吉田監督初の長編映画 悩みを抱える生きづらい女性にエール

インタビュー

映画監督の吉田真由香さんが、自身初の長編映画「サンキューフォーカミング」(2月15日公開)でメガホンを取りました。妻子ある男性との恋愛をきっかけに、初めて自分の人生と真剣に向き合い、重大な選択をすることになる女性の物語です。5か月の女児の母親でもある吉田さんに、女性ならではの視点で描かれた作品への思いと、子育てと仕事の両立について話を聞きました。

――撮影の時は妊娠中だったのですか?

撮影は3年前でしたので、そのころはまだ結婚もしていませんでした。

――娘さんはまだ生後5か月ということで、監督業と子育ての両立は大変ではないですか?

夫も私も実家が遠方なので、普段はあまり面倒をみてもらえませんが、電話で相談はしています。夫は育児休業を2か月取ってくれましたし、育児にも協力してくれるので、助かっています。

認めたくない自分も受け入れて

――本作は監督にとって初の長編映画だそうですが、撮影時と、出産してからでは作品に対する思いは変わりましたか?

そうですね。主人公の芽衣(ぎぃ子さん)が最後に大きな決断をするのですが、果たしてその決断でよかったんだろうかと考えました。

――親の言う通りに生きてきた芽衣は28歳。上司からのセクハラ、転職、妻子ある男性との恋愛と、作品には女性の悩みや選択がぎゅっと詰まっています。周りの人の経験も参考にしていますか?

周りの話だったり、自分の体験だったりします。この作品で、うまくいかないことや認めたくない自分を受け入れていくことが、人生を歩んでいく上では大切で、そうすれば生きやすくなるんじゃないかというメッセージを伝えたいと思いました。

鼻くそすらいとおしく

――印象に残っているシーンがあります。芽衣がアルバイトしているブティックで、子供がショーウインドーに鼻くそをなすりつけていました。

鼻くそは、「認めたくない自分」「汚い自分」を比喩しています。子を持つブティックの店長(長岡明美さん)は、子供の鼻くそをかわいいと思います。芽衣は最初、汚いと思っていましたが、最終的にはいとおしく思えるようになります。以前、子供の鼻くそを「かわいい」と言っていた人を見たことがあって、そのことがきっかけでこの映画を撮ろうと思ったんです。

――芽衣の大学時代の先輩で不倫の相手になった及川(富岡大地さん)は、妊娠がわかった芽衣をあっさり捨てたりと、本当にひどい男性に描かれていました。でも、芽衣は及川と付き合ううちに、どんどんきれいになっていきました。

偶然再会した二人は、芽衣がその時にカボチャの入った弁当を食べていたのがきっかけで親しくなっていくのですが、実は及川はそんなにカボチャが好きなわけではなかったんです。

――共通の話題を見つけて、芽衣に近づく口実だったんですね。芽衣は及川の家に乗り込んで、奥さんと修羅場になります。その後も及川の数々のクズっぷりが描かれていました。

本当にひどい男です(笑)。でも、ひどければひどいほど面白いかなと。

――芽衣の家族も一見、平和そうですが、父親も不倫していたり、母親は娘を束縛する毒親だったりと、いろいろな問題を抱えていました。

家庭の中で一番お父さんが強くて、妻に靴を履かせてもらったり、娘に一方的に会社を辞めるように言ったりする暴君です。専業主婦のお母さんは夫の言いなりで、娘を自分の所有物のように思っています。娘を愛してはいるんですが、ちょっと過保護気味です。

――作品の中には、たくさんの女性が登場しますが、特に思い入れのある女性はいますか?

ブティックの店長・美江子さんですね。ちょっとおせっかいですが本当に優しい女性です。芽衣にとってはありがたい存在で、助けられました。ほかの女性もいろいろ問題がある人が多いのですが、みんな優しい人です。

肩ひじを張らずに等身大の自分で

――そもそも映画監督をめざそうと思ったきっかけは?

映画のワンシーン

小学校3年生のころ、怖い物語を作るのが好きだったのですが、母にピアノで、当時好きだった「世にも奇妙な物語」のオープニングテーマを弾いてもらいカセットテープに録音し、その続きに、友達数人にその物語を読んでもらったものを録音していました。母にピアノで「世にも奇妙な物語」のオープニングテーマを弾いてもらい、怖い感じにしました。その後、高校の学園祭で演劇をやることになって、何の担当をやりたいかというアンケートで、軽い気持ちで脚本に丸をつけたら、他に手を上げた人がいなくて、私がやることになったんです。脚本以外に舞台美術や演出なども全部やることになり、すごくストレスを抱えて体調を崩してしまいました。でも、それを乗り越えてやり切ったら、とても楽しくて、それがきっかけでもの作りをしたいなと思うようになりました。

高校のころから映画は好きでしたが、映画館に行くお金もなかったので、レンタルで借りてたくさん見ていました。写真を撮るのも好きで写真部に入っていました。高校卒業後は、本当は美大に進みたかったのですが入れず、浪人をさせてもらえなかったので、普通の私大に行きました。

――初めての短編映画「『磨きたい』(2008年)」を撮影し終えた時の感想は?

初作品を撮り終えた時、「なんて面白いんだろう」と感じました。撮影前は1回撮ったらそれで満足だと思っていましたが、撮り終えたらもっと撮りたくなって、それがずっと続いています。

――次回作の予定は?

今は子育て中なので、もう少し先になりますが、出産と子育ての経験を生かした脚本が書ければいいなと思います。

――悩みを抱える働く女性にエールをお願いします。

映画のワンシーン

格好をつけなければいけない場面もいっぱいあると思いますが、最終的は等身大の自分でいることが、自分自身を楽にさせてくれるんじゃないかなと思います。頑張らなくてはいけないこともたくさんありますが、あまり肩ひじを張らずにいることが、自分自身に余裕ができて、他人を大切にできるんじゃないかなと思います。

――最後に映画の見どころを。

生きていく上でいろいろな選択があります。選択を迫られた時、この作品を見てもらえたら。主人公の生き方は少し不格好かもしれないけど、見る人に勇気を与えてくれると思います。

吉田真由香(よしだ・まゆか)
1983年京都府生まれ。2008年ニューシネマワークショップで映画制作を学ぶ。フリーで映画・ドラマの助監督をした後、映像制作会社に入社。テレビ局で制作の仕事をしながら自主映画を撮り続ける。映像制作集団・愛しあってる会(仮)に所属。2019年秋に女児を出産。現在、子育てに奮闘中。

公開情報

映画「サンキューフォーカミング」
2月15日(土)から21日(金)まで公開(新宿K’s cinema)
出演:ぎぃ子、長岡明美、金井妙子、富岡大地、今谷フトシ、尾形美香、今村有希、兒島京汰、竹本みき、鈴木正子、逢坂由委子、高橋あゆみ、ほりかわひろき、星野ゆうき、車地瑞保、河内莉奈、鏑木悠利、下石知美、中野健冶、田中愛梨、冨田智
監督・脚本:吉田真由香
撮影:塩出太志、田村専一 
助監督:宮原周平、田村専一 
録音:辻貴史 美術:佐藤美百季、尾原可奈 
ヘアメイク:田原美由紀 
制作:加藤啓介、田島基博、高嶋義明、平岡優子、犬童愛
配給:ニューシネマワークショップ(2018年/日本/93分)

公式サイト:https://www.ncws.co.jp/ty4c/
【予告編:Youtubeへ】