元俳優のあくにゃんが、男性アイドルを推し続けるワケ

インタビュー

あくにゃんさん
あくにゃんさん

K-POP、ジャニーズ、地下アイドルなど、あらゆる男性アイドルを推す「プロのアイドルヲタク」として、SNSやYouTubeで情報を発信しているあくにゃん(阿久津愼太郎)さん。同じアイドルヲタクたちに向けた熱いメッセージをまとめ、このほど初の著書「推しがいなくなっても、ぼくはずっと現場(ここ)にいる―誰も語らなかったアイドルヲタクのリアル―」(主婦の友社)を出版しました。ディープなアイドルヲタクの世界について聞きました。

「推し、燃ゆ」の芥川賞受賞で、「推し」の認知度がアップ

――自身初の著書を手にした感想は?

昨日、書店を3軒回ったのですが、3軒とも平積みで置いてくれていて、感動してうれしかったです。ある書店では、伊坂幸太郎さんの著書の隣に置いてもらっていて、びっくりしました。

――「いち推しのメンバー」を「推しメン」と略し、さらに略して「推し」と言いますが、以前はネガティブなイメージがあった「ヲタク」や「推し」というワードは、今や一般的にも使われるようになりました。

最近では、学校で好きな子のことを「推し」っていうほど、一般化しているようです。以前は、多くの人が「ヲタク」であることを公言せず、隠していた時代もありました。昔のジャニーズファンは、「推し」という言葉を使っちゃいけない文化があって、例えば、「(Kis-My-Ft2の)北山(宏光)担」とか「(Hey! Say! JUMPの)山田(涼介)担」、「(HiHi Jetsの)井上(瑞稀)担」という言い方をして、同じアイドルのファン同士のことは「同担」と言っていました。

今では、SNSなどのプロフィル欄に「○○推し」とか「○○ヲタ」と書くのは当たり前で、インスタグラムやツイッターで同じ趣味の人同士がつながっていきます。僕は、学生の時の友達は一人もいませんが、ヲタク友達はいっぱいいます。共通言語がたくさんあるので、その方が話していても楽です。

――今年1月、宇佐見りんさんの小説「推し、燃ゆ」が芥川賞に決まったことで、一気に認知度がアップしました。

僕がメディアに出るときは、「ヲタクってこんなに楽しいんだよ」と、ネガティブなイメージを払拭ふっしょくする役割が多いです。僕は「推しにこんなにお金を使っているけど、全然へっちゃら」って言っているけれど、「推し、燃ゆ」の主人公は、僕とは逆の境遇で、悪い方向へと落ちていきます。

ただ、僕もそうですが、主人公が「推すことをやめられないから、つらい」というのは共感できますし、そこにフォーカスしているのがすごい。「推し」が広く知られることになったのは、「推し、燃ゆ」の影響力がとても大きいと思います。

――あくにゃんさんは、14歳で芸能界に入り、阿久津愼太郎として俳優活動をしていました。2016年に21歳で引退し、その後アルバイトをしながら大学に通い、卒業後は一般企業で働いているそうですね。

詳細や当時の心境は著書にも書きましたが、俳優の仕事は自分には合っていないと感じる部分もあったので、辞める道を選びました。今は会社員をしながら、「プロのアイドルヲタク」として活動しています。

――推される側と推す側、両方の気持ちが分かるということですね。

友達の推しへのファンレターを見て、「自分だったらこういう書き方はしないな」と思います。逆に、アイドルの子たちも、ファンから何を求められているのか、よく分からない方もいるみたいで、僕のYoutTubeを教科書的な感覚で見てくれているそうです。10年間、アイドルヲタクをやってきた経験をSNSやYouTubeで発信してきて、それをファンとアイドルの両方が参考にしてくれるようです。

気になる謎の男性「じぃや」の存在

ヲタク仲間の「じぃや」さん(右)
ヲタク仲間の「じぃや」さん(右)

――YouTubeの「あくにゃんちゃんねる!」に頻繁に登場する年配の男性「じぃや」さんの存在が気になります。

著書にも書きましたが、じぃやは元々、俳優だった頃の僕のファンでした。あくにゃんとして活動を始めてから、共通の知人を通して知り合ったんです。YouTubeに出演してもらったり、今はアシスタントとして手伝ってもらったりしています。そんなじぃやにもファンがいるんですよ(笑)。ヲタクの中にも有名なヲタクが何人かいて、そのヲタクにヲタクがつく時代です。「有名ヲタクと話したい」という謎の需要があるんです。

――アイドルヲタクのヲタクのそのまたヲタクということですか……。無限ループですね。

そうですね(笑)。一緒に歩いていると、僕よりも先にじぃやの方に気づくファンの方がいるくらいです。有名ヲタクにはファンがいる一方で、アンチもいて、「自分の考えを総意みたいに言うな」とか、「学級委員長みたいに取り締まるな」といったダイレクトメッセージが送られてくるそうです。推しについて「自分の方が詳しい」というマウントの取り合いもあります。

推しは「まえだまえだ」からパンダまで

大手小町の取材に応じる、あくにゃんさん
大手小町の取材に応じる、あくにゃんさん

――ヲタク活動のルーツは?

