「コマ撮り」巨匠の傑作 心にとどめたいアニメ芸術の到達点

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岡本忠成監督の「おこんじょうるり」(82年)

日本がアニメ大国なのは今更言うまでもないが、テレビアニメ以外にもこんなすばらしい作家がいたことを、心にとどめておきたい。ストップモーション撮影(コマ撮り)によるアニメーションで1960年代から活躍した川本喜八郎、岡本忠成はその分野の双璧といえる存在。その世界を堪能できる特集。

主に人形を駆使し、日本人の深い精神性にまで到達した川本は、NHKの人形劇「三国志」も手がけた。一方の岡本は、木や皮、粘土などを素材に、変化に富んだ作風が魅力だ。

両者の作品が一般の映画館で特集上映される機会はめったにないという。今回は、優れた作家の作品を最新の技術で修復し紹介する「アニメーションの神様、その美しき世界」シリーズの第2、3弾として、彼らの傑作を5本ずつ選び、4Kデジタルで修復し上映する。

川本喜八郎監督の「火宅」(79年)

川本作品は、狂言に基づく自主制作デビュー作「花折り」(68年)、能などの古典が主題の「鬼」(72年)、「道成寺」(76年)、「火宅」(79年)の人形アニメ4本と、安部公房原作の切り紙作品「詩人の生涯」(74年)。どれも、品位の中に深い思想性と芸術性が息づく。

「火宅」では、旅の僧が、とある塚に立ち寄り、その由来を聞く。昔、美しい乙女を巡って2人の青年が命を懸けて争い、それを見て心を痛めた乙女は、自らの命を絶つも、地獄の炎に焼かれ続ける。

霧に煙る原野のセットや、絵巻物を思わせる背景画の美しさ。その中に立つ人形は りんとして緊張感をはらみ、透き通った精神が表象される。人形にこんな演技をされては、生身の人間の出る幕はないとすら思える。

岡本作品は、合唱組曲をアニメ化した「チコタン ぼくのおよめさん」(71年)、皮肉の効いた短編「サクラより愛をのせて」(76年)、民話を描いた絵本が題材の人形アニメ「虹に向って」(77年)と「おこんじょうるり」(82年)、そして宮沢賢治原作「注文の多い料理店」(91年)。それぞれ、用いる素材や画風までも大きく異なるが、人間の本質への深いまなざしは通底している。

集大成と名高い「おこんじょうるり」は必見だ。イタコのばあさまに恩を受けたきつねが、恩返しに万病を治す浄瑠璃を歌う。郷土玩具のような素朴な人形のしぐさのかわいらしさ、ほのぼのした東北弁の語りと、終盤に待つ悲劇の残酷なまでの対比。涙せずにはいられない。

川本のプログラムは計80分。岡本は計78分。いずれも短編だが、見た人の心を揺さぶるはずだ。芸術としてのアニメの到達点を目撃すべし。

(読売新聞文化部 浅川貴道)

「川本喜八郎、岡本忠成監督特集上映」 渋谷・シアター・イメージフォーラム。公開中。

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