巣ごもりの夏休みに見たい、心がほぐれる映画記者オススメの名作

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新型コロナと酷暑で、夏休みなのに遠出もままなりません。こんなときこそ、ゆっくり映画をみるのはいかがでしょう。読売新聞文化部の映画担当、恩田泰子記者にオススメの名作を紹介してもらいます。

思い切り笑いたい人に

ブルース・ブラザース」(1980年)
ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン」(2011年)

夏は、体だけでなく心にも、栄養価の高いものが必要。スラップスティックな笑いとカーチェイス、そしてご機嫌な音楽に彩られた「ブルース・ブラザース」は、一粒で何度もおいしい名作です。

主演は、ジョン・ベル―シとダン・エイクロイド。アメリカの人気コメディー番組「サタデー・ナイト・ライブ(SNL)」のオリジナルメンバーである彼らが、同番組から生まれたバンドを率いるクールな、でも、かなりいっちゃってるコンビを演じます。

黒い帽子、黒いスーツにサングラス。ジェイク(ベルーシ)とエルウッド(エイクロイド)はイリノイ州の児童養護施設育ち。何やら罪を犯して3年間服役していたジェイクが出所してみると、実家のようなその施設が財政難で閉鎖寸前になっていました。2人は、かつてのバンド仲間とステージで稼いで何とかしようとするのですが、行く先々で騒動が起こり……。

「ブルース・ブラザース」 4K Ultra HD+ブルーレイ(5,990円税別)、Blu-ray( 1,886 円税別)、DVD( 1,429 円税別)、発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント ※ 2020 年8 月の情報です。

無表情で妙なことをしでかして観客を笑わせるのは、コメディーの型の一つですが、この2人はサングラスで目を隠してそれを見事にやってのけます。ジェームス・ブラウン、レイ・チャールズ、アレサ・フランクリンなど黒人音楽の巨星たちが登場する素晴らしいミュージカルシーン、画面を埋め尽くす群衆や車の大迫力とお楽しみだらけ。スティーブン・スピルバーグのような大物が何げなく登場するのも粋です。

エイクロイドはこの作品の後、「ゴースト・バスターズ」でもベルーシと組むつもりだったと伝えられていますが、ベルーシは夭折ようせつ。破天荒な言動とやけにチャーミングな瞳。何もかもが規格外の彼が、もし生きていたらハリウッドのスター地図はきっと変わっていたでしょう。

SNL出身者の活躍は連綿と続いていて、近年は「ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン」のクリステン・ウィグ、マーヤ・ルドルフら女性陣の奮闘も目立ちます。ちなみに「ブライズメイズ」は大人の女同士の友情を描いた骨のある映画ですが、すべてがあけすけ。ご家族での鑑賞はオススメしません!

これからの生き方を考えたい人に

カビリアの夜」(1957年)
スイート・チャリティ」(1969年)
魂のジュリエッタ」(1965年)

イタリアの巨匠、フェデリコ・フェリーニ監督は、今年で生誕100年。人間というちっぽけな存在の悲しみと美しさをスクリーンに刻みつけてきた巨匠の傑作群を再発見する好機です。名女優として知られる妻のジュリエッタ・マシーナを主演に据えた傑作の一つ「カビリアの夜」は人生に疲れた時に見ると、しみます。

マシーナが演じるカビリアは、お人よしの娼婦しょうふ。愛した男に手ひどく裏切られても、小さな体で精いっぱい虚勢を張って生きています。いつか人並みの幸せを、と思っているのに、世の中は不公平。「何も変わらない!」。そう叫んだ彼女に、ある出会いが訪れるのですが――。

この映画、底辺の暮らしから、大スターの豪邸まで、ローマの町のさまざまな顔を描き出しながら、まさにフェリーニ的なヒロインの転変を描きます。彼女が生きる現実は残酷ですが、それ以上に心に残るのは彼女の人間くささ。絶望的な状況に置かれながらも、人を恋う気持ちに突き動かされるように、カビリアは歩き続けます。終幕、彼女が顔に浮かべる「泣き笑い」を思い出せば、絶望しそうになった時もふっと一息つけるはず。観客に生きていく覚悟、勇気を与える映画です。

マシーナの泣き笑いをもっと見たいという人には、フェリーニ監督初期の傑作「道」も是非。女の人生をさらにディープに見つめたい人には「魂のジュリエッタ」もオススメです。

「カビリアの夜」は、アメリカでは「スイート・チャリティ」のタイトルでブロードウェイ・ミュージカルとして翻案され、ボブ・フォッシー監督による映画版にはシャーリー・マクレーン演じるヒロインの魅力的なパフォーマンスが焼き付けられています。

※東京都渋谷区のYEBISU GARDEN CINEMA では8月20日まで、「フェデリコ・フェリーニ映画祭」を開催しています。

シリーズものを制覇したい人に

男はつらいよ」シリーズから

寅次郎忘れな草」(1973年)
寅次郎相合い傘」(1975年)
寅次郎ハイビスカスの花」(1980年)
寅次郎紅の花」(1995年)
お帰り 寅さん」(2019年)

日本が誇るシリーズ映画といえば、「男はつらいよ」。昨年末には50作目の「お帰り 寅さん」が公開されました。寅さん役の渥美清さんをはじめとする俳優たちのアンサンブル、すばらしい撮影による端正な映像……と見所だらけ。やっぱりオススメです。

「男はつらいよ お帰り 寅さん」好評発売中、通常版DVD:3,800円税別、発売・販売元:松竹、(c)2019松竹株式会社
「男はつらいよ お帰り 寅さん」(c)2019松竹株式会社

とはいえ、いきなり50本制覇を目指すのはハードルが高いと思う方は、浅丘ルリ子さんが演じる、寅さん映画史上最多登板のマドンナ「リリー」が出てくる作品群から始めてみるのがいいと思います。とにかく、リリーさん、すてきなのです。

「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」(c)1973/2019 松竹株式会社と「男はつらいよ 寅次郎相合い傘」(c)1975/2019 松竹株式会社。いずれも価格:2,800円税別、好評発売中。発売・販売元:松竹。

マドンナたちはみんな高嶺の花。リリーさんはおしゃれで華やかですが、寅さんと同じ根無し草。売れない歌手として旅回りをしている最中に、寅さんと出会います。「私たちみたいな生活ってさ/あってもなくてもどうでもいいみたいな/つまりさ、あぶくみたいなもんだね」。リリーさんが言う時、寅さん、そして私たちの人生の実感と何かがリアルに響きあいます。リリーさんと寅さんに一緒に幸せになってもらいたい、と心から思います。ふたりとも本質的に純情な上、あまりにも似た者同士すぎて、なかなかうまくいかないのですが……。

世の中、いやになってしまうことばかり。でも、映画の中で純粋なものを見ると心洗われるもの。リリーさんと寅さんのラブストーリーはきっと心の洗濯になるはずです。夏の間にさっぱり、すっきりいたしましょう!

(読売新聞文化部 恩田泰子)