中谷美紀 蜷川監督ドラマで写真家役「いつでも女優辞める覚悟で」

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女優の中谷美紀さんが、Netflix(ネットフリックス)で2月27日(木)に配信の蜷川実花監督によるオリジナルドラマ『FOLLOWERS(フォロワーズ)』で、主人公の人気写真家・奈良リミを演じます。中谷さんに役への取り組み方と、プライベートについて聞きました。

舞台は東京。恋に仕事に、ほしいものはあきらめない。すべてを手に入れようと貪欲に生きる人気写真家の奈良リミと、女優を目指して上京したものの、すべてがうまくいかない百田なつめ(池田エライザさん)との出会いを中心にストーリーが展開していきます。ある日、リミが担当したCM撮影で、人気女優のスタンドイン(代役)として起用されたなつめは、スタッフの傲慢ごうまんな態度に腹を立て、あえて指示とは全く違う動きをしてしまう。その反骨心あふれる姿に若いころの自分を重ねたリミは、思わずシャッターを切り、自身のSNS上にその写真をポストしたことから、なつめの運命が大きく動き始めます。ドラマでは、多様な女性の生き方が、蜷川監督のポップでおしゃれな世界観とともに描かれています。

――リミという女性はどういう女性ですか?

リミは自分の欲望に忠実で、それを隠そうとしない女性。自分が手に入れたいと思ったもの、とりわけ女性としての幸せ、仕事、すべてをあきらめずに、分母を200にしていくという女性です。私には決してできないことで、ものすごいバイタリティーだなと思います。自分と価値観がまったく異なる奈良リミという女性を探求して演じるのは、とても楽しいことでした。私は、何かひとつを手に入れようとしたら、何かを手放さなければならないと思っていますが、リミはすべてを手に入れようとします。新しい女性像なのではないでしょうか。

男性を撮る時は身を委ねて

――カメラマン役ですが、役作りで蜷川実花監督からのアドバイスはありましたか?

とても印象的だったのが、男性を撮影するときに、能動的にリードするのではなく、相手に身を委ねて、個性を引き出す。そうしないと、セクシーには撮れないと、蜷川さんがおっしゃっていたことです。

ミュージシャンのMIYAVIさんを撮影するシーンの時に初めて聞いたのですが、リミは自分の人生は自分で切り開いていくタイプなので、てっきり男性を撮影するときもリードするものだと思いきや、そこはとても女性らしい部分を持っていて、男性主導のほうが良い写真が撮れるのだそうです。男性でも女性でも被写体と密接な関係を作って撮影するのだと考え、女性を撮る時は、かわいい表情を撮りたいので、相手を褒めて褒めて、男性のような気持ちを心がけていました。物語終盤の重要なシーンに、リミの友人で実業家の田嶌エリコ役の夏木マリさんを撮影するシーンがあったのですが、部屋には必要最低限の人数だけで、とても密接な撮影でした。ぞくぞくするような興奮を味わわせてもらいました。マリさんの生き様そのものを見せていただいたような気がします。

――役に対するアプローチとして、金髪姿の中谷さんが新鮮でしたが、ビジュアル面ではどのような女性像を描こうと思いましたか?

金髪は、蜷川監督の提案です。既成の枠にとらわれない女性を表現したいということで、金髪になったのだと解釈しています。鬱屈うっくつとした日常からエスケープしたいという思いがあるからでしょうか、誰でも変身願望があると思います。ハロウィーンであれだけの人々が仮装を楽しみ、羽目をはずすのも自分ではない誰かにふんすることで、心を解放したいのではないでしょうか。

リミは蜷川監督の理想?

――蜷川さんの実際のヘアスタイルがリミと似ていました。

ヘアデザイナーの方が蜷川さんのお好みをよく理解なさっていたので、前髪のラインなどが似ていたのかもしれませんね。

――ドラマの制作発表の時、自分自身をたとえると水墨画で、蜷川さんは極彩色の曼荼羅まんだらのようだと例えていました。撮影をしていくうちに、色が足されていきましたか?

これは蜷川さんの作品なので、極力、蜷川さんの世界観に近づくように努力しました。近づき切れたかどうかはわかりませんが……(笑)。

――蜷川さんといえば、ポップな映像が特徴的ですが、演じてみていかがでしたか?

