台北から足を延ばして、自然とともに暮らすタイヤル族の村へ

リフレッシュ! 極上旅

風や太陽の動きなどを計算したタイヤル族伝統のかやぶき小屋に、電灯をつけてモダンにアレンジしたログハウス調の食堂

 近代的な建物が立ち並ぶ台北から少し足を延ばせば、牧歌的な風景が見られる台湾。ゆったりと、台湾の自然や原風景を感じられるのが、台湾北東部の宜蘭県にあるタイヤル族の集落「プーラオ・ブールオ」。ここは、自然との共存や本当の豊かさとは何かを教えてくれる場所でもあります。

タイヤル族の文化を伝えるために生まれた新しい集落

 台北駅前のバスステーションから羅東行きの高速バスに乗り約1時間15分、そこからタクシーで大同郷寒渓村の中心地まで約20分。伝統的な模様がペイントされたカラフルな吊り橋をわたって川を越えます。そこからさらにタイヤル族お迎えの4WDに乗り換え、しばらく走ると「プーラオ・ブールオ」に到着。台北の中心地からの所要時間は約2時間と、それほど遠くはないのですが、その道のりは、はるか彼方かなたへ来たような気分にさせてくれます。

 タイヤル族は、台湾原住民のひとつ。「原住民」と聞くと、ワイルドな人々を想像してしまう人もいるかもしれませんが、「タイヤル」とは、先住民(漢民族が中国大陸から移住し始める前の、17世紀初頭以前から台湾に暮らしている人々)を指す正式な呼び名。タイヤル族の人口は約8万5000人で、台湾原住民の中でも2番目に多い民族であり、多くのミュージシャンやアーティストを生み出している多才な民族でもあります。

タイヤル族の集落と村の中心地を結ぶ橋。この橋を渡って、学校や病院、教会などへ行く

 ここ「プーラオ・ブールオ」は、2004年に誕生したタイヤル族の集落です。昔、この一帯には多くのタイヤル族が暮らしていましたが、若者が職を求めて都市部に出ていってしまったことから、人口が激減。先住民族の文化が消えてしまいそうな現実を前にして、「本来の暮らしを伝承したい」と立ち上がったのが、タイヤル族出身の妻を持つ建築家・ランドスケープデザイナーの潘今晟さん。彼が土地を入手し、ゼロから作ったのが、この新しい共同体なのです。

 それ以降、各地に散っていたタイヤル族の人々が徐々に戻り、現在は9家族、40数人が暮らしています。そんな集落に観光客を迎え入れている理由は、タイヤル族の文化を伝えるためと、現金収入を得るため。昔ながらの生活を送っているとはいっても、子どもたちの教育費や医療費、車や食料となる植物の種などの生活必需品を得るには現金が必要です。集落の入場料や観光客が購入した織布代などが、主な現金収入となっています。

機織の技術を持たない若いタイヤル族の女性に、おばあちゃんが技を伝授して、今は全員が織れるように

 ここは、彼らの営みを垣間見ることができる貴重な施設。しっかりとしたおもてなしをするため、一日に訪れるゲストは30人までと決まっています。入場料は、案内とランチ付きで2600台湾元(約9400円)。訪問は予約制で、ウェブサイトや電子メール、電話で受け付けています(すべて英語可)。予約をすれば、地図も送ってくれるし、タクシーの予約手配も可能。ここは観光目的のテーマパークとは一線を画するタイヤル族の暮らしの場ですが、もてなすことが大好きな人々が、温かく迎え入れてくれます。

伝統的なタイヤル料理のランチを堪能し、手作り酒で乾杯!

