仕事に追われる日々、「1泊でいい。自然の中で癒やされたい!」と思い立って訪ねたのは、岐阜県中南部の美濃地方。名古屋駅からJR高山線の特急に乗り換え、美濃太田駅(美濃加茂市)まで、東京から約2時間半。そう遠くない場所ながら、木曽川が流れる美しい自然と、心洗われるやさしい風景に出合えます。
レトロなローカル鉄道に乗って、おいしい旅へ
美濃太田駅に到着後、移動手段として利用したのは、長良川鉄道。長良川沿いや城下町の郡上八幡を通り、全38駅を結ぶローカル鉄道です。一両編成のかわいらしい赤い列車からの眺めは、住宅街から緑に包まれた田園風景へと変わり、いつしかどっぷりと旅気分に。沿線の駅には、昔のままのレトロな駅舎を利用しているところもあります。
この鉄道の名物といえば、美濃太田駅で1959年から年中無休で営業を続ける「向龍館」の駅弁、「松茸の釜飯(1000円)」。売店が駅構内にあるほか、列車が到着するたび、2代目ご主人が昔ながらの立ち売りスタイルで販売しています。包みを開けると、松茸とワラビ、鶏肉、炊き込みご飯がぎっしり。素朴な味に懐かしさを覚えながら、おいしくいただきました。

長良川鉄道では、ゆっくりと景色を楽しめるよう、湯の洞温泉口~郡上八幡間の、七つの鉄橋を渡る絶景ポイントで速度を落として走る「ゆら~り眺めて清流列車」を1日2便運行しています。定期列車なので予約は不要、料金は普通運賃のまま。こんな粋なサービスがあるなんて、なかなかステキです(美濃太田駅発は9時56分、北濃駅発は平日14時1分、土日祝日14時34分)。
長良川鉄道で人気を集めているのが、金・土・日曜と祝日に運行している「観光列車ながら」。美濃太田駅発の列車には、アテンダントによる観光案内がつくビュープラン(乗車区間運賃+500円)、さらに沿線地域の食材を使った食事を楽しめるランチプラン(1万2000円)と、パティシエが手掛けるスイーツが楽しめるスイーツプラン(5000円)の三つのプランがあります。

列車の内装といい、見た目も美しい料理といい、車窓からの眺めといい、旅情たっぷり。「優雅な列車の旅は時間がかかる」というイメージもありますが、乗車区間が決まっているランチプラン、スイーツプランでも約1時間40分。これなら、1泊2日の旅でも気楽に楽しむことができそうです。
名もなき場所に絶景あり。インスタ映えする風景に感動!
江戸の情緒が残る中山道や、歴史が息づく仏閣、木曽川の雄大な眺めなど、一帯にはたくさんの景勝地がありますが、心をつかまれたのが、美濃加茂市で見たヤギがのんびりと草をはむ風景。なんと、このヤギたちは、除草隊として立派に働いているのです! その名も「ヤギさん除草隊」は、緑地の除草作業にかかる費用を削減すべく、美濃加茂市で6年前から実施しているもの。毎年、約30頭のヤギが除草隊に任命され、4月から10月にかけて活躍するのだそう。

除草費用が約3分の1に削減されるだけでなく、除草の焼却処理による二酸化炭素の発生もなくなり、ヤギの糞が樹木の肥料にもなるという、ユニークさだけでなく環境にも優しいこの試み。ヤギさん除草隊の“勤務地”は、市内の「さくら広場」と、「平成記念公園北部地区」にあります。旅行者がよりアクセスしやすいのは、「さくら広場」。美濃太田駅からコミュニティーバスの「あい愛バス」に乗り、「蜂屋台」で降りて徒歩1分ほど、駅からはトータル10分ほどで到着します。
もうひとつ、昔からの景勝地ではないけれど、ぜひ見ておきたかったのが、美濃加茂市の隣、関市にある、とある小さなため池。クロード・モネの絵画、「睡蓮の池」を思わせる風景が見られるとSNSで発信されたことをきっかけに瞬く間に話題となり、今や観光バスまでやってくる、名もなき景勝地です。

もともと農業用ため池だったところに、地元の花屋さんがスイレンを植え、近所の人が鯉を放したところ、期せずして絶景が誕生したのだそう。関市は700年以上の伝統を持つ刃鍛冶で知られる町ですが、ここが新名所となっています。貯水池は通称「モネの池」と呼ばれてはいますが、絵画のようなスイレンの花が咲く時期だけが見頃ではありません。私が訪ねたときも、空や周辺の自然を水面に映し、それはそれは幻想的な景色でした。
通称「モネの池」があるのは、見渡すかぎりの田んぼが広がる関市の郊外。長良川鉄道の関駅から関シティバスで「ほらどキウイプラザ」まで約1時間、さらにそこから接続しているコミュニティーバスの「板取ふれあいバス」に乗り約10分の「あじさい園」から徒歩1分ほどのところにあります。バスの本数は多くありませんが、見る価値大。天候や時間によってさまざまな表情を見せる名もなき池が、心を癒やしてくれます。