南極から近未来まで! にかほ市で訪ねたい個性派ミュージアム

リフレッシュ! 極上旅

 旅先で、その地にゆかりのある博物館や美術館を訪ねると、旅はより充実したものになります。秋田県にかほ市の旅でも、ここでしか見られない作品や展示に出会いました。街のさらなる魅力を知ることができる、個性的なミュージアムをご紹介します。

暮らしの中に溶け込む、池田修三の版画

 にかほ市に到着してから何度も目にした、同じ作者のものであろう印象的な絵。レストランや空港、ケーキ屋さん、さらにタクシーやバスのラッピング……。男の子や女の子の姿が描かれたその絵は、素朴で温かく、それでいてどこか哀愁があり、旅の途中、ずっと心に残っていました。

 その作品は、木版画作家・池田修三さんのもの。やわらかでなめらかな作風から、私はすっかり絵画だと思っていたのですが、版画だったのです。

街の人にもっと池田修三を知ってもらおうと、にかほ市が作成した冊子

 修三さんは、由利郡象潟町(現在のにかほ市象潟町)出身の版画家。1922年に生まれ、地元の高校に美術科教諭として勤務した後、33歳で木版画の道へ。故郷の風景や子どもたちの心情を独自の色合いで表現した作品の数々は、秋田県内の企業カレンダーやテレホンカードなどに採用され、2004年に82歳で亡くなるまで、創作し続けたといいます。

 作品がまったく古びていないので、修三さんがまさか没後10年以上が経っている人物とは思いませんでした。にかほ市で出会った人たちに尋ねると、口々に「うちの家に修三さんの版画を飾ってあるよ」「新築や結婚、出産祝いには作品を買って贈ったし、いただいたよ」と教えてくれました。にかほ市には、お祝いごとや記念日に、地元の作家の作品を贈る、そんな素敵な文化があったのです。

「道の駅象潟ねむの丘」で見つけた池田修三コーナーには、ポストカードやマスキングテープなど、日常使いできるものにデザインされたグッズが並んでいる

 これほど人々の暮らしのなかに溶け込んだアーティスト、池田修三の人となりが気になり、訪ねたのは「象潟郷土資料館」。ここには、生家や家族から約2700点の作品と関係資料が寄贈されています。そこで知ったのは、「『多くの人に絵を持ってほしい』という思いから、作品の価格を上げなかった」「ただでさえ手間のかかる木版画の全行程をすべて一人でこなし、8版以上重ねて色を出した」といった修三さんのエピソード。話を聞くにつれ、彼の寛容な心と、アーティストとしてのブレない姿勢に、すっかり魅了されてしまいました。

 この日、館内の展示をガイドしてくれたのは、齋藤一樹館長。いろいろなお話をうかがいましたが、「修三作品については、まだまだお伝えしたいことがたくさんあります。今日はいつもの半分しか話してないですよ(笑)」。きっと、地元の人たちの心の中に、今も修三さんは生き続けているのでしょう。にかほ市を旅して、素敵なアーティストを知ることができました。

気分は南極へ、近未来へ。特別な体験をできるユニークなミュージアム

 にかほ市には、日本人として初めて南極探検を行った「白瀬隊」を顕彰する「白瀬南極探検隊記念館」もあります。日本の南極観測隊の歴史と現在について知ることができるミュージアムで、思いのほか夢中で見学しました。

 世界中の国々が人類初の南極点到達をかけ、探検隊を送り出していたの1900年代(明治後期)のこと。ノルウェーのロアルド・アムンセンが1911年にその夢を果たし、翌年には、イギリスのロバート・スコット率いる隊が南極点に到達したものの、帰途に遭難し、全員死亡してしまいます。そうした時代に、彼らに比べれば貧弱な装備でありながら、ひとりの遭難者も出さずに探検を成功させたのが、白瀬隊でした。

白瀬隊が乗った木造の南極探検船「開南丸」の内部も復元。人物模型は船長の野村直吉

 白瀬隊の隊長は、由利郡金浦村(現在のにかほ市金浦)出身の白瀬しらせのぶ。探検家にして軍人だった人物です。

 政府の援助は受けず、民間の募金だけを頼りに極限の地にチャレンジし、帰還したストーリーが、この記念館で紹介されています。白瀬の人生はあまりにも壮絶で、ひとつひとつの展示に見入ってしまいました。

 白瀬の晩年は、探検に使った莫大な借金の返済をするため、苦難に満ちていた、という説が一般的。私もここを訪れるまでは「気の毒な人だな」と思っていましたが、展示を見たあとは、むしろ、逆のイメージを抱くようになりました。彼は幼い頃からの「探検家になる」という夢を果たし、これほどの偉業を成し遂げ、妻ヤスさんと最後まで寄り添いました。きっと満ち足りた人生を過ごしたのではないかと感じたのです。

4次元デジタル地球儀のダジック・アース。地球や惑星などの宇宙科学を立体的な地球儀で表示するシステム

 もうひとつ、にかほ市で人気を集めているのが、「TDK歴史みらい館」です。TDKといえば、有名な電子部品メーカー。創業者の齋藤憲三が由利郡平澤町(現在のにかほ市平沢)出身だったこと、現在も同社有数の生産拠点がにかほ市内にあることから、ミュージアムが造られました。ここでは、同社のモノづくりの歴史や、最先端のエレクトロニクス技術に触れることができます。

「えぐきたなぁ」。「TDK歴史みらい館」のエントランスでは、にかほ弁を話すペッパー君がお出迎え

 企業のミュージアムは、コマーシャルのようなものかな……とあまり期待していなかったのですが、展示はワクワクの連続! 「歴史ゾーン」には、TDKが製造した部品を使用した電子機器がずらりと並べられ、電子機器の進化の歴史がわかるようになっています。昔の黒電話やファミコンなどを使える体験コーナーもあって、思わず子どもの頃を思い出して見入ってしまいました。

TDK製品が使用されている昔懐かしい昭和の電化製品

 そんな、「これって懐かしいなぁ」を連発するコーナーから一転、「みらいゾーン」に入ると、TDKのテクノロジーが築く近未来の世界をのぞくことができます。なかでも、AI(人工知能)を活用した2035年の暮らしを体験できる「スマートハウス」のコーナーには、タクトを振るだけで照明をつけたり、カーテンを開けたりすることができるシステムなどが取り入れられ、まるで未来へタイムトリップしたかのような不思議な気分を味わいました。

2035年のAI生活をイメージしたコーナー。近未来の暮らしをちょっとだけ体験
クリエイター集団「チームラボ」とコラボした「インタラクティブ マグネティックフィールド シアター by チームラボ」。映像に囲われた空間を、自由に歩き回りながら、肉眼では見ることのできない磁性を視覚化し体感できる

 にかほ市で巡った3つのミュージアムはどれも、ここに行かなければ体験できないものにあふれています。次にこの街を旅するときも、じっくりと訪ねてみたいと思っています。

●池田修三オフィシャルサイト
●象潟郷土資料館
●白瀬南極体験記念館
●TDK歴史みらい館
●にかほ市
●にかほ市観光協会

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芹澤和美
芹澤和美(せりざわ・かずみ)
旅行ライター

 編集職を経て、1996年、中国・上海へ短期留学。帰国後、フリーランスの旅行ライターとして活動。主なフィールドは、98年から通い続けているマカオや、中国語圏、アジア、中米、南アフリカ。主に、旅行雑誌やカード会員誌、機内誌、新聞などで国内外の旅行記事や紀行文を掲載。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。

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