 「ロカスー!」。集落に到着すると、タイヤル語の挨拶あいさつで迎えられます。さっそく、この集落に暮らす人の案内で見学ツアーへ。中は居住エリアと農耕エリアに分けられ、人が暮らす伝統家屋のほか、竹作りの機織工房や木工所、醸造所、養鶏場、ゲストをもてなす食堂などが点在しています。

 車やパソコン、携帯電話は持っているけれど、彼らの生活は自給自足が基本。自生しているシイタケを採り、畑を耕し、山で野生の豚や鴨を捕らえ、食料にしています。かつては手作りの野菜を都会に売ったこともあるものの、今は生活の本質を考え、自分たちが必要な分だけを収穫することにしているのだそう。

 驚かされたのは、集落で出会ったおじさんに、「ようこそ、ゆっくりと楽しんでいらっしゃい」と美しい日本語で話しかけられたこと。ご両親が日本統治時代(1895~1945年)に日本語教育を受けた世代で、彼自身も聞きかじって覚えたのだと教えてくれました。互いの言葉が異なる原住民同士のコミュニケーションに、日本語が“共通語”として使われていた時代もあったのだそうです。

タイヤル族伝統の粟酒を手作りする醸造所

 食堂に用意されているのは、伝統的なタイヤル料理のランチ。私が訪ねたときは、炭火で焼いたポークスペアリブ、シダの和えもの、生姜しょうがと蒸した紫いも、野菜の煮物、淡水魚の燻製くんせい山椒とカボチャのスープなど、ごちそうがずらり。野菜は無農薬で育てたもので、豚肉はもちろん、わなにかかった山豚です。

 食事のおいしさはもとより、忘れがたいのは、タイヤル族の人たちとみ交わしたホームメイドの粟酒あわざけ。微炭酸の白ワインのようなさわやかさとマッコリのような口当たりの良さに、ぐいぐいと飲めてしまいます。「上澄みは魚に、上澄み以外は肉に合うよ。大量生産できないから貴重だよ、さあ飲んで!」と勧められるまま飲んでいるうちに、すっかりいい気分になってしまいました。アルコール度数は14%とかなり高めですが、タイヤル族の皆さんはお酒が強い! ここでは、ゲストに粟酒をふるまうだけでなく、スタッフも一緒に乾杯し、タイヤル族のエピソードを語るのが、歓迎のスタイルなのです。

 外国人を案内してくれるのは主に、タイヤル族伝統の衣装をまとい、素足というワイルドないでたちが似合う、潘崴さん。この集落を造った潘さんの息子さんです。台湾の公用語である北京語や台湾語、タイヤル語のほか、オーストラリアの大学への留学経験もあるため英語も堪能で、タイヤル族のカルチャーについて、いろいろと教えてくれます。「都会は時間に追われて目まぐるしい。必要なものはたくさんのお金じゃない。マネーとライフは別!」と、彼自身もこの集落の暮らしが気に入っている様子。

キッチンには、畑でとれたばかりの野菜がずらり

 粟酒の宴会でほろ酔い機嫌になるにつれ、「ここに泊まっていきたいなあ」という気持ちになりますが、宿泊施設はありません。日の出とともに起き、夜は静寂のなかで眠る昔ながらのライフスタイルが守られているからです。タイヤル語で「ぶらぶら歩く」という意味の「プーラオ・ブールオ」。その名のとおり、ぶらりと散策しながら、タイヤル族の人々と触れ合うのが、ここでのなによりの楽しみなのです。

 台北からバスとタクシーを乗り継いで約2時間、トータルの交通費は500台湾元(約1800円)ほど。台北から直接タクシーで行く場合、所要時間は約1時半、料金は1500~1800台湾元(約5400円~6500円)ほどなので、2人以上ならタクシーを利用するのもおすすめです。

プーラオ・ブールオ

芹澤和美
芹澤和美(せりざわ・かずみ)
旅行ライター

 編集職を経て、1996年、中国・上海へ短期留学。帰国後、フリーランスの旅行ライターとして活動。主なフィールドは、98年から通い続けているマカオや、中国語圏、アジア、中米、南アフリカ。主に、旅行雑誌やカード会員誌、機内誌、新聞などで国内外の旅行記事や紀行文を掲載。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。

JOURNAL HOUSE