今回とても難しかったのは、原作ものではなく、オリジナル脚本だったので、行間を埋める作業というのが、自分のなかで難しかったですね。蜷川さんを演じるのかと思いきや、蜷川さんは「(リミは)私ではない」とおっしゃいました。でも、蜷川さんご自身の私服を衣装として着る機会が何度もあって、役と現実をすり合わせるのに、「これでいいんだろうか?」という疑念がいつもついて回りました。

――蜷川さんの世界に近づきつつ、どうリミを演じましたか?

被写体に対して「ああ、いい!」とか、いろいろ声をかけて撮影するのですが、衝撃的だったのは、最後の方になって監督が「私、普段『ああ、いい!』とかアゲアゲのセリフは言わない」とおっしゃったことです。「それ、早く言ってください」って(笑)。でも、台本には書いてあったんです。ある方は、蜷川さんが俳優さんを撮影しているときに「いい!」とか「すてき」っておっしゃっていたと言っていました。きっと撮影に没頭して、無意識に言葉を発していらしたのでしょうね。

ハイヒールは「生き様」

撮影:伊藤彰紀

――ある授賞式のシーンで、リミは「勝負靴」としてクリスチャン・ルブタンのハイヒールを履いて颯爽さっそうと登場しました。

「ルブタンは機能美ではなく生き様なの!」というセリフがありました。最近ではハイヒールを履かないという風潮がありますが、リミにとってルブタンは「戦闘服」。ルブタンを履いてこそ、リミになれる。リミ自身もリミを演じていたのだと思います。「奈良リミ」という女性フォトグラファーが男性社会の中で生き抜いていくには、ルブタンという「武器」が必要だったのだと。

――リミがつらい時、車の中から美しい桜を見つめるシーンが印象的でした。

蜷川さんは「桜」というタイトルの写真集を出版されています。それまでの蜷川さんの極彩色の写真ではなく、撮影スタイルが異なる、ものすごくピュアな写真で、とても好きなんです。おそらく、その写真を撮影した時のお気持ちに近いものが、桜のシーンに反映されているのではと思い、改めて写真集を見てイメージしました。つらい時こそ、人は美しいものを求めるのかもしれませんね。

いつでも女優を辞める覚悟で

――長く女優の仕事を続けてこられた理由は?

最初はそんなに志が高かったわけではありませんでした。たまたまありがたいことに、ずっとお仕事をいただけて、「NO」と言えず、辞めるタイミングを逸して、心を動かされる次のお仕事をいただいて「YES」と言ってしまっていたからかもしれません(笑)。だから、特に長く続けられている理由はないんですよね。ひとつだけ言えることは、「いつでも(女優を)辞めて、どんな仕事にでも転職してやろう」という覚悟があって、それが心のよりどころだったんです。仕事にしがみついていないからこそ、続けてこられたのだと思います。

――しがみつかなかったのはなぜ?

今回のドラマですと、私にはなつめのようなガッツはありません。むしろ、なつめのように女優に執着していたら、苦しくなって、もっと早く仕事を辞めていたかもしれません。良質な作品を作りたいという思いだけで、ひとつひとつの作品に携わって来ましたが、女優の仕事がすべてではないと思っていたからかもしれません。

――もし、女優を辞めたらどんな仕事をしてみたいですか?

この仕事をしていなかったら、やってみたかった仕事はあります。アートが好きなので、キュレーター(学芸員)になってみたかったです。自分の好きなアーティストを見いだしたり、過去の作品を発掘したり、知られざるアーティストを世に出すという仕事ができたら、とても充実した人生になるのではないかなと。

――リミは「深い悲しみがあるときこそ美しいものが必要」と言っています。また、「撮影しても回復できない感情がある」とも言っていました。中谷さん自身は、そういう時、どうやって回復しますか?

演じるという作業は、身を削ること。何かを犠牲にしなければならないこともあります。リミは写真を撮って回復していましたが、私自身は人様が作った美しいもの、絵画だったり、器だったり、音楽だったり、何でもいいのですが、美しいものや自然に触れることで心が回復すると思います。

――ドラマでは、SNSがひとつのテーマになっています。中谷さん自身はどのように活用していますか?

