チョークアートでキラキラしたときめきを…Moecoさん

インタビュー

黒板にオイルパステルで絵や文字を描く「チョークアート」。オーストラリア生まれの比較的新しいアートですが、黒板にポップなイラストやロゴを描いた、カフェやレストランのメニューボードを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。そうしたメニューボードや看板を彩る絵を“芸術”に昇華させ、世に送り出しているのが、アーティストのMoecoさんです。Moecoさんに、チョークアートの魅力や作品への熱い思いを聞きました。

「ブレずにきちんとやり遂げたい」から、自分を追い込みました

Moecoさんは14歳の時、「全日本国民的美少女コンテスト」でマルチメディア賞を受賞し、18歳でアイドルとしてデビューしました。その後、歌手や女優として活躍し、10年ほど前にチョークアートを始めました。「子どもの頃から絵を描くことが好きでした。でも、年を重ねるにつれて、絵を描く機会がなくなっていったんです。あるとき、テレビで見たチョークアートに衝撃を受けて、『これだ!』と思いました」

Moecoさんは、そうと決めたら実行する“行動派”。すぐにチョークアートの教室を探し、いきなり「プロフェッショナルコース」に申し込んだそうです。

「教室の先生も驚いていました。普通は、基礎を学んでからプロフェッショナルコースに進むのですが、私はせっかちなんです。それに、ブレたくないという気持ちもありました。始めるからには、きちんとやり遂げたかったので、自分を追い込んで『やるしかない』という状況にしたかったんです」

Moecoさん

その後、ニューヨークとオーストラリアに留学して、チョークアートを本格的に学びました。特にオーストラリアへの留学は、Moecoさんを大きく成長させたといいます。

「14歳でオーディションに受かってから、周りにずっと守られてきました。デビューして10年たち、一度、その輪の中から出てみたかったんです。留学先を決めたり、自分のスケジュールを管理したりと、私にとってすべてが勉強でした。オーストラリアには、チョークアートの先駆者の方がいて、ご自宅にホームステイをさせてもらいました。同じ環境で一緒に暮らして、同じものを見て、感じたかった。肌からチョークアートを吸収したかったんです。毎日が刺激的で、充電切れでベッドに倒れ込むまで打ち込みました。やりがいがあって、すごく楽しかったです」

指先に魂を込めて、体温で描いていく

チョークアートの魅力はどんなところにあるのでしょうか。実際に絵を描いてもらいながら、話を聞きました。

まず、木板にブラックジェッソを塗ります。ジェッソとは、アクリル樹脂と顔料、炭酸カルシウムなどを混ぜて作った下地材です。塗ってドライヤーで乾かしたら、鉛筆で下絵のラインを描きます。

「『黒板から作るの?』と、驚く人が多いですね。下地は黒か深い緑に塗ることが多いです。白ではなく、黒地に描くところがチョークアートの魅力の一つだと思います。描いた絵が鮮やかに映えるんです」とMoecoさん。

絵の題材は、つやつやした真っ赤なリンゴ。最初に、リンゴの曲面に沿ってハイライトを入れていき、次に色を載せては指でなじませます。

未使用の油性チョーク(左)と使い込まれた油性チョーク(右)

「チョークの種類はいろいろありますが、私は油分のあるタイプで、スイス製のものを使っています。指で色を混ぜながら、自分の体温で描いていきます。指で触って色をなじませるところが気に入っています」

色を替え、何度も何度もなじませます。大きな作品を描くときには、指の皮がむけて血がにじむこともあるのだとか。

「外でレンガに描いたときは、ゴム手袋をはめていたんですが、結局、脱いでしまいました。指先の感覚が大事なんです。いつも指先に魂を込めているので、本当に好きなものしか描けないんです」

美しさだけでなく、内側にある暗い部分も描きたい

モチーフはどうやって見つけるのか聞いたところ、「日常の中でアンテナを張っています。目に留まったキラキラしたもの、ドキドキしたものをメモしたり、写真に撮ったり。今、自分がどういうものに刺激を受けるのか、集めて積み重ねて探っていきます」とMoecoさん。

キラキラしたものが好きだというMoecoさんの作品には、スワロフスキーの宝飾品で装ったものがあります。Moecoさんは「何かをプラスする」ことで、ドキドキときめく作品に仕上げたかったといいます。

「マイナス思考は好きじゃないんです。例えば、悪いことを考えてもいいことを考えても、費やす時間は同じですよね。だったら、いいことを考えた方がいい。日々、いろいろなことがあって、落ち込むときもありますが、なるべくポジティブに考えるようにしています。思いついたことは、どんどん実行します。『やらないよりやったほうがいい』と思っているから。作品を見る人にときめいてほしいんです。描いていて、自分がワクワクしなかったら、人をワクワクさせられないでしょう? 自分が描く作品にも何かをプラスすることで、もっと良いものにしていきたいと常に思っています」

絵画のオークション「第40回SBIアートオークション-モダン&コンテンポラリーアートセール」に出品した作品。バロック期を代表するイタリアの画家・カラヴァッジョを参考に描かれた。400万円という高額で落札された

表現するという意味では、歌手や女優として舞台に立っていたときと同じだというMoecoさん。スポットライトが当たる場所では、明るければ明るいほど、暗い影が浮かび上がります。「その影の暗さも作品に描きたい」と、Moecoさんは話します。

「オードリー・ヘプバーンやマリリン・モンローを描くのは、彼女たちが美しいだけではなく、芯の強さやダークな側面を持っているからです。その暗い部分も作品に落とし込んでいきたいと思っています。これまでは、女性を描くことが多かったのですが、今は男性も含めた新しい作品を考えています。図案を練っているところで、来年には形にしたいですね」

3日から東京・銀座で個展が開かれている。「私自身、東京で初の大集結個展です。新旧織り交ぜた作品が展示されます」とMoecoさん

(取材/読売新聞メディア局・後藤裕子、撮影/稲垣純也)

【Moeco展2020】
11月11日まで、東京・銀座の「DisGOONieS」で個展が開かれています。これまで発表してきた作品と、新たに描き下ろした作品が展示されています。

会期:11月3日(火)~11日(水)
時間:12:00~16:00 ※7日(土)は休廊、最終日は15:00まで
場所:DisGOONieS/ディスグーニーズ
東京都中央区銀座3-3-1 ZOE銀座B1F

あわせて読みたい

Moeco(もえこ)
チョークアーティスト

 松下萌子(まつした・もえこ)、1982年、兵庫県出身。1997年「第7回全日本国民的美少女コンテスト」マルチメディア賞受賞。その後、映画、舞台、ドラマ、歌手と幅広く活動。2011年、趣味でチョークアートを始める。13年にハワイの「GREEN ROOM hawaii」にてチョークアーティストとしてデビューし、以来、数々の個展を開く。CDジャケット、壁画、SHOPの看板などチョークアートの枠にはまらない作品も展開し、各方面から高い評価を得る。