とっとりジビエと北条ワインで至福のディナーを

リフレッシュ! 極上旅

 食のおいしさと奥深さにすっかり魅了されてしまった鳥取。なかでも、予想外の特産品が、ジビエと砂丘栽培のブドウで作るワインでした。海と山に囲まれた豊かな自然と、作り手の情熱や技術が、極上の味覚をもたらしています。

山の恵みを慈しみ、おいしく食べる、ヘルシーな「とっとりジビエ」

 ここ数年、レストランで見かけることが多くなったジビエ料理。野生の鳥獣による農作物被害が軽減されるうえ、お肉もおいしいとあって、首都圏のシェフたちが積極的に取り入れているようです。

 農林水産省の「野生鳥獣資源利用実態調査」(2017年度)によると、鳥取県のジビエ利用量は全国3位。なかでも、よく食べられているのが鹿肉です。同調査でも、鳥取県の鹿肉利用量は、北海道に次ぐ2位を記録しています。私もときどきジビエを楽しみますが、鳥取がジビエ先進県だとは思ってもいませんでした。

 かにも魚も和牛もおいしい鳥取で、これほど鹿肉が食べられている背景には、山間地域で鹿が増えすぎたという現実もありますが、やっぱり、お肉が上質だからでしょう。豊富な木の実や山菜を食べ、傾斜が激しい山でたっぷりと運動したマッチョな鹿のお肉は、おいしいのです。

 ジビエ料理が充実していると聞いてディナーの予約をしたのは、鳥取市中心部にある「ペペネーロ イタリア館」。創業39年、親子2代でキッチンに立つアットホームなイタリアンです。

 オーダーしたのは、ジビエのコース。しっとりとした鹿のハム、のテリーヌとレバー、熊のロースト、鹿の赤ワイン煮……と、前菜からジビエ尽くしです。メインディッシュは鹿のリブロースト。パスタは猪のラグーソースでいただきました。もちろん、ジビエだけに、日によって食材は替わります。

鳥取産ジビエコース(要予約 5000円)でジビエを味わい、山の恵みに感謝!

 コースのメインとしてジビエを選ぶことはあっても、フルコースでいただくのは初めてのこと。途中で飽きてしまうかと思いきや、くさみがなくさっぱりとしているから、むしろ食が進んでしまいます。脂肪が少なく低カロリー、高たんぱく質でもあるので、安心して存分にお肉を食べられるのもうれしい。赤ワインとの組み合わせは最高でした。

低カロリー、高タンパク質の鹿肉は、ジューシーなのにさっぱり

 「鳥取の鹿肉は上質であることに加え、猟師さんの腕が抜群だし、解体する方も肉の質を熟知しています。そんなおいしい山の恵みは、持ち味を生かしてシンプルに調理するのが一番」と、シェフの木下陽平さん。

そのときによって食材は変わる。ときには熊のローストが登場することも
ステンドグラスをあしらった店内は、温かみにあふれて居心地がいい
鳥取県若桜町産の鹿肉を調理したオリジナルの缶詰。トマトソースで煮込んだ「ポルペッティ」、赤ワインで煮込んだ「ブラッサート」(各1188円=税込み)はお土産にも

 「ジビエ=冬の料理」とばかり思っていましたが、意外なことに、夏は鹿が草をよく食べるから、さらにおいしくなるのだそう。加熱しすぎず、バターとオリーブ油で風味付けしただけのお肉は、とてもジューシーでした。

小さなワイナリーから生まれる唯一無二の極上ワイン

 ジビエと一緒にいただいたワインがあまりにもおいしくて、旅の途中で訪ねたのは、鳥取県中部にあるワイナリー「北条ほうじょうワイン」。近頃は国産ワインの人気が定着し、山梨や長野が産地として知られていますが、北条ワインも古くから愛されているワイナリーです。

ブドウ畑の土壌づくりから栽培、ワイン醸造、商品発送まで一貫して行う「北条ワイン」

 創業は戦時中の1944年(昭和19年)。当時は、ワインを作る過程で生まれる酒石酸しゅせきさんの工場として稼働していました。国の命令で、軍事用の電波探知機のパーツとなる酒石酸を作っていたのだそうです。戦争がワイナリーを生んでいたとは。

 その後、醸造のノウハウを生かして本格的なワイン造りに着手。ワインを楽しむなんて、まだまだ一般的ではなかった時代です。そんな挑戦ともいえる事業の背景にあったのは、「地元・北条砂丘で育ったブドウで、おいしいワインを造りたい」という情熱でした。

 観光地の鳥取砂丘と違って有名ではありませんが、北条砂丘は多くの農作物が栽培されている場所。なかでも、ブドウは江戸時代から作られている特産品です。水はけがよい土壌があることに加え、砂地なので照り返しが強く、昼は気温が上昇する一方、夜になると日本海から冷たい風が吹き、空気は冷え込む。この気温差が、おいしいワイン造りに適したブドウを育てているのです。

鳥取県の地図をかたどったラベルがユニーク。正面から瓶をかざすと、下部に砂丘が透けて見えるデザイン。白は昼の砂丘、ロゼは夕方の砂丘、赤ワインは夜の砂丘をイメージしているそう
住宅街にある北条ワイン。一般見学は行っていないが、工場直結の直売所には、ここでしか買えない限定のワインも

 かつて、日本産ワインといえば甘口が主流でしたが、北条ワインの主力商品は、昔も今も、しっかりと熟成した辛口です。夏に収穫期を迎える鳥取産の岩ガキに合うように作られた白ワイン「たる仕込み」、ジビエやウナギをさらにおいしくする赤ワインの「カイノワール」、豚のみそ漬け焼きやブリの照り焼きと一緒に飲みたい赤ワインの「砂丘」など、日本食に合う逸品がそろいます。

工程は一貫して手作業で行われる
木造のワイナリーには、歴史を思わせるタンクも

 迷ったあげく、私はマディラワインに似た「マデラタイプ」を購入しました。マディラワインとは、醸造過程でアルコールを添加して独特の風味をもたせた「酒精強化ワイン」の一種。ポルトガル南西部にあるマディラ島で造られることから、そう呼ばれています。干し柿やヨウカン、里いもの煮物にマッチすると聞いて、半信半疑で試してみると……おいしい! 気温が高いこの頃は、炭酸で割ってスプリッツアとしても楽しんでいます。

リーズナブルながらおいしい。鳥取産ワインにはまりそう!

 国産のマデラが珍しいというだけでなく、価格も1000円(税込み)ととてもリーズナブル。そのほかのワインも、「日本のワインは高い」という印象を覆すお値段でした。多くの人が楽しめるよう、コストを抑える努力がうかがえます。そんな北条ワインは、オンラインでの購入が可能。全国のファンが次の発売を待ちかねているというスパークリングワイン「北条ワイン トットリ SKY」を、私も今から狙っています。

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芹澤和美
芹澤和美(せりざわ・かずみ)
旅行ライター

 編集職を経て、1996年、中国・上海へ短期留学。帰国後、フリーランスの旅行ライターとして活動。主なフィールドは、98年から通い続けているマカオや、中国語圏、アジア、中米、南アフリカ。主に、旅行雑誌やカード会員誌、機内誌、新聞などで国内外の旅行記事や紀行文を掲載。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。

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