おいしいものも食べたいし、絶景も眺めたいし、大自然にも癒やされたい……。そんな単純な動機で旅先に選んだ熊本県の阿蘇。訪れてみると、想像以上に心を打つ風景や、風土と人が育むおいしい食がありました。もちろん、ここは九州屈指の観光地。2016年に起きた熊本地震では甚大な被害もありましたが、現在は復旧が進み、以前と変わらず、多くの旅行者を魅了しています。
阿蘇山の強く優しい自然に心奪われる
阿蘇くまもと空港から車で約1時間。やがて、壮大なカルデラのなかに続く美しい田園風景が目に飛び込んできました。阿蘇市は、東西18キロ・メートル、南北25キロ・メートルと世界最大級のカルデラのなかにある街。山々とカルデラが織りなすダイナミックな風景は、国内外から訪れる多くの旅行者を魅了しています。

カルデラ(火山の噴火でできた広大なくぼみ)に人が定住し、肥沃な農地や牧草地が築かれた環境は、世界でも珍しいといいます。「カルデラのなかに人々の営みがある」ということは頭では理解していたものの、実際に目にすると、そのスケールは想像以上。到着早々、阿蘇の景観に圧倒されてしまいました。
ちなみに、阿蘇山は富士山のような単体の山ではありません。外輪山といくつかの中央火口丘のことを指し、核をなす高岳、中岳、烏帽子岳、杵島岳、根子岳という5つの山を、阿蘇五岳と呼んでいます。知らなかった!
広大な面積を誇る阿蘇山には、たくさんのドライブコースや絶景ポイントがありますが、なかでも私がいいなあと思ったのは、阿蘇山を南北に縦断する道路、「パノラマライン」。道の両側に延々と広がる草原では、牛や馬がのんびりと草を食み、眼下には街並みと田園がキラキラと輝いています。その独特の風景は、ファンタジー映画のワンシーンのよう。大自然と人が共生する光景は、とても美しく印象的でした。

ほかに、大分県につながる全長約50キロ・メートルの「やまなみハイウェイ」も有名なドライブルートです。ドライブの途中に立ち寄ったのが、カフェ兼とうもろこし屋さんの「阿蘇の森」。草原を背景に立つ、トレーラーを改装した可愛らしいお店が目印です。自家製の「フルーツコーン」と呼ばれる、とうもろこしを食べました。壮大な景色を眺めながら飲むコーヒーはもちろんのこと、フルーツコーンのおいしさにびっくり。弾けるような粒がジューシーな上に甘く、食べるほどに幸せな気分になります。
「阿蘇はドライブが最高でしょう?」と真っ黒に日焼けした顔で語りかけてくれたナイスガイは、オーナーの森繁博さん。もともと二輪車のテストドライバーとして国内外で活躍していましたが、地元、阿蘇に戻り、大好きな自然のなかで「阿蘇の森」を始めたのだといいます。この冬には、新たにゲストハウスもオープンし、ますます話題を集めています。

「牛に餌をあげてみますか?」という森さんの勧めで、すぐ隣の草原で飼われているかわいらしい牛たちと、しばしの触れ合い。思いのほか楽しい寄り道となりました。遠方からもたくさんの人が訪れる「阿蘇の森」は、気さくな森さんの人柄も人気の理由かもしれません。
野草を堆肥にして育てた、おいしい野菜
「やまなみハイウェイ」から市内に戻る途中に立ち寄ったのは、標高約800メートルに位置する農園、「阿蘇マミファーム」。私は野菜が大好きで、旅先ではたくさんの野菜料理を食べたり、お土産に買ったりするのを、いつも楽しみにしているのです。こちらは観光農園ではありませんが、「農薬や化学肥料を使わず、阿蘇の草原の野草を飼料や堆肥として使い、育てた野菜」に興味が湧き、特別にお邪魔させていただきました。
ハウスのなかですくすく育っていたのは、愛情と手間をたっぷりとかけて栽培されている野菜たち。手掛けるのは、野菜作りと土作りに情熱を燃やす、井一さん・まゆみさん夫妻です。阿蘇の草原の野草を使った野菜作りは、化学肥料による栽培に比べればとてつもなく手間と労力がかかります。「でもね、自然の恵みがたっぷりと詰まった、おいしい野菜ができあがるんですよ」と話すまゆみさんは、まさに野菜作りの達人。

「触ってみる?」と、まゆみさんが、収穫されたばかりの野菜を見せてくださいました。サニーレタスはふかふかと柔らかく、カラーピーマンはつやつやとしてどっしり、唐辛子は青々として、いかにもおいしそう!

この「阿蘇マミファーム」も、ドライブ途中に立ち寄った「阿蘇の森」も、ともに阿蘇市が取り組む「然」に認定されています。「然」というのは、阿蘇の恵みを発信するブランド。産物を育てる人や、それを生かしたモノづくりに携わる人などが対象とされています。
風土のなかで豊かな自然とともに生きる阿蘇の人々。この街にどんなストーリーがあるのか、ますます楽しみになってきました。まだまだ旅は続きます。
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