すみません。面倒で……。私ごときの人生で皆様にご披露するようなものはありません(笑)。仕事のプロモーションの一環で公式サイト内に「Diary」と称する文章を書いてはいますが、自分の日常を逐一皆様にお知らせするのは、あまり気が進まないんですよね。どこで誰と何をしていたのか全て露わにする必要は無いと思っていまして。仕事仲間にLINEに誘われても、ちょっと面倒で「いやー、やっていなくて」って(笑)。

――演じる上で心がけていることは?

自分を表現するというよりは、与えられた役を演じることが仕事です。今回はオリジナルの脚本ですが、原作がある場合もあります。脚本家や監督やプロデューサーが求めていらっしゃるテーマをお伝えする仕事なので、媒介役に徹しています。もちろん、自分が思い描く女性像を反映することもできるけれど、それが求められていることと全く異なるのであれば、自分自身の価値観は置いておいて、演じることに徹します。

――現在は海外を拠点にして日本と行き来していますが、海外から見た日本はどのように映っていますか?

皆さんが思っている以上に、日本は海外から注目されていると思います。日本の企業だったり、アニメやゲームだったり。海外にも、和食に造詣が深い方や、歌舞伎はもとよりお能が大好きだという人もいます。友人に「日本に来たらどこに行きたい?」と聞いたら「熊野古道」と言っていました。皆さん、日本のことを愛してくれていると感じましたが、ひとつ困ることがあって。東京の有名すし店「すきやばし次郎」をテーマにした「二郎はすしの夢を見る」という映画が海外でもヒットしたので、「すきやばし次郎に連れていって」と言われるんです。「そんなに簡単にお連れできるお店じゃないんですけど」って(笑)。

――今回はネット配信のドラマですが、キャストもセットもまるで映画のように豪華です。演じる上で、映画やテレビドラマとの違いはありましたか?

演じる側はそんなに意識はしていませんが、Netflixの登場で、見る側の環境が大きく変わりました。ダウンロードして飛行機の中で見ることができますし、時間と場所を選びません。私はNetflixでは、ドキュメンタリーを見ることが好きです。これからもネット配信のドラマも増えていくでしょうし、時代の流れにあらがってもしかたありません。映画館での鑑賞体験に勝るものはないと今でも思いますが、私たちもいかようにでも変化していかなければならないと思います。

――全世界190か国以上に配信される予定で、想像もできないくらいに多くの方が見る可能性があります。

以前、インドの山奥に行った時に、軽トラックのボディーにローマ字で「OSHIN」と書いてあって、「ああ、こんな山奥でも『おしん』が知られているんだ」とびっくりしたことがありました。一瞬、あの「おしん」のことだとわからなかったので、ガイドさんに「君は日本人なのに『OSHIN』を知らないの?」って(笑)。おしんや西遊記は世界中でよく見られているそうです。そんなふうになったらいいですね。様々な言語で感想を言い合ったり、日本のことをもっと知ってもらえたりするとうれしいです。

――ドラマの見どころを教えてください。

女性の生き方は本当に様々あるのだと再確認しました。仕事や恋愛、出産について、女性が選択できる多様な時代になりました。リミは他人にどう思われるか全く気にすることなく、自分の道を切り開いて行くことのできるタフな女性です。みなさんにリミと同じような人生を歩んでほしいというわけではありませんが、ひとつのロールモデルとして、「物事の枠にはまらずに、自分の好きなように生きていい」という、女性への強烈なメッセージになっていると思います。

(メディア局編集部・遠山留美)撮影:伊藤彰紀
ヘアメイク/下田英里
スタイリスト/白幡啓(LOVABLE)

公開情報:オリジナルドラマ『FOLLOWERS(フォロワーズ)』
2020年2月27日()  Netflixで全世界独占配信
公式サイト http://netflix.com/followers
監督:蜷川実花
出演:中谷美紀 池田エライザ
夏木マリ 板谷由夏 コムアイ 中島美嘉 / 浅野忠信 上杉柊平 金子ノブアキ 眞島秀和 / 笠松将 ゆうたろう

【予告編;YouTubeへ】