吉岡里帆が初の母親役「ぱーんと吹っ切れました」

インタビュー

女優の吉岡里帆さんが、20日(金)公開の映画「泣く子はいねぇが」で、従来のイメージと異なる役どころを熱演しています。映画は、大人になりきれない若者が、一歩ずつ前に進もうと奮起する姿を描いた青春グラフィティ。吉岡さんは、父親の自覚に欠ける夫のたすく(仲野太賀)にいらだちながらも、幼い娘のために懸命に生きる妻・ことねを演じています。吉岡さんに、役作りや撮影中のエピソードについて聞きました。

【映画の内容】
秋田県男鹿市には、大晦日おおみそかの夜、集落の青年たちがナマハゲにふんして「泣く子はいねぇがー」などと叫びながら家々を巡る伝統行事がある。地元の青年・たすくは、行事への参加を頼まれる。娘を出産したばかりの妻・ことねは参加に反対するが、たすくは依頼を断り切れず、出かけていった。ところが、たすくはナマハゲの面を付けたまま泥酔したあげく、取り返しのつかない失態を犯してしまう。

当たって砕けても、走り出した方がいい

――佐藤快磨監督から手紙で出演依頼があったそうですが、そのときの気持ちを聞かせてください。

監督が長年、温めてきた作品への愛情にあふれたお手紙で、私にぜひ出てほしいと書かれていました。お手紙をいただいたこと自体がすごくうれしくて、「絶対に出なければ」という使命感を抱きました。ただ、大きな舞台公演を控えていたので、同時進行できるかどうかという葛藤もあって、少し悩みました。でも、秋田の風土や文化を通して、若い未熟な夫婦の葛藤と成長を描いた作品で、「年齢的にも今しかできない」と思って、出演を決めました。

――台本を読んで、心をひかれたのはどこですか。

物語はとても普遍的で、説得力があります。主人公のたすくは、子どもが生まれたけれど、「どうやって、父親になればいいのか」がわからない。ことねはおなかの中で育てている間に、赤ちゃんと共有する時間があって、だんだんお母さんの自覚が芽生えていったのかなと思っていて。でも、たすくは、自分が親と自覚できなくて、葛藤が生まれるんです。登場人物たちが生きている小さな世界の中で、細やかな心の動きが丁寧に描かれています。世界が小さいからこそ、そのセリフや行動が、たくさんの人に共感してもらえると思いました。

――冒頭のシーンから、ことねは髪がぼさぼさで、疲れ切った表情でした。吉岡さんにとって新しい挑戦だったと思いますが、役にどのようにアプローチしましたか。

ことねにとって、まず「子ども」の存在があって、次が夫のたすくなんです。どんなシーンも「子ども」を中心にして会話をしています。その感覚を意識して、リアリティーを大切に演じました。監督から、「シーンごとに、まとう雰囲気や空気感を変えて」と言われたので、そこも意識しました。子育ての過程で変わっていく、ことねを見せられたらいいなと。

――作中、ほとんど笑顔がありませんでしたね。

監督に笑わないように言われていたんです。つい笑顔になると、「笑っちゃダメ」と言われて、そこがすごく大変でした(笑)。

――この作品に出演した感想を教えてください。

まず、佐藤監督が情熱を傾けた作品に出演できたのが、一番うれしいことでした。母親を演じるのは初めてで、作品を通して、私自身も「地に足を着けた大人になること」を自覚できました。今後の作品選びに影響するくらい、私にとって重要な作品です。この映画には、見た方の背中をちょっと押すような力もあると思います。たすくのように、あと一歩が踏み出せない人に、「当たって砕けるとしても、行くべきだ! 立ち止まるより、走り出した方がいい」というエールが込められている気がします。

芯の強さが芽生えた気がします

――この物語は、ナマハゲが重要な要素になっています。実際にナマハゲを見て、どう感じましたか。

ナマハゲって、「年に一度、怖い鬼がやってくるから、いい子にしてなきゃダメよ」という、教訓めいたお祭りだと思っていたんです。でも、本来ナマハゲは災厄を祓(はら)ったり、豊作をもたらしたりする神様の使者なんだそうです。お祭りというより、風土に根付いた文化で、受け継がれていく伝統なんだなと感じました。エキストラに来てくれた地元の子どもたちが、ナマハゲを本気で怖がるんです。演技じゃなくて、大泣きしちゃう。「いやだーーー」って逃げようとするんです。映画の撮影と知っていても、怖くて怖くて仕方ない。小さいときから根付いている思いが大きいんですね。

