人間と音楽だけで織りなす至福のショーを映画に

All That Cinema

アメリカン・ユートピア All That Cinema
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「アメリカン・ユートピア」(米国)

それでも前を向いて生きていくために大切なことは何かを、本作は伝える。歌い、奏で、踊り、語り、人の心をつないでいく。

かつてロックバンド、トーキング・ヘッズの中軸だったデイヴィッド・バーンが、ブロードウェーの劇場で2019年秋から20年にかけて上演したショーを撮ったコンサート映画で、監督はスパイク・リー。最高に楽しくて、美しくて、心揺さぶる作品だ。

トーキング・ヘッズ時代の名作「ストップ・メイキング・センス」(ジョナサン・デミ監督)とは違う意味で、一生ものの一本にきっとなる。

登場するミュージシャン/シンガー/ダンサーは、バーンをはじめ総勢12人。18年に出た彼の同名アルバムの発展形として生まれたショー。ライブだが、ステージ上には機材も何もない。それもこれも技術のたまもの。みんなマイクや楽器を装着し、配線からも解き放たれ、広々とした空間を自在に動き回りながら、トーキング・ヘッズ時代の代表曲を含む21曲を演奏する。

つまりショーを構成するのは、人間と音楽だけ。全員グレーのスーツに素足という装いも含め、シンプル極まりない。にもかかわらず、とてもカラフルに映るのは、多彩な音楽、洗練と原初的感覚が交錯する身体表現、そしてそれらを生む一人ひとりの存在ゆえ。出身も年齢も体形も異なる「個」が音楽になって結びつき、やがて客席と一体になる。その幸福感といったら。

リーは美しい熱に包まれた空間のただ中へ、映像を通して観客を連れて行く。冒頭の 俯瞰ふかん ショットから始まって、一瞬一瞬が魅力的。縦横無尽な視点は映画ならではだ。

曲の合間にバーンは語る。人と世界の不完全さについて。それを補完する「つながり」について。至福のショーは、社会の分断への異議申し立てでもある。それは、曲の途中でふとひざまずく瞬間など、折に触れて表明されるが、極めつきはプロテストソング「Hell You Talmbout」を歌う時。米国社会の現実や歴史を黒人である自らの視点で描くことに重きを置いてきたリーの世界と、バーンの世界が一つになって高い熱を放つ。人間一人ひとりの命の重さが迫ってくる。あらゆる境目を越えて。

米国のみならず、世界を覆う現実はあまりにも手ごわい。でも、この映画は、希望という武器をくれる。あきらめず表現を続けるバーンのかっこよさ、伸びやかな声を堪能させながら。アートは糧。生きるよすが。何度でも何度でも何度でも映画館で味わいたくなるはずだ。(読売新聞文化部 恩田泰子)

「アメリカン・ユートピア」(米国) 1時間47分。渋谷・ホワイトシネクイントなど。公開中。

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