「平日だけライブ」「コロナ禍」で夫婦デュオが気づいた幸せの形

インタビュー

ハンバート ハンバートの佐藤良成さん(右)と佐野遊穂さん

夫婦デュオのハンバート ハンバート(佐藤良成さん、佐野遊穂さん)は、小学生の息子たちのために2019年の1年間、ライブを平日限定で開催し、土・日曜は家族がともに過ごす時間に充てるという異例の決断をして話題を集めました。21日には、ニューアルバム「愛のひみつ」(スペースシャワーミュージック)をリリース。二人に、新作や家族への思いを聞きました。

閉園前のとしまえんで行った配信ライブ「グッバイ、としまえん」(8月25日)で好評だった「ぼくらの魔法」「試作品第12号」などの新曲をはじめ、人気アニメ映画「この素晴らしい世界に祝福を!紅伝説」のエンディング主題歌「マイ・ホーム・タウン」や、「プリンセスコネクト! Re:DIVE」のエンディング主題歌「それでもともに歩いていく」のセルフカバー曲など全12曲を収録。フォークやカントリーなどをルーツに、佐藤が自ら演奏するフィドル、バンジョー、マンドリンなどの音色を取り入れた多彩なサウンドが持ち味。初回限定盤(CD+DVD)3850円(税込み)、通常盤(CD)3080円(同)。

――アルバムのタイトルを「愛のひみつ」にした理由は?

佐野 去年の秋頃、具体的にどんなアルバムを作るのか、スタッフと打ち合わせをして、その時点で出来上がっている曲を並べてみたら、共通するテーマは「愛」だなと。ただ、「愛」という言葉を使ったアルバムのタイトルは、もう出尽くしている感があって……。

佐藤 愛の何々とか、何々の愛とか。山ほどアイデアを出したんですけど、ネットで検索すると、もうみんな使われているんです。で、あらためて考えてみたら、愛って、相手になかなか伝えられない思いです。実は僕たち、そういうことを歌にした曲がほとんどなんです。面と向かって愛を伝えられたら、こういった曲は作っていない。僕たちは、心の中に秘めた愛を歌にしているんだ。そう考えたら、「愛のひみつ」がいいんじゃないかと。

「何々っぽい」を恐れずに

――本作は、オリジナルアルバムとしては10枚目になりますが、今回新たに試みたことはありますか。

佐野 「マイ・ホーム・タウン」と「それでもともに歩いていく」は、アニメ向けに提供した曲です。アニメの監督やディレクターから「こんな感じの歌詞で、こんな感じの曲調で作ってほしい」と細かいオーダーがあって、それに沿って作ったのですが、実は、今までそういったことがなくて……。

佐藤 オーダーを受けて曲を作るって、苦手意識があったんです。ところが、やってみたら非常に面白くて。いろんなオーダーを受けても、出来上がった曲は結局、いつもの自分の曲なんです。「何々っぽい曲を作って」と言われて作っても、自分の中から出てきたものは、結局、自分らしいものに出来上がるんだなって。すごく勉強になりました。

佐野 もの作りをしている人は、「何々っぽく作る」って、考えちゃいけないことだと思いがちです。でも、「何々っぽく」を恐れなくていいんだなって。きっと、私たちが大人になったから分かったんだと思います(笑)。

佐藤 人のマネをしても、自分らしさは失われないのが分かったので、人のアイデアをどんどん取り入れられたし、取り入れるのを恐れなくなりました。人の意見を踏まえて音を作り直したりすることも積極的にできて、結果として、すごく良いアルバムが出来上がったと思います。

土・日は息子たちと過ごす時間に

――「平日しかライブをしない」と宣言して、2019年の1年間、土・日のライブ活動を休止しましたね。音楽業界で、集客が期待できる土・日にライブを行わないというのは、大きな決断だったと思います。

佐野 小学生の息子が3人いて、週末に学校行事が入ることが多いんです。土・日に仕事のある業種であっても、お父さんかお母さんのどちらかは行事に参加できる場合が多いと思いますが、私たちは夫婦二人とも参加できません。それで、スタッフから「ライブを平日に限定したら」と提案があって、試しにそうしてみてはどうかと。そのスタッフにもやはり、小さなお子さんがいたんですよ。

佐藤 ずっと続けられるかは分からないけど、1年間ならやってみようかと。

――平日は仕事が忙しくて、土・日しかライブに行けないというファンも多いのでは。

佐藤 確かにそういう声はありました。でも、その反対もあって、「土・日に子供を妻に預けてライブに出かけるのは、ちょっと気が引ける」とか、「土・日は家族との用事があってライブに行けないから、平日のライブの方がありがたい」といった声を聞きました。どっちもどっち、ですね。