いろいろかじりました。最初は、兄弟漫才コンビの「まえだまえだ」から始まって、宝塚、K-POP、地下アイドル、ジャニーズ、お笑い芸人、それに、Jリーグのゴールキーパーを好きになったこともあります。あと、人間以外だと、上野動物園のパンダとか。最近は、ディズニーのダンサーとかキャラクターとかを推してみたいなと。誰かにお金をつぎ込むのが好きなんです(笑)。推しが売れたらうれしいなという気持ちです。

永遠だと思っていた推しが突然いなくなるなんて

――最近、ジャニーズJr.の22歳定年制や、古参ジャニーズの活動休止・解散・退所などが話題になっています。

推しが急にいなくなるというのは想像していないし、例えば、安室(奈美恵)ちゃんは、永遠にいると思っていました。V6だって、ずっと続くものだと思っていたので、びっくり。ジャニーズの強みって、歳を重ねてもアイドルでいられるところだと思っていたので。それでも、Jr.の子たちが目標にできる先輩がいればいいと思います。

最近、「推しは推せるときに推せ」という言葉を耳にしますが、悲しい標語のような言葉ですよね。僕は、その言葉が特別好きというわけではないけれど、推しはいつか消えるという前提でいないと、「急に消えた時にきついよ」ということだと思います。僕は「推しが急に消えてもいいように、いつもMAXでヲタ活しよう」と言いたいです。

――あくにゃんさん自身は、どんなときにヲタ活が報われたと感じますか?

うれしいこと、悲しいことを含めて、推しが涙を見せてくれたときです。僕が推しているのは、ごく「普通の子」が多いんですよ。そんな子が頑張っている姿をみると、「頑張って、無理してアイドルを続けてきて、よかったね」という気持ちになります。

コロナ禍でヲタ活にも変化

――コロナ禍で、ライブ会場や握手会などの「現場」に行って、推しに会う機会が減りました。

推しと実際に会うことはできないけれど、今はライブ配信やSNSなどで推しの近況を知ることができます。インターネットのおかげで、推しがより身近に感じられることもあります。推しに対する熱量を保つことは難しいですが、今は全てのヲタクが平等に推しと会えないので、他人に対するやっかみも生まれませんし、わりとフラットな気持ちで楽しめています。

インターネット解禁で変わったヲタ活

――近年、ジャニーズ事務所がインターネットへの露出を解禁したことは大きいですね。

ネット解禁で特に感じるのは、高校生とか若いファンが増えたことですね。それまでは、親がファンクラブに入っていたから、一緒にコンサートに連れて行ってもらったのがきっかけでファンになったという子が多かったんです。ファンの年齢層が低くなったことで、ファンとアイドルの距離感も近くなっています。昔のアイドルには近づきがたいカリスマ性のようなものがありましたが、アイドルが導入したSNSで、私服や全身タイツ姿などが見られるようになり、ファンはより親近感が湧くようになりました。

アップデートしたい「アイドル界のジェンダー観」

著書を手にするあくにゃんさん
著書を手にするあくにゃんさん

 

――著書の中で、はっと気づかされたのは、「アイドル界のジェンダー観」についてです。私も以前は、男性アイドルや若手俳優へのインタビューで、必ず「好きな女性のタイプは?」と質問していました。今では、そういうことは個人的問題で聞くべきではないと、考えをアップデートしました。

僕が芸能界で活動していたとき、何人かの俳優さんと一緒にインタビューを受けると、「好きな女性のタイプは?」と聞かれることが何回かありました。ある時、雑誌の取材で、バレンタインデーに女子が男子にチョコレートをあげる前提で、「女の子からどんなチョコレートをもらいたい?」「手作りと市販品、どっちがいい?」と質問されました。それがきつくて、「答えたくない」と言っても、「他の皆さん全員に共通で聞いている質問だから」と拒めない状況が嫌でした。取材者側は、ファンが求めていると思って、仕事として恋愛についての質問をしてくるのは理解しています。

でも最近は、時代の変化を感じます。例えばK-POPアイドル、NCT 127のドヨンさんは、多様な恋愛観に理解を示した発言をしています。日本も徐々に変わっていってくれればと思って、この本を書きました。

――あくにゃんさんの今後の活動は? 最近、メディアへの露出も増えていますが、芸能界に復帰する予定はありますか?

元々やっていた俳優業への復帰が一番難しくなってしまったなと思います。舞台とかは稽古期間中、会社を休めないですしね。テレビに出なくても、発信する場はたくさんあります。コロナが落ち着いたら、イベントもやりたいと思っています。

――著書を手にする人へ、メッセージをお願いします。

何かしらのヲタクになりたい人や、外出自粛期間中にヲタ活を始めて、新しい「沼」に足を突っ込んだ人も増えたと思います。楽しいこともあるけれど、つらいことや悲しいこと、ヲタクをやめてしまいたいと思うこともありますし、推しにモチベーションを求める自分を責めてしまうこともあるかもしれません。人それぞれなので、参考になるところだけをかいつまんで読んでもらいたいと思います。この本は「明日からもヲタクでいたい」と思える内容になっています。推しといっしょに“推しあわせ”に!

(取材/撮影:読売新聞メディア局 遠山留美)

あくにゃん
アイドルヲタクYouTuber

 1995年6月21日生まれ、栃木県日光市出身。本名の阿久津愼太郎として2009年から16年まで俳優として活動。
16年芸能界を引退。18年、大学を卒業し、一般企業に入社。21年3月、著書「推しがいなくなっても、ぼくはずっと現場(ここ)にいる―誰も語らなかったアイドルヲタクのリアル―」(主婦の友社)を出版