旅先での夜は、ディナーを食べたり、夜景散策をしたりと、いろいろな楽しみ方があります。シカゴなら、断然ブルース! 街のブルースクラブでは連日ステージが行われ、チャージもリーズナブルなことから、外国人を含むたくさんの観客が音に酔いしれています。今宵はグラスを片手に、渋い音楽の世界へ――。
本場のブルースに心地よく酔う
酔わせるようなブルースハープの響きと、おなかにズシンと響く渋いボーカル。学生時代、私はポップスよりもロックよりも何よりも、ブルースが大好きでした。社会人になってからはさまざまな音楽に出会い、ファッションを知り、旅をするようになり、すっかり自分自身の中で“懐メロ”になってしまったブルースに、再び出会わせてくれたのが、この旅なのです。
そもそもブルースは、19世紀後半、南部の黒人霊歌や労働歌から発展しました。自らの境遇に対する悲しみや憂い、恋愛の喜びや失望などを歌詞にし、独特の音階で歌い上げたものです。その後、黒人音楽としてアメリカ各地に広まっていきました。なかでも、エレキギターを取り入れ、バンドスタイルに発展させたものが、シカゴのブルースです。
マディ・ウォーターズやハウリン・ウルフと並ぶブルース界の大御所のひとりが、御年82歳のバディ・ガイ。歯でギターを弾くプレイ(!)も、派手なパフォーマンスも、もちろんその実力も伝説的な彼がオーナーを務めるブルースクラブがシカゴにあります。その名も、「バディ・ガイズ・レジェンズ」。

店内には、名だたるミュージシャンの秘蔵写真や愛用のギターが飾られていて、ステージが始まる前から、心が高揚してしまいます。
伝説の男の店、と聞くと思わず身構えてしまいますが、予約不要のランチタイム(水~土曜)なら、気軽に雰囲気を楽しむことができます。昼からシカゴの地ビール「グースアイランド」を飲みながらブルース、というのもなかなか粋な時間。本場のブルースをしっかりと楽しむなら、夜のステージをウェブサイトで予約することをおすすめします。

ブルースクラブの老舗ともいえるのが、1968年にオープンした「キングストン・マインズ」です。二つのステージに二つのバンドが交互に出演し、夜通し音楽を奏でています。明け方まで途切れなくライブが行われていて、ブルースにどっぷりと浸れることは間違いなし。もちろん、バンドとの相性や好みもありますが、まぎれもない本場の、本物の空気はやっぱり格別です。
ブルースクラブをハシゴしたこの日。ホテルに帰ったのは深夜2時近くでしたが、久々に音楽のシャワーを浴びて、心地よい眠りにつくことができました。

ブルースには親しみが湧かないけれど、シカゴならではのライブも体験してみたい、という人には、ジャズがぴったり。「ウインターズ・ジャズ・クラブ」は、ちょっとおしゃれをして行きたいジャズクラブです。ステージで奏でられる曲は世界的ヒットソングや往年の名曲も多く、お酒を片手にムーディーな場を楽しむことができます。
ブルースの聖地「チェスレコード」
アメリカ南部の黒人音楽だったブルースがシカゴで発展し、やがて世界中に広まったのは、名だたるミュージシャンを数多く輩出したブルース専門のレコード会社「チェスレコード」の功績です。日本の地方に暮らす女子高生だった私が、ある日、ラジオから流れてきたブルースにはまったのも、この会社があったおかげなのです。
そんな「チェスレコード」は今、世界で唯一無二のブルースのミュージアムとなっています。シカゴブルースの立役者ともいえるミュージシャン、故ウィリー・ディクソンが、ブルースの振興とアーティストの支援を目的に立ち上げたブルース・ヘブン財団が運営しています。

館内には、華々しいステージから、普段着のミュージシャンたちの写真、ステージ衣装、大事にしていた楽器が展示され、契約に使ったオフィスやオーディションを行ったスタジオも見ることができます。ブルースの影響を強く受けていたローリング・ストーンズが録音を行ったスタジオも!
ここはブルース・ファンにとっては聖地ともいえる場所です。まさか見学ができるとは思っていませんでしたが、予約すれば丁寧にツアーガイドをしてくれます。訪れた日は、自身もミュージシャンとして活躍する方が、ブルースへの愛があふれるガイドをしてくださいました。
さて、ブルースのスポットばかりを歩きましたが、シカゴはそのほかの音楽も盛んです。ダウンタウンにあるミレニアムパークには巨大な野外シアターがあります。6~9月には「グラントパーク・ミュージックフェスティバル」がほぼ毎週末、開催されており、様々なジャンルの音楽コンサートを楽しむことができます。

都心に野外シアターがあるという便利な環境はもちろんのこと、何より、有料の椅子席のほかに、無料で開放されている芝生エリアがあるのが素晴らしい。一日の仕事や学校を終えた人々が芝生にピクニックシートを広げ、そこでワインを飲んだり、お弁当を食べたりしながら、思い思いに音楽を楽しんでいる様子が印象的でした。気負うことなく、普段着感覚で音楽を楽しめるなんて、すてきです。
シカゴは音楽のあふれる街。きっと、一部の人の音楽だったブルースがシカゴで発展した背景には、街の人たちの音楽好きも影響していたのだと思います。2019年はさらに、「イヤー・オブ・シカゴ・シアター」と題して、市を挙げて劇場芸術に関連した一大キャンペーンを行うとのこと。来年のシカゴは、ダンスやオペラ、即興劇など、音楽と芸術三昧の旅が楽しめそうです。
バディ・ガイ・レジェンズ
キングストン・マインズ
ウインターズ・ジャズ・クラブ
ブルースヘブン
グラントパーク・ミュージックフェスティバル
シカゴ観光局
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