監督賞に初のアジア女性、助演女優賞に韓国人…史上最も多様なオスカーに

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監督賞を受賞したクロエ・ジャオ(Chris Pizzello/Pool via REUTERS)

米ロサンゼルスでこのほど開催された第93回アカデミー賞授賞式で、中国出身のクロエ・ジャオ監督が「ノマドランド」で女性としては史上2人目の監督賞に輝いた。「プロミシング・ヤング・ウーマン」の監督エメラルド・フェネルは女性として13年ぶりの脚本賞、「ミナリ」に出演した韓国のユン・ヨジョンはアジア人で2人目の助演女優賞に選ばれるなど、前評判通り「史上最も多様なオスカー」となった。(読売新聞文化部 山田恵美)

女性が監督賞を受賞したのは「ハート・ロッカー」のキャスリン・ビグロー監督以来11年ぶり。白人以外の女性では初めてだ。

北京に生まれ、米国へ移住し映画づくりを学んだジャオ監督は、ロデオのカウボーイ本人を主役に起用した長編第2作「ザ・ライダー」(2017年)で各国の映画祭を席巻した新鋭だ。

青年と馬を包み込む大自然の映像美にほれ込んだのが、女優のフランシス・マクドーマンド。製作者として名を連ねる「ノマドランド」の脚色と演出をジャオ監督に委ね、自ら主演した。

ジャオ監督は、ノマド(遊牧民)のように暮らす車上生活者を通じ、現代の格差社会を描くこの作品でも、実際の現代のノマドを出演させた。マクドーマンドはそうした人々と共に、新たな生き方を選ぶ女性を演じ、3度目となる主演女優賞を獲得した。

授賞式後、ともにポーズをとる主演女優賞のフランシス・マクドーマンド(左)と助演女優賞のユン・ヨジョン(Chris Pizzello/Pool via REUTERS)

映画評論家の渡辺祥子さんは、「大地を踏みしめ人生を選択する女性たちの強さが雄大な景色の中で表現され、映画に生命力をもたらした」と評し、「監督賞のほかに作品賞、主演女優賞を受賞したのは納得の結果だ」と話す。

マクドーマンドは3年前、「スリー・ビルボード」で主演女優賞を受賞した時のスピーチで、「インクルージョン・ライダー(包摂条項)」という言葉を口にした。それは、出演契約の際に、女性や白人以外の人々を一定以上の割合で採用するよう製作側に求める条項のこと。彼女はこれを用いての、多様性に富んだ映画界の実現をステージから呼びかけたのだ。

今回のスピーチは簡潔。「おれは何も言わぬ。ものを言うのはおれの剣だ」という「マクベス」の一節を引き、「私にとって剣とは仕事。私たちは、仕事を通して戦っている」。さらなる多様性の確保に向け、不退転の決意をにじませた。

性別、人種、思想……。違いを乗り越え関係者が一つになってこそ、素晴らしい作品が生まれる。改めてそう感じさせる一幕だった。

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コロナ禍さなかの主会場は、ロス中心部のユニオン・ステーション。世界に中継されるショーでもある授賞式は、「ブレードランナー」なども撮影された歴史的駅舎で、クラシックな雰囲気の中、進行した。

番狂わせもあった。例年、最後に発表されるのは作品賞だが、今年のラストを飾ったのは主演男優賞。昨年亡くなった黒人俳優、チャドウィック・ボーズマン(「マ・レイニーのブラックボトム」)が最有力視されていたが、受賞したのはアンソニー・ホプキンス(「ファーザー」)。「羊たちの沈黙」以来、約30年ぶりに同部門の受賞者となったが、英国滞在中のため会場におらず、受賞スピーチはなし。あっけない幕引きになった。下馬評通りにならなかったのもまた、投票する映画芸術科学アカデミー会員が多様化したゆえかもしれない。

「亡き娘も拍手してくれている」

アカデミー賞の授賞式では、各賞受賞者が印象的なスピーチを残した。主なものを紹介する。

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「ミナリ」のユン・ヨジョン(助演女優賞)「いつもテレビで授賞式を見ていました。私たちにとって(授賞式は)テレビ番組でした。でも実際、ここに来ることができました。とても信じられません」

「ノマドランド」のクロエ・ジャオ監督(監督賞)「子供の頃から信じている言葉があります。『人之初』、『性本善』、人々は生まれながらにして心の中に善を持っているという意味の言葉です。私は世界中のどこにいる人にも善があると信じてきました」

国際長編映画賞を受賞した「アナザーラウンド」のトマス・ヴィンターベア監督(Chris Pizzello/Pool via REUTERS)

「アナザーラウンド」のトマス・ヴィンターベア監督(国際長編映画賞)「この映画の撮影4日目に娘が交通事故に巻き込まれて亡くなるという悲劇が起きました。今も彼女がここにいて、拍手してくれている気がします」

「ファーザー」のフロリアン・ゼレール(脚色賞)「アンソニー・ホプキンス。この脚本は彼のために書きました。今生きている最高の俳優です。一緒に仕事ができるなんて夢のようでした。アンソニー、YESと言ってくれてありがとう」

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