――たすく役の仲野太賀さんと共演した感想を教えてください。

太賀さんは、たすくにぴったりでした。太賀さんの燃えたぎる熱量と、揺れ動く気持ちのコントラストが「たすく像」と重なりました。たすくは、失敗から逃げるように東京に行ってしまって、ことねは、一人で子育てと向き合います。海辺のシーンが一番印象的でした。たすくがいない間に、ことねは成長して、どんどん変わっていく。だから、たすくと対峙(たいじ)しても冷静に話ができる。すごく切ないけど、ことねの強さが感じられるシーンです。ことねを演じて、芯の強さが芽生えた気がします。ぱーんと吹っ切れた感覚があって、「これからも強い女性を演じることがあるのかな」と思いました。

「ずっと一番の味方」というファンの言葉に泣きました

――たすくはつらい現実から逃げ出しますが、吉岡さんは落ち込んだり、つらかったりするとき、どうやって乗り越えますか。

たすくのように逃げ出したい時もありますが、その都度、自分自身がやるべきことを全うする方を選択してきました。逃げ出さなくてよかったと思います。悩みにぶち当たるたびに、つらいことばかりを見ないで、いろいろ角度を変えて、違う側面から物事を見るようにしています。今では、角度探しのレパートリーが増えちゃって(笑)。悩むのは悪いことだと思っていません。ただ、うじうじといつまでも悩んでいたら前に進めないので、悩む時間を決めて、5分くらいたったら、脳内のスイッチを切り替えるんです。そして、次の楽しいことを考えます。

――落ち込んだ気分を救ってくれるアイテムはありますか。

何より一番は、ファンの皆さんからの励ましの言葉です。とくにファンレターは威力がありますね。「何があっても、ずっと一番の味方です」なんて書いてあって、いつも泣かされています。いただいたお手紙は全部大切に取ってあります。それに、お風呂に入るのはいい気分転換になります。熱いお湯と冷たい水を交互に浴びる「温冷交代浴」をやっていて、冷水を浴びた瞬間に嫌なことは忘れちゃいます。あとは、大好きな植物に水をあげると、癒やされます。「はああ~、流れていく」という感じです。

――役者の楽しいところ、苦しいところを教えてください。

いいところは、いろいろな人の人生と向き合うので、発見や気づきが多いこと。ひたむきに仕事に打ち込めば、見てくださる方にちゃんと届くこと。大変なのは、毎回、いろいろな人生を考えて没入するので、1年が5年か10年くらいに感じるんです。すごく早く年をとっている気がします。

――今後、仕事以外で挑戦したいことはありますか。

陶芸とか、工芸品とか、そういう「ものづくり」を趣味に持ちたいです。ガラス工芸が好きなので、オブジェとかグラスが作れたら、うれしいです。

(聞き手/読売新聞メディア局 後藤裕子、撮影/稲垣純也)

【映画情報】

「泣く子はいねぇが」(C)2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

『泣く子はいねぇが』

監督・脚本・編集:佐藤快磨
出演:仲野太賀、吉岡里帆、寛一郎、山中崇、余貴美子、柳葉敏郎
制作プロダクション:AOI Pro.
配給:スターサンズ/バンダイナムコアーツ
(c)2020「泣く子はいねぇが」製作委員会
2020年11月20日(金)全国公開

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吉岡里帆(よしおか・りほ)
女優

 1993年生まれ、京都府出身。2013年より活動を始める。主な出演作は、ドラマでは、連続テレビ小説「あさが来た」(15/NHK)、「ゆとりですがなにか」(16/NTV)、「カルテット」(17/TBS)、「きみが心に棲みついた」(18/TBS)、「健康で文化的な最低限度の生活」(18/KTV)、「時効警察はじめました」(19/EX)、映画では、「音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!」(18)、「パラレルワールド・ラブストーリー」(19)、「見えない目撃者」(19)、「Fukushima 50」(20)などがある。