「日本遺産」の広島県呉市 街の歴史と物語に浸る旅

リフレッシュ! 極上旅

 明治から昭和初期にかけて近代化をまっしぐらに歩んだ日本。その風景は、テレビドラマや映画、小説などから想像するしかありませんが、そんな時代の面影を色濃く残している街があります。その一つが、広島県呉市。歴史を物語る建物、ノスタルジックな港の風景……、それらを写真におさめながら、のんびりと街を散策しました。

百年前の面影を色濃く残すノスタルジックな港町

 ときは明治時代の日本。近代国家として西欧諸国と渡り合うべく、海上の防衛力を備えようとしていた日本は、全国から四つの良港を選び、軍港を築きました。まさに一大国家プロジェクトとして誕生した日本最先端の軍港都市の一つが、呉。旧軍港である横須賀市(神奈川県)、佐世保市(長崎県)、舞鶴市(京都府)とともに「鎮守府 横須賀・呉・佐世保・舞鶴 ~日本近代化の躍動を体感できるまち~」として、市内の旧跡が日本遺産に登録されています。

日本で唯一、潜水艦を間近で見ることができる公園「アレイからすこじま」。これはかなり貴重な風景

 「世界遺産」は知っているけれど、「日本遺産」って何だろう? と思う人も多いと思います。これは、文化庁が「地域の歴史的魅力や特色を通じて日本の文化・伝統を語るストーリー」を日本遺産として認定しているもの。私はこの「ストーリー」にとても惹かれます。ただキレイ、ただ貴重というだけではない、今につながる物語のある風景にこそ、旅情がかきたてられるからです。

 さて、呉市は、どんなストーリーを紡いできたのでしょうか。――明治22年(1889年)、瀬戸の海を望む静かな漁村に、日本海軍の拠点である鎮守府が開庁しました。次々と集められる人と先端技術、整備されていく水道に道路、鉄道などのインフラ……。人々の熱意とともに、このときから、漁村は日本最先端の街へとダイナミックな変貌を遂げていったのです――。

街中に残る赤レンガの倉庫。日常の中に、ノスタルジックな風景が息づいている

 当時から百年以上がたった今もなお、現役で稼働する施設が呉市には多くあります。たとえば、旧海軍呉鎮守府庁舎や、戦艦大和が造られたドック、大砲庫として使われていた赤レンガ倉庫など。もちろん、用途は当時と変わっていますが、その姿は、歴史を物語っていて、歩けば歩くほど、なんだか昔にタイムトリップしてしまったかのような気分になります。

 歩きながら思い出したのは、2016年のアニメ映画「この世界の片隅に」。戦禍が激しくなる呉市で、ある一家に嫁いだ少女が工夫しながら豊かに生きる姿を追った作品で、とても心に残っています。この映画で描かれていた当時の日本を彷彿とさせる風景がいたるところにあって、さまざまなシーンがよみがえりました。

艦船の雄姿にうっとり、迫力に圧倒される艦船クルーズ

 かつて軍港として大開発された呉。今も港には、潜水艦や護衛艦などの艦船が並んでいます。これらをぐっと間近で見ることができるのが、「艦船めぐり」。ここに暮らしていなければなかなか知る機会のない風景を、クルーズ船上から眺めることができます。

瀬戸内海の穏やかな風を感じながら、かつて東洋一の軍港と呼ばれた港をクルーズ

 港を出発するとすぐに見えてきたのが、「ジャパン マリンユナイテッド」の造船所。ここはかつて戦艦大和を建造した場所でもあります。その後、次々と目の前に現れる、立派な護衛艦や潜水艦。これらの船について船上で解説してくれるのは、海上自衛隊のOBの方。分かりやすく丁寧なお話で、艦船の知識をまったく持たない私も存分に楽しめました。

艦船が見えてくると、船上からは「おーっ!」と歓声が。なかなか見ることのない貴重な風景

 「きっと、灰色の大きくて屈強な船ばかりなんだろうな」と思っていたら、予想外のピンク色に塗られたカラフルな船も。緑の山を背景にした港はとても美しくて、艦船を見るだけでなく絶景を眺めるクルーズでもありました。

青空と山の緑に映えるピンクの船
目の前に潜水艦が。30分のクルーズはカメラがかたときも手放せない

 クルーズ時間は約30分。私は日中のクルーズを楽しみましたが、ほかにも、「夕呉クルーズ」という予約制のサンセットクルーズもあります。これは、日の入りの15分前に出航し、夕日に染まる艦船や、ラッパの音とともに旗が降ろされる海上自衛隊艦船の様子を眺めるというもの。昼とはまた違った、ロマンチックな風景が見られるはずです。

呉艦船めぐり

芹澤和美
芹澤和美(せりざわ・かずみ)
旅行ライター

 編集職を経て、1996年、中国・上海へ短期留学。帰国後、フリーランスの旅行ライターとして活動。主なフィールドは、98年から通い続けているマカオや、中国語圏、アジア、中米、南アフリカ。主に、旅行雑誌やカード会員誌、機内誌、新聞などで国内外の旅行記事や紀行文を掲載。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。

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