幕を追いながらも存分に楽しむことができました。

 狭いマカオで独自の文化を守り、楽しさを見いだし、才能を発揮するマカエンセたち。こんなところにも、マカオアートの底力が垣間見られます。

戀愛・電影館
シーズン・ラオ
マカオ政府観光局

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芹澤和美
芹澤和美(せりざわ・かずみ)
旅行ライター

 編集職を経て、1996年、中国・上海へ短期留学。帰国後、フリーランスの旅行ライターとして活動。主なフィールドは、98年から通い続けているマカオや、中国語圏、アジア、中米、南アフリカ。主に、旅行雑誌やカード会員誌、機内誌、新聞などで国内外の旅行記事や紀行文を掲載。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。

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