台湾・台東県で伝統を守り、自然と共存する民族の文化に出会う

リフレッシュ! 極上旅

 台湾・台東県の風景をさらに特徴づけているのが、「台湾原住民」の伝統的な文化です。17世紀以降、中国大陸から多くの漢民族が台湾に移住しましたが、それ以前から暮らしている先住民族のことを台湾ではこう呼びます。金峰郷(チンフォンシャン)にある美しい村を訪ねました。

観光地としても人気を集めるパイワン族の村

 台湾の全人口に占める「原住民」の割合は約2%で、台湾当局が認定しているのは16部族。その多くが東部に居住しています。彼らは漢民族の人たちと同じように近代的な生活を送りながら、独自の文化や芸術を伝承しています。なかには、それらを観光資源として旅行者を受け入れ、生活風景の見学などを受け入れているところも。金峰郷もそのひとつです。

 台東県の中心地、台東から電車で約2時間半。金峰郷の太麻里(タイマーリ)駅の周辺には、パイワン族やルカイ族、プユマ族の集落があり、多くの観光客が訪れています。

絶景! 金峰郷の太麻里駅周辺

 太麻里駅で電車を降りて目にするのは、広大な太平洋と、果物のライチやハーブの一種「ローゼル」が育つ緑の畑、そして、その合い間に点々と立つパイワン族のカラフルな家々。日本からは距離がありますが、この美しい風景を見ると、「ここまで来てよかった!」と心から思います。

一帯の畑で色とりどりに実るのは、スーパーフードのキヌア

 この絶景もさることながら、私がここを訪れた理由は、パイワン族の人々に会いたかったから。以前、取材で訪れ、その美しい文化や伝統を守る姿勢にすっかり魅了され、再びここまでやって来たのです。

 金峰郷で宿泊したのは、畑と海を見下ろす高台に立つ新興(シンシン)村にある小さな宿、「吉廬夫敢藝文民宿」。近代的な鉄筋コンクリート造りの一部に、伝統的な石積み工法を採用し、パイワン族の物語や歴史を刻んだ彫刻や壁画を随所に施した、インパクトのある建物です。

パイワンの伝統的な石積み工法を取り入れた「吉廬夫敢藝文民宿」

 こちらのオーナー、パイワン族のウツズさんこそ、私が一番会いたかった方! ハンサムなジェントルマンで知的な方ですが、パイワン族伝統の衣装をまとうと、とても勇ましく、伝統と受け継ごうという情熱を感じます。

「吉廬夫敢藝文民宿」のオーナー、ウツズさん。パイワン族には厳格な階級制度があり、そのトップにいるのが頭目。頭目は世襲制で、男女を問わず第1子に引き継がれる。ウツズさんは頭目の弟

 宿の1階には、パイワン族の美しい衣装が飾られています。彼らの民族衣装は「台湾原住民」のなかでも最も装飾が多く、ビーズや貝が縫い付けられた刺繍ししゅうはとても鮮やか。

 そのなかに、カタカナが彫られた木の板がありました。これは家系図です。パイワン族は文字を持たないため、日本統治時代に教え込まれたカタカナを表音文字として使っていた時代の名残りなのだそう。まさか、ここで日本語を見つけるとは。

1階に展示されているのは、先祖から受け継いだ衣装や伝統的な生活用具(左)、パイワン族の集落で時折見かける日本語の文字
清潔で、機能も申し分ない客室。木製のテーブルセットがかわいい。ウェルカムドリンクのローゼルティーもおいしい!

 客室はカラフルなパイワン族の衣装を反映しつつも、かわいらしい雰囲気。必要なものはすべてそろっていて快適です。夜になってテラスに出ると、頭上には星空が広がり、眼下には家々の明かりが点々とともっていました。

●吉廬夫敢藝文民宿

カラフルなルカイ族の村を、1日散策

 金峰郷には、五つの村があります。新興村にあるパイワン族の「吉廬夫敢藝文民宿」に泊まった翌日は、隣にある嘉蘭(カアルワン)村で、ルカイ族主催の1日集落探訪ツアーに参加しました。ルカイ族を紹介してくれたのは、パイワン族のウツズさん。部族は違っても、ネットワークが築かれているようです。

 まずは、村の中心地で入村式。訪れた人たちを家族として迎える儀式で、ここで悪いきものを落としてから村に入るよう、そして楽しい旅となるよう、ルカイ族の言葉でお祈りをしてくれます。言葉は分からないけれど、緑が香るなかでみそぎをしているような、神聖な気持ちになりました。

嘉蘭村を訪れると、8つの集落の頭目の彫像が並ぶ広場で入村式が行われる

 次に訪れた、頭目たちの集会所では、偶然にも、幼稚園児が村のお祭りに向けて伝統的な踊りを練習中。色鮮やかな伝統衣装をまとった子どもたちが元気に迎えてくれました。集落では、普段は私たちと同じようにインターネットやスマートフォンを使って生活していますが、こうして伝統も守っているのです。これはとてもステキなこと。

集会所では、子どもたちがお祭りの出し物を練習中

 集会所には、伝統的な石積み工法の家も残されていました。中に入ると、ひんやりと涼しくて、思いのほか広々とした空間がありました。敵の侵入を見張るために作られた穴や、暑い時は涼しく、寒い時は温かく暮らす工夫も見られて、興味津々。

 嘉蘭村にはいくつかの集落があり、それぞれにリーダーである頭目が存在します。ツアーでは、頭目のご自宅も訪問することができました。壁に描かれているのは、集落に伝わる伝説や、先祖から伝わるルール。一見すると現代アートのようでとてもカラフルですが、そこには大切なメッセージが込められています。

頭目のご自宅の壁には、カラフルな伝統アート(左)。集会所には、かつて使われていた穀物を脱穀する道具などが残され、一般公開されています

 嘉蘭村ツアーでは、ランチ、ディナーともに村内の食堂でいただきます。メニューは、スーパーフードのキヌアをたっぷりと混ぜたお米や、村で育つオーガニックの野菜、豚のくん製、みそ汁など、私が今まで食べた台湾料理とはずいぶんと異なりますが、滋味に富んだとてもおいしいものでした。

ルカイ族の伝統的な料理をアレンジしたランチ

 ちなみに、本来は同じ部族であれば、一つの大皿から分け合って食べるのが習慣。客人が来たときは、食べる仕草しぐさやマナーから、相手の性格を読み取ることもあったといいます。

 「ありがとう」は、パイワン族の言葉で「マサル」、ルカイ族の言葉で「サーパオ」。旅をしている途中、私は何度、この言葉を口にしたことでしょう、自然と共存し、工夫して生きる人々の暮らし。この旅では、今を生きるためのヒントを得ることができるように思います。

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芹澤和美
芹澤和美(せりざわ・かずみ)
旅行ライター

 編集職を経て、1996年、中国・上海へ短期留学。帰国後、フリーランスの旅行ライターとして活動。主なフィールドは、98年から通い続けているマカオや、中国語圏、アジア、中米、南アフリカ。主に、旅行雑誌やカード会員誌、機内誌、新聞などで国内外の旅行記事や紀行文を掲載。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。

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