民芸、写真、建築……鳥取の美しいアートを体感!

リフレッシュ! 極上旅

 その土地で愛される窯元や雑貨店を巡るのは、旅の楽しみのひとつ。鳥取では、「民芸」の意味を初めて理解したり、ユニークな写真芸術に触れたりと、アートを満喫することができました。民芸品に写真に建築。自然豊かな風景のなかで、それらの美しさはいっそう際立ちます。

使ってこそ命が宿る、暮らしのなかの美、「民芸品」にうっとり

左から「鳥取民藝美術館」「鳥取たくみ工芸店」「たくみ割烹店」。「たくみ割烹店」は、民芸品を使って食事を楽しんでもらおうと、吉田璋也が開いた店

 鳥取を旅することになって、初めて名前を知ったのが、吉田璋也しょうや(1898~1972年)。医師として働きながら民芸運動に深くかかわり、鳥取民芸の流れを作った人物です。

 民芸運動とは、思想家、柳宗悦やなぎむねよしが起こした社会運動。それまでは芸術的価値がないとされてきた庶民の生活道具のなかに美的価値を見いだそうという、画期的なムーブメントです。

 吉田璋也は医学生時代から柳宗悦の知遇を得てともに民芸運動に参加し、「民芸の美を日常に取り入れること」に生涯をささげました。職人の指導→デザイン→生産→流通→販売→消費にいたる組織を作り上げるなど、先駆的なその活動は、人々に強烈な刺激を与えたことでしょう。戦時中、軍医として中国に赴いているときも、現地で民芸運動をしていたというから、相当な情熱家だったことがうかがえます。

 民芸=地方のお土産物屋さんに売っているもの。私はそれまで、そんなイメージを持っていたのですが、鳥取で吉田璋也の足跡を知り、がらりと印象が変わりました。そもそも、「民芸」は古くからある言葉ではありません。柳宗悦らが創作した「民衆的工芸」の略語で、「実用的でありながら、心が豊かになる美しさを兼ね備えた工芸」という意味があります。

職人たちがモノづくりの参考にできるようにと、吉田璋也が開設した「鳥取民藝美術館」。建物は国の登録有形文化財

 その世界観を知りたくて、鳥取駅のほど近くにある「鳥取民藝みんげい美術館」を訪れました。吉田璋也が1949(昭和24)年に作り、1957(昭和32)年に建てられた建物は、モルタル塗りに漆喰しっくい仕上げの土蔵造りという堂々たる構え。館内に入ると、地元の古い民芸品をはじめ、世界各国から収集した美しい道具に迎えられます。

企画展も開催され、展示内容は半年ごとに変わる
ランプシェードや電気のスイッチカバー、食器。使われてこそ美しい民芸品たち

 電気のスイッチカバーにランプシェード、思わず使ってみたくなるデスク……。それらからひしひしと伝わってくるのは、「暮らしの美」。使う人のことを思って作られた誠実な手仕事は、簡素ながらもりんとし、清々すがすがしさを感じます。流行だけを追うもの、ただ高額というだけで買い求めたものにはない、真の美しさに満ちていました。

「鳥取たくみ工芸店」には、日常で使いたくなる器がずらり

 この美術館に隣接しているのが、「鳥取たくみ工芸店」。職人が作ったものを販売し流通させるべく、吉田璋也が造った日本初の民芸店です。ずらりと並ぶのは、山陰の陶器を中心に、各地で買い付けた食器や雑貨。美術館と併せて訪ねると、感動もひとしおです。

写真の楽しさを体感できる、大自然のなかのミュージアム

 鳥取県東部の鳥取砂丘コナン空港から鳥取入りして西へと移動し、米子鬼太郎空港から帰京する2泊3日の鳥取旅行。この旅で最後に訪れたのは、西部の伯耆町ほうきちょうにある「植田正治写真美術館」です。

「植田正治写真美術館」の建物は、建築家、高松伸(たかまつしん)氏による設計

 植田正治うえだしょうじは、1913(大正2)年に鳥取県に生まれ、生涯、この地を離れることなく作品を撮り続けた写真家です。砂丘を舞台に、人をオブジェのようにしたり、物を擬人化したりした前衛的な演出写真は、「Ueda-cho(植田調)」として世界中で知られています。

 この美術館があるのは、名峰・大山だいせんを望む田園風景のなか。モダンな建物は存在感を放ちながらも周囲の自然と一体化していて、美術館そのものが巨大なアート作品のようです。緑のいい香り、みずみずしい田んぼ……そんな環境にも心が癒やされます。

美術館の前には一面の田園、その向こうには大山。館内の随所にある窓からこの絶景を一望

 この五感で感じる世界観こそ、植田調。館内には、空や砂浜、砂丘などを舞台に、植田正治が撮影した数々の写真が展示されています。

 常設展には、彼の作品が時代を追って展示されていました。なかでも心に残ったのが、植田正治が1950年代から撮り続けた山陰の子どもたちの写真。あえて正面から捉えたカメラ目線のものが数多くあります。

植田正治の作品を、時代を追って展示したコレクション。このほか、企画展も開催

 当時、日本の写真界は、社会の現実をありのままに伝える「リアリズム」が主流。時代を逆行しているようにも思えますが、これは、「カメラを意識せずに撮ることが自然」というリアリズム写真の考え方に対して、「人がカメラを向けられたら、真正面を向くのは自然なこと。カメラを向けられているのに視線をそらすことのほうが、むしろ不自然」という、植田正治ならではの考え方の表れでもあったといいます。

 私は、写真に関してはまったく詳しくありません。でも、カメラを向けられて、思わずはにかんだり、うつむいて恥ずかしがったりしている人たちのモノクロ写真は、当時の鳥取を、生き生きと、鮮やかに想像させてくれました。

 ここを訪れる楽しみは、ただ写真を鑑賞するだけではありません。館内から眺める絶景もまた必見。建物は、大山と水面みなもに映る「逆さ大山」を望むことができるように設計されているのです。また、部屋そのものがカメラの構造になっていて、壁に外の風景が映し出されるという、ユニークな映像展示室もあります。

窓には帽子、傍らにはステッキが用意されたスポット。植田調の演出写真を撮るのが楽しい

 来館者に人気を集めているのが、植田調の演出写真を体験できるスポット。窓に帽子が描かれていて、角度を変えながら遊び心のある写真を撮ることができます。もちろん、私もトライ。このときに撮った写真は、一番の旅の思い出になっています。

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芹澤和美
芹澤和美(せりざわ・かずみ)
旅行ライター

 編集職を経て、1996年、中国・上海へ短期留学。帰国後、フリーランスの旅行ライターとして活動。主なフィールドは、98年から通い続けているマカオや、中国語圏、アジア、中米、南アフリカ。主に、旅行雑誌やカード会員誌、機内誌、新聞などで国内外の旅行記事や紀行文を掲載。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。

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