若い男女の逃避行を描いた映画「ソワレ」が28日(金)に公開されます。主演を務めたのは、日本映画界期待の若手・村上虹郎(にじろう)さんと芋生悠(いもうはるか)さんです。本作は、俳優の豊原功補さんと小泉今日子さん、外山文治監督らが立ち上げた映画製作会社「新世界合同会社」の第1回プロデュース作品としても注目を集めています。村上さんと芋生さんに、役作りや撮影のエピソードを聞きました。
【映画の内容】
翔太(村上虹郎)は役者を目指して上京したものの、結果を出せず、オレオレ詐欺に加担して日銭を稼ぐ日々を送っていた。ある夏の日、生まれ育った海辺の街の高齢者施設で演劇を教えることになった翔太は、その施設で働くタカラ(芋生悠)と出会う。ところが、父親から暴力を受け続け、心に深い傷を負うタカラは、ある事件を起こしてしまう。それをきっかけに翔太とタカラは、行く当てのない逃避行に出る。過去から、現実から、逃げる二人を待つものは――。
―――お互いの印象を教えてください。
村上さん 芋生さんとは、タカラ役のオーディションで初めてお会いしました。タカラは内に向かう演技が多く、とても感情を出しにくいキャラクターなんです。芋生さんには、タカラの内に秘めた凜(りん)とした部分を、こちらに伝えてくるパワーがありました。そのあと、豊原さんが演出している舞台を見に行ったんです。そこでは芋生さんがものすごく力強い役を演じていて、存在感のすごさに驚きました。タカラは、僕から見ると弱者で、「よくぞ今まで生きていてくれた」と思わせる人です。芋生さんはそれを体現しつつ、芯の強さを感じさせる。この役をそんなふうに演じるのはすごく難しいので、すごいなと思いました。

芋生さん 村上さんと初めてお会いしたとき、「あ、ホンモノだ」と思いました(笑)。オーディションでは、「村上さんにちゃんとセリフを届けたい」と思いながら演じました。村上さんも直球で返してくださるので、演じていて本当に楽しかったです。撮影に入ってからも、私がどんなに頼っても、しっかり受け止めて返してくれる。とても信頼できる人だと思いました。

―――映画はドキュメンタリータッチで始まり、徐々に現実と心象風景が重なり合うシーンが多くなります。
村上さん 高齢者施設で演劇を教えるシーンの撮影は大変でした。監督が生っぽく撮りたいということもあって、芝居の自由度が高くて、任される部分が多かったんです。おじいちゃん、おばあちゃんの反応が面白くて、ハプニングが新しい芝居を生んでくれる。それを生かすも殺すも監督と僕ら次第。劇団員役の方たちとは、何年もいっしょにいた仲間の空気感を出すために、積極的にコミュニケーションをとりました。寝る前に「人狼(じんろう)ゲーム」をやりながら、翌日の演技プランを話し合ったこともあります。
芋生さん 後半、逃避行が始まったあたりから、幻想的なシーンや映画的な要素が多くなります。苦しい場面をあえてキレイに映し、私たちの逃避行を美しく優しく撮りたかったんだと思います。でも、私はあえて後半をドキュメンタリー風に演じるように意識しました。順撮りだったので、前半に構築したものが、逃避行と同時に走り出す感じを表現したかったんです。
「ふたりの出会いは必然だったと思います」
―――タカラは父親の暴力を受けてきたという難しい役ですが、どのようにアプローチしましたか。
芋生さん タカラの人生はつらくて苦しいものです。でも、タカラは他人にそう思われるのが嫌なんです。私も「そんなふうに見ないで。同情なんかしないで」という思いでした。タカラは強い人です。全部あきらめて投げ出してもいいのに、心の中に持ち続けている「光」を失いません。その光は、誰にも汚せないんです。孤独なタカラに寄り添うような気持ちで、希望を見いださせてあげたいと思いながら演じました。

―――翔太はなぜ、よく知らないタカラと逃げたのでしょう。
村上さん タカラは、事件を起こしたからといって、逃げる必要はなかったんです。でも、逃げてしまう。タカラにとって翔太と逃げることが、唯一の救いだったからです。翔太にとっても同じです。この社会の中で生きていくのはつら過ぎて、とにかく「逃げる」しか頭になかったんだと思います。でも、一人では逃げられない。そこにタカラがいたから、逃げられた。無意識ですが、共犯者としてのタカラを見つけたんです。ふたりの出会いは必然だったと思います。
芋生さん タカラはずっと、やっと息をしているような状態で生きてきました。翔太との出会いで、「光」が輝き出します。警察に追われて逃げるのは苦しいけれど、翔太といっしょにいた時間は、すごく幸せだったと思います。
―――「ソワレ」とは、フランス語で「夕方」「日が暮れた後の時間」を意味し、演劇の世界では夜の公演のことを指すそうです。お二人は「ソワレ」をどういう意味に捉えていますか。
村上さん 僕は、フランスのカンヌ国際映画祭をイメージします。映画の原体験がカンヌのソワレ(夜公演)だったんで、身近に感じるというか。
芋生さん タカラを演じる前は、やはり演劇や映画の「マチネ(昼公演)・ソワレ」だったと思います。今は「夜を待っている時間」です。学生の時、学校で嫌なことがあって、すぐに家に帰りたくなくて。川辺で日が暮れるのを待った時間を思い出したんです。
―――タカラが「つらいときは笑う」と言うシーンのしぐさと、この言葉にまつわるエピソードが印象的でした。
芋生さん あれは、口の端を引っ張って笑っている私の写真を見て、監督が思いついたものです。撮影の時は、引っ張るんじゃなくて、口元をすうっと触るしぐさになりました。
村上さん 僕はそのことを知らなくて、脚本を読んでも意味がわからない。監督に「これ、どうやるんですか」って、聞いて教えてもらいました。
―――ラストシーンを見て、タカラの笑うしぐさの意味がわかり、衝撃を受けます。もう一度、最初から見たいと思いました。
村上さん ぜひ、2回見てください。この作品はいろいろな解釈ができて、それぞれの感じ方ができます。何度も見てほしいです。
(聞き手/読売新聞メディア局 後藤裕子、撮影/稲垣純也)
【映画情報】

『ソワレ』
監督・脚本:外山文治
プロデューサー:豊原功補
アソシエイトプロデューサー:小泉今日子
出演:村上虹郎、芋生悠、岡部たかし、康すおん、塚原大助、花王おさむ、田川可奈美、江口のりこ、石橋けい、山本浩司
配給・宣伝:東京テアトル PG12+
公式サイト https://soiree-movie.jp/
(C) 2020ソワレフィルムパートナーズ soiree-movie.jp
8月28日(金)より、テアトル新宿、テアトル梅田、シネ・リーブル神戸ほか全国公開