村田沙耶香が新刊出版「作家よりマッドサイエンティストに近い」

インタビュー

芥川賞作家の村田沙耶香さんが、短編集「丸の内魔法少女ミラクリーナ」(KADOKAWA)を刊行しました。面倒な仕事や人間関係を妄想力で乗り切るOLを描いた表題作をはじめ、初恋の男性を1週間限定で監禁する女子大生の物語「秘密の花園」、性別を明かすことを禁じられた高校に通う生徒の恋を描いた「無性教室」、怒りがなくなった世界に戸惑う女性が主人公の「変容」の計4編が収録されています。村田さんに作品を書いたきっかけや、込めた思いなどを聞きました。

【「丸の内魔法少女ミラクリーナ」ストーリー】
茅ヶ崎リナは36歳のOL。小学校3年生の時から、魔法のコンパクトで「魔法少女ミラクリーナ」に変身するという妄想で、日々降りかかってくる無理難題を乗り切ってきた。ある日、親友のレイコが恋人の正志と大ゲンカ。別れたいレイコとやり直したい正志の仲を取り持つため、リナが思いついたのは魔法少女の力を使うことだった――。

展開も結末も決めずに執筆、着地で骨折も

――表題作の「丸の内魔法少女ミラクリーナ」は、「小説 野性時代」(2013年7月号)でヒーロー特集が組まれた際に書かれたそうですが、主人公を魔法少女にしたのはなぜでしょう。

魔法少女にすごく思い入れがあったんです。子どもの頃、アニメの「魔女っ子メグちゃん」や「魔法の天使クリィミーマミ」が大好きで、魔法少女に変身して誰かを助けることにあこがれていました。悲しいお話を読むと、魔法少女に変身して、物語の中に入りたくなりました。「フランダースの犬」のネロを幸せにしてあげたかった。いま考えると、「幸せ」の押し売りなんですけど。「魔法少女ミラクリーナ」は、とにかく書いていて楽しかったです。

――主人公のリナは、キュートな妄想で日常を脚色することで、楽しく生きようと頑張っています。理不尽なことを笑顔で乗り切るリナに共感する女性は多いと思います。

妄想に支えられている人って、実は多いのではないかと思っています。だからこそ、主人公には、現実逃避するのではなく、妄想によって現実を好転させてほしかったんです。嫌なお話にしたくなかったので、友情がメインになりました。

――村田さんの作品は、いつも思いがけない展開になって、意外な結末を迎えます。レイコの恋人・正志がまさか……。この意外な展開と結末は初めから決まっていたのでしょうか。

私、展開も結末も考えないで書き進めるので、最後までどう着地するのかわからないんです。小説を書くときに、「神様が降りてくる」という人がいますが、私は自分を自分でコントロールができなくなって、自動書記みたいな感じで勝手に話ができていくようなところがあります。だから、正志がこんなに存在感を出すとは思っていませんでした。いつも、想像もしなかったことが起こって、言葉がどんどん引きずり出されて、とんでもないところに着地します。作家の友人に「村田さんは着地の時、笑顔で骨折してる」と言われたことがあります。「魔法少女」は捻挫くらいですんだかなと思っています。

“怒り”には人をつなぐパワーがある

――正志は、女性蔑視(べっし)でゆがんだ正義感を振りかざす、嫌なヤツです。物語が進むにつれて、どんどん腹が立ってきました。正志は、理不尽さや“怒り”から生まれたキャラクターなのでしょうか。

私には「怒り」という感情があまりないんです。正志のような人間に出会ったら、誰でも怒りを感じると思います。でも、私は「この人はなぜ、人が不愉快だと思うことをするのだろう」と考えてしまう。その理由をいろいろ想像して、バラバラに解体して分析します。そして、怒りとは違う何かに変換してしまいます。変換されたものが、意識下にたくさん保存されていて、小説を書いているうちに出てくるんです。

――この本の最終話「変容」でも、怒りの感情がなくなった世界が描かれています。喜怒哀楽の「怒」にこだわったのは、村田さんが怒りを感じないからですか。

そうかもしれません。子どもの頃から、「嫌う」「怒る」というネガティブな感情は、外に出す前にとことん分析することが誠実な対応だと思っていました。でも、大人になると、「ちゃんと怒らなきゃ駄目だよ」と注意されることが多くなって。でも、怒りの反射神経が鈍くて、「あの時、なんで怒らなかったんだろう」と反省することもあります。もし、きちんと怒ることで少しでも何かが変わっていたら、自分より若い人たちにもっと「新しいバトン」を渡せたのにと思うと、そうしなかったことが申し訳なくて。

――怒らないで反省しちゃうんですね。「変容」に登場する「怒りの申し子」みたいな五十川さんが、村田さんから生み出されたことが不思議です。

五十川さんは、怒りを失った人間たちの対極の存在です。「変容」は彼女を描きたくて書いた小説なんです。しゃべり方や髪形、服装まで想像して、すごく怒っている人の姿を再現しました。怒りって不思議ですよね。友だちの恋人がひどい人だったら、「何それ、ひどい!」とか、「もう別れちゃいなよ!」って感情を共有できる。怒りの連帯感が生まれるんです。セクハラ上司がいたら、女性は手を取り合って闘いますよね。「かわいい」や「うれしい」では、ここまでつながれないと思います。怒りはネガティブな感情のようで、実は前向きなエネルギーがあるのかもしれません。

普通の人なんて、実はいない

――4編とも独特な価値観で世界が構築されていて、何が「普通」なのか、わからなくなりました。

子どもの頃、「普通」にあこがれていました。私はものすごく内気で、しゃべるのも苦手で、不器用でした。そんな自分を普通じゃないと思っていて、普通の子になりたかったんです。小説を書いたのも、その違和感がきっかけでした。でも、書いているうちに、だんだん普通であること自体が奇妙に思えてきて。自分のことを普通だと信じ込んでいる人たちに、違和感を覚え始めたんです。「私は普通」と純粋に信じている人のほうが、むしろ不思議に思えてきて。普通の人なんて、実はいないのかもしれません。

――小説を書く原動力は何ですか。

「知りたい」という欲求です。人間の内側や深いところにある核心を知りたいんです。私は本質的には作家よりも、むしろマッドサイエンティストに近いかもしれません。いろいろな架空の世界に、摩擦が生まれるように人間を配置して、何が起こるか観察するんです。わざと化学反応が起こるような要素を加えてみる。設定を変えたり、ガチャガチャかき回したり。その実験が小説の形をしているんです。実験するほど「知りたい」が増えているので、人間の内側を追求し続けると思います。

村田沙耶香(むらた・さやか)
作家

1979年、千葉県生まれ。2003年に『授乳』で群像新人文学賞優秀作、09年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞とフラウ文芸大賞、16年「コンビニ人間」で芥川賞を受賞。他の著書に『殺人出産』『消滅世界』『地球星人』『となりの脳世界』『私が食べた本』『生命式』『変半身』など。

「丸の内魔法少女ミラクリーナ」(KADOKAWA/1600円・税別)

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