阿蘇の旅で宿泊したのは、ホテルでも、旅館でも、ペンションでもない、キャンピングトレーラーです。「車に泊まるなんて大丈夫?」という不安は、過ごすにつれ快適なものに。夜は月明かりの下でたき火を囲み、朝は野鳥の鳴き声で目覚める。どんな豪華な設備よりも、贅沢な気分にさせてくれました。
キャンピングトレーラーが宿に!? 想像以上の居心地
国道からそれて緑深い森の中へ。「本当にこの先に宿があるの?」と思うほど豊かな自然環境に、「森の料理客船 六月の風」はあります。ゲストルームは二つ。庭に並ぶ2台の「エアストリーム」というキャンピングトレーラー(牽引式のキャンピングカー)が、それぞれ宿泊部屋となっています。
「エアストリーム」といえば、キャンプ好き、アウトドア好きにとってはあこがれの的。といっても、キャンピングトレーラーに泊まった経験がない私は、不安を抱きながらのチェックインでした。寒かったらいやだな、電気はちゃんとつくのかしら、水道は出るのかしら……。
そんなことを思いながらドアを開けてみると、そこには想像以上に広々とした空間が。リビングにはゆったりと座れるソファや、2人でお茶を飲んだり食事をしたりするのにちょうどいいサイズのテーブル、冷蔵庫や電子レンジが配され、さらにその奥には、シャワールームと寝室もあります。ロケーションといい、設備といい、まるでなんでもそろっている秘密基地のよう。
キャンピングトレーラーのすぐ前にはウッドデッキがあって、ここも最高の居場所でした。鳥のさえずりや葉擦れを聞きながらコーヒーを飲んだり、深呼吸をしたり。日常ではなかなかできないことです。

森の中のトレーラーハウスという特別な環境に加え、私が心(胃袋)をつかまれたのは、料理人であるご主人、宇野謙二さん手作りの朝食でした。自家製のフルーツジャムとともにいただく焼きたてのパン、生みたての卵で作るオムレツ、絶品のローストビーフサンド、ローストしたベーコン……。奇をてらわない料理はひとつひとつがおいしく、眠る前から翌朝が楽しみなほどでした。

宇野さんが手作りするのは料理だけではありません。母屋の建築やこの地の開墾も自ら手掛けています。木を伐り、山を拓く作業は想像を絶しますが、宇野さん曰く、「楽しかった」とのこと。現在は、敷地内にツリーハウスを建築中。仕事の合間に手作りしているゆえ、完成まではまだまだ時間はかかりそうですが、いつか、ここに泊まる日が楽しみでなりません。
星空を仰ぎながら、たき火を楽しむ森の夜
思いのほか満喫したのは、薪で沸かすお風呂。キャンピングトレーラーの中にはシャワールームがありますが、敷地内には別棟の薪風呂も用意されています。浴槽は五右衛門風呂のような形。一見すると昔風ですが、シャワーを備えた洗い場は広々としていて、とても快適です。秋冬の阿蘇の夜はかなり冷え込みますが、薪で沸かした効果か、お風呂上がりはずっとポカポカと温かでした。

東京に帰る前の晩は、宇野さん夫妻が誘ってくださり、庭でたき火を囲みつつ、キャンプファイヤー気分で歓談タイム。しんと静まり返ったなか、BGMのジャズと、薪が燃えるパチパチという音だけが響いて、非日常感たっぷりの贅沢な気分でした。

こんなふうに、ゲストとたき火を囲みながら語らう日もあるという宇野さん夫妻。「緑の葉に朝露を見つけたり、林の中を野ウサギが駆け抜けるのを見たり。ふとしたときに、ここは本当にいいところだなあと実感しています」という言葉に、人柄と、阿蘇という土地の魅力が凝縮されているような気がします。

キャンピングトレーラーに薪風呂、料理人お手製の品々、夏には庭でバーベキュー……と、楽しみが多い「森の料理客船 六月の風」は、国内だけでなく海外からもリピーターがやってくるそうです。私も次回は、季節を変えて訪ねてみたいと思っています。
【オススメの関連記事】
地球の息吹を実感! 恵み多き、阿蘇を旅する
リフレッシュ! 極上旅