――土・日を家族で過ごすようになって、何か気づいたこと、変化したことはありますか。

佐野 ふだんから息子たちのことはよく見ているつもりだったけれど、一緒に過ごす時間が増えて、「子供なりにいろいろ考えているんだな」って気づかされました。私たちが運動会に行ってあげられなくても、彼らは「寂しい」だなんて口にしたことはありませんでした。でも、運動会で子供がすごく喜んでいる様子を見たら、「やっぱり寂しかったんだな」って。

佐藤 僕のように、自分の好きなことを仕事にしていると、オンとオフの切り替えがうまくできなくて、ずっとオンになっちゃうんです。でも、強制的に「土・日は仕事をしません」と決めたら、今までできなかった切り替えができるようになりました。オンの時は仕事に集中して、オフの時には気分転換をはかると。それができるようになったので良かったです。

――1年の休止期間を経て、土・日のライブを再開しようとした矢先に、コロナ禍となったわけですね。学校が休校になって、息子さんたちと過ごす時間がさらに増えたのでは。

佐藤 まさにそうでした。今年は、土・日のライブツアーのスケジュールをいっぱい入れて頑張ろうと思っていたのに、残念ながら全部キャンセルになってしまいました。

佐野 子供たちともまたずっと一緒。「こんなことなら、去年ライブを休まなくてもよかったのに」って(苦笑)。

撮影:小林亜佑

「人並み」なんてものはない

――アルバム収録曲の「手のひらの中」や「ねる子よ育て」などには、歌詞に幼い子供が登場します。お子さんたちと過ごす時間が増えたことが、音楽にも何らかの影響を与えたのでしょうか。

佐藤 どうなんでしょう。自分ではちょっと分からないですね。僕はいつも、「こんなことがあったから、こんな曲を作ろう」って考えて曲作りをしているわけではないんです。まず、メロディーが浮かんできて、そこから何か情景が浮かんで、その情景を言葉にしていきます。「子供の曲を」と考えて作ったわけではなくて、毎日生きていて感じることが、おのずとメロディーや言葉になって表れてくる。そんな感じでしょうか。

――仕事が忙しくて、なかなか子供と向き合えないという親は多いと思います。何かアドバイスを。

佐野 子育てで、「ちゃんとやらなきゃ」と思い過ぎるような気がします。私も、周りの人から聞いた話を参考にすることが多いのですが、そうすると、どうしても「うちも、子供が遅刻しないよう、ちゃんと学校に行かせなきゃ」とか、「うちも、子供に早く宿題をやらせなきゃ」って思ってしまうんです。

佐藤 「人並みにやらなきゃ」って思ってしまうんだよね。人並みなんてものは、本当はないのに。

佐野 子供だって、朝、学校に行って夕方に帰ってきたら、すごく疲れているはずです。「宿題ができなくたって、無理もないよね」って思えたらいいですよね。

佐藤 コロナ禍で、SNSを始めた人が増えたじゃないですか。見てみると、「家族でキャンプに出かけた」って、たくさん載っています。すると、「今キャンプがはやっているのに、そう言えばうちの子たち、どこにも連れていってあげていないな」って、キャンプに連れていかなきゃいけない気になってくる。でも、みんながやっていることを、うちもやらなきゃいけないなんてルールは、どこにもないわけです。よそはよそ、うちはうち。同じ子育てをする必要はない。そんなふうに思えたらいいですよね。子育てに限らないことだけどね。

佐野 何でもそう。うちはうち。

佐藤 幸せの形を一つに決めつけてしまうと、苦しくなるよね。

(取材/読売新聞メディア局 田中昌義)

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ハンバート ハンバート

佐藤 良成(さとう・りょうせい) 1978年生まれ、神奈川県出身。担当はボーカル、ギター、フィドル(バイオリン)ほか。
佐野 遊穂(さの・ゆうほ) 1976年生まれ、東京都出身。担当はボーカル、ハーモニカほか。
1998年に「ハンバート ハンバート」を結成。2001年にCDデビュー。映画の劇中音楽や主題歌、CMソングを数多く手掛け、現在も「ミサワホーム」などのCMが多数オンエア中。12月26日(土)、27日(日)、東京・渋谷のLINE CUBE SHIBUYA(旧渋谷公会堂)で、「愛のひみつ」リリース記念ライブを開催。オフィシャルホームページ先行受付限定で、ライブ開催を記念した「ハンバート家からのお歳暮」付きチケットを販売中。