清らかな空気、癒やしの温泉、文化探訪…鳥取・三朝温泉で身も心も充電

リフレッシュ! 極上旅

三朝温泉・木屋旅館。建物は国の登録有形文化財に登録されている

 鳥取を旅するのなら、ぜひ1泊はしたいと思っていたのが三朝みささ温泉。川沿いに温泉宿が立つ、しっぽりとした風景にあこがれていたのですが、それだけではなく、三朝には世界屈指のラジウム温泉が湧いているのです。リラクゼーションも、温泉の効能も、風情も……と、欲張って出かけた温泉地は、期待を裏切ることなく、満足させてくれました。

つかってよし、飲んでよし、空気までおいしいパワフルな温泉

 鳥取市内から車で1時間ほど走ると、川に石造りの橋が架かる穏やかな風景が見えてきました。三方は山々に囲まれて空気はおいしく、川沿いに続く宿はいかにも日本的で、なんだかホッとする光景。到着して早々に、もう癒やされてしまった気分です。

修行の場である三徳山とあわせて日本遺産に登録された三朝温泉。三朝川の岸辺には温泉旅館が立ち並んで情緒たっぷり

 もちろん、三朝温泉の魅力は、その環境だけではありません。ここは世界屈指の高濃度ラドンが湧くところ。ラドンというのは、微量の放射線を帯びた気体のことで、ラドン泉入浴は新陳代謝が活発になり、免疫力や自然治癒力を高めることが分かっています。

 ラドンは空気中にも拡散しています。その空気を吸うと、全身の細胞が活性化され、抗酸化機能も高まるのだそう。なんと、アンチエイジングまで期待できるとは! 到着して深呼吸したとたんに「なんだか元気になれそう」と思ったのは、気のせいだけではなかったのかもしれません。

川岸には開放的な公衆浴場や足湯が(左)。女性には、かじか橋にある足湯(右)が人気

 そんな三朝温泉が開湯したのは、850年以上も前、平安時代後期のこと。大正5年(1916年)にラジウム含有量が日本一の温泉であることが発表されるよりはるか前から、湯治場として栄えていました。ぎゅっとコンパクトにつまった温泉街をぶらりと歩けば、そこかしこに残るいにしえの面影に、懐かしい気分にかられます。

 散策途中、旅館街から少し丘を登ったところで見つけたのは、「三朝バイオリン美術館」。「温泉街でバイオリン?」と不思議に思って入館してみると、心地のいいBGMに包まれました。館内にずらりと並んでいるのは、バイオリンのほか、弦楽器製作に使う道具や材料の数々。私はバイオリンの知識は全くありませんが、繊細な道具はまるで芸術作品のようで、ひとつひとつ見入ってしまいました。

「音楽で人を豊かにしたい」と、この地にバイオリンの美術館が誕生。6~9月はランチタイムコンサートもランダムに開かれている

 敷地内には「鳥取ヴァイオリン製作学校」も併設され、製作している様子を見学することができます。ハイテクが盛んな現代において、機械に頼らないモノづくり。生徒さんたちが真剣なまなざしでコツコツと製作に臨んでいる姿は、バイオリン以上に、繊細で美しく感じます。

併設の学校では、4人の生徒さんが4年間かけてバイオリンの製作を学んでいる
バイオリン製作学校に隣接する製作所。こちらに入れるのは、バイオリンをオーダーする人のみ

 ここにバイオリン美術館があるのは偶然なのだそうですが、1枚の木から美しい音色を奏でる楽器を作り上げる空間は、空気が清らかな三朝にぴったりだと思いました。

建築美にうっとり。ほのかな木の香りに包まれる老舗旅館

 三朝温泉には、25軒の旅館と3か所の公衆浴場、それに、足湯や飲泉スポットが点在しています。このうち、「古き良き湯の宿」を体感できるのが、150年以上の歴史を持つ「木屋きや旅館」。建物は、明治初期、大正、昭和それぞれの時代に増築されたもの。異なる趣が時代を感じさせます。

