HIRADOの名でヨーロッパにも渡った長崎デザインの焼き物

リフレッシュ! 極上旅

 1泊2日の長崎の旅。平戸市の翌日に訪ねたのは、陶磁器の産地、佐世保市三川内みかわち町です。いまも昔日の風情が残る焼き物の里で、たっぷりと焼き物の世界に浸りました。

白と青の美しさにはっとさせられる、みかわち焼

 透き通るような白磁に、繊細な藍色の染付が美しく浮かび上がる、みかわち焼。その歴史は、16世紀末、豊臣秀吉が朝鮮出兵した際に連れ帰った陶工がこの地で窯を築いたのが始まりといわれています。

 以降、平戸藩の御用窯として発展し、18世紀には「HIRADO」の名でヨーロッパにも輸出され、王侯貴族をも魅了。現在も三川内地区で、24の窯元が焼き物作りを続けています。

江戸時代は将軍家や朝廷しか持つことができなかった唐子の図柄。現代は創作唐子も人気に。(嘉泉窯)

 集落を訪ねてまず目に入るのは、焼き物を運んだ馬車道跡や、まきや石炭で窯をいた時代のレンガの煙突。まるで時が止まったかのような、穏やかな風景が広がっています。

 「嘉泉かせん窯」は、1603年創業の、15代続く歴史ある窯元。精巧な手描きや細工など、繊細にして優美なみかわち焼の原点を受け継ぎつつ、スターバックスコーヒーの佐世保市限定コーヒー碗を製作するなど、新しいことにもチャレンジしています。

初代 金氏太右エ門に始まり、現代は15代目。跡継ぎが決まった若き16代目にも期待が高まる。(嘉泉窯)

 工房では、染付を拝見。1本の筆で濃淡をつける、その繊細な技術につい見とれてしまいました。職人さんが筆先にちょんちょんとつけていたのは、お茶。お茶を穂先につけて、つけだみ(筆に絵具を含ませて塗っていく工程)をするのも、みかわち焼の特徴です。こうすることで美しい濃淡が生まれるのだそう。

素焼きの白地に、呉須と呼ばれる藍色の絵具を含ませた筆で、絵や文様を描いていく。(嘉泉窯)

 「平戸洸祥団右ヱ門ひらどこうしょうだんうえもん窯」は、華やかな模様を施した「菊花飾細工」「透し彫り」を得意とする窯元。やわらかい粘土の塊をヘラで切り起こし、精巧な菊の花を作り上げる「菊花飾細工」の工程は、目を見張るほどの細やかさです。

これほど細かいものが、人の手で作られることに圧倒される。(平戸洸祥団右ヱ門窯)

 「平戸洸祥団右ヱ門窯」では、18代目も若き担い手として、17代目と一緒にこの繊細な技術を守っています。「手仕事ですから、たとえ親子であっても、人間が違えば仕上がりも異なります。一つ言えることは、揺るぎない型があるということ」と、18代目の中里太陽さん。

 現在は、「幕末に、みかわち焼がヨーロッパに渡ったように、ふたたび世界と三川内を結びたい」と、ドイツの国際見本市に出展したり、SNSでの情報発信したりなど、海外進出にも果敢に挑戦しています。そんな18代目の姿からは、単に新しいものを求めているのではなく、昔あった大事なものを復活させようという思いが伝わってきました。

器を買い求めた後は、郷土料理を美しい器で

 昔も今も、みかわち焼の代表的な図柄といえば、松の木の下で無心に蝶とたわむれる中国の子どもを描いた唐子からこです。なんともかわいらしいこのモチーフ、今でこそ各地で見かけますが、ここ三川内が本家本元。江戸時代は平戸藩御用窯の指定図柄とされて、定められた窯でのみ作ることが許され、「献上唐子」と呼ばれていました。

 唐子の青の美しさに出会ったのは、「平戸松山しょうざん窯」でした。染付を主流とする窯元です。染付というのは、素焼きの白地に、呉須ごすと呼ばれる藍色の絵具を含ませた筆で絵や文様を描いていく技法。青一色で表現しなければならないため、熟練の腕が必要とされています。

繊細な作業が黙々と行われる、平戸松山窯の工房

 細い筆先だけを使った輪郭線を描く作業、太い筆に含ませる水の量で呉須の濃淡を調整しながら立体感をだすダミの技法……。白磁に描かれる図柄は、まるで動いているかのように、生き生きとしています。色の濃淡も見事で、それは「青色」とひとことで言い表すのが難しいほど。

 この窯元では、伝統的な献上唐子を描く一方で、現代風にアレンジされた創作唐子にも挑んでいます。私はギャラリーで創作唐子の器を購入。毎日、お殿様気分で愛用しています。

高温で長く焼き上げるのも、みかわち焼の特徴。大量生産ではないので、比較的小さな窯で焼き上げる。(平戸松山窯)

 ひとしきり窯元を歩いた後で、おなかを満たしたのは、「泰平や」です。江戸時代の旅籠を改装した風情あるお店で、平戸松山窯の器に盛られた料理をいただきました。名物は、のっぺ汁と平戸寿司。

窯元を訪れた後に訪ねた「泰平や」では、平戸寿司とのっぺ汁を、美しい器で

 のっぺ汁は、根昆布で出汁をとり、塩だけで味付けした野菜をたっぷり入れた汁もの。自家製ゆず胡椒ごしょうを入れて食べると、野菜のおいしさがじわじわと感じられました。

「泰平や」は完全予約制、5名~。予約は利用日の10日前までに三川内陶磁器工業協同組合(0956-30-8311)へ。6~9月は終日定休

 平戸寿司は江戸時代の武家料理。一見すると具が見えないのですが、それは具を中心に詰めて外側から見せないという武士の美意識からなのだそう。シャリをほぐすと、穴子やしいたけ、野菜が、次から次へと現れました。食べ終えて器が空になると、美しい絵柄が。おなかいっぱいだけれどヘルシー、そしてほっこりとした気分になれる、おいしいランチでした。

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芹澤和美
芹澤和美(せりざわ・かずみ)
旅行ライター

 編集職を経て、1996年、中国・上海へ短期留学。帰国後、フリーランスの旅行ライターとして活動。主なフィールドは、98年から通い続けているマカオや、中国語圏、アジア、中米、南アフリカ。主に、旅行雑誌やカード会員誌、機内誌、新聞などで国内外の旅行記事や紀行文を掲載。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。

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