白壁と木連格子が美しい建物は大正時代の建築(左)。明治築の建物とは廊下でつながる。和室の天井にもみごとな意匠が

 増改築を繰り返し、立体的な迷路のようになった館内は、歴史は古くても手入れが行き届き、隅々までぴかぴか。ここには個性豊かなお風呂がいくつもあります。なかでも、足元から源泉が湧き出る半地下の温泉「楽泉の湯」は、レトロなタイル張りで、情緒たっぷり。高温泉で多量の湯気が出るため、湯気抜き天井も設けられ、これがまた風情を増しています。

源泉が湧き出る「楽泉の湯」はあえて温度調節をしていないので、ちょっと熱め。ラドン泉は浴水温が高いほど、皮膚から体内に入っていく量が増加するのだそう

 「穴ぐらの湯」は、ラドンが凝縮した湯気を吸いこむことで、湯治効果を高めるミストサウナ。呼吸器系の疾患や、美肌にも効果が期待できるのだそうです。温度はもちろん高いのですが、いつもジムで入っているサウナとはまた違った、柔らかな湯気を感じました。

「穴ぐらの湯」(左)は、心地のいいミストサウナ。湯気を吸うことで、体内にラドンを取り入れる狙いが。女湯「カジカの湯」(右)は、保湿成分メタケイ酸が国の基準値の2倍以上ある化粧水温泉

 ユニークなのは、オンドルヨガ。地熱で温かくした部屋では、インストラクター指導によるヨガも行われています。「3日目の朝を迎える頃には病が消える」と昔から言われる三朝温泉。こんなお宿なら、3日ぐらい容易に籠もれそうです。14部屋それぞれ異なる客室の意匠もすてきでした。

 宮大工が建てた本館が存在感を醸し出しているのは、「旅館大橋」。建物の大部分が、国の登録有形文化財に登録されています。竹やナンテンなど銘木を集めて造られた建物は随所に趣向が凝らされていて、ひとつひとつ眺めたくなります。

本館、離れ、西離れ、大広間、太鼓橋は国の登録有形文化財
大浴場と客室を繋ぐ太鼓橋は、昼と夜で表情を変える

 こちらのお風呂もインパクト大。三つの湯船から温泉が自然噴出する「巌窟の湯」は、もともと川に湧いていた温泉に石で壁を造り浴場にしただけあって、野趣満点です。湯船につかると、足元から細かな気泡が湧いて出るのが分かり、「名湯に包まれているなぁ」と、実感させてくれました。

巌窟の湯(上)。三つある湯船のうち一つは、濃度が世界一といわれるトリウム泉。大浴場「湯処せせらぎ」(下)には、露天風呂とヒノキ風呂と内湯、さらにミストサウナもある

 大橋旅館でなにより楽しみにしていたのは、食事です。「現代の名工」や黄綬褒章などの受賞歴を誇る料理長による創作和食は、味はもちろん、見た目も豪華で、運ばれてくるたびに歓声を上げてしまいました。

目の前で焼かれる鳥取和牛のステーキ
氷の器に盛られた刺し身。サプライズ連続の料理に大満足

 おなかいっぱい食べて、この日は布団に入ると同時に熟睡。日本各地に温泉地はありますが、文化、歴史、効能の三拍子がそろった三朝温泉は満足度大です。体だけでなく、心もしっかりと充電させてくれました。

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芹澤和美
芹澤和美(せりざわ・かずみ)
旅行ライター

 編集職を経て、1996年、中国・上海へ短期留学。帰国後、フリーランスの旅行ライターとして活動。主なフィールドは、98年から通い続けているマカオや、中国語圏、アジア、中米、南アフリカ。主に、旅行雑誌やカード会員誌、機内誌、新聞などで国内外の旅行記事や紀行文を掲載。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。

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