直木賞作家・島本理生さんの長編小説を映画化した『Red』がいよいよ2月21日(金)に公開されます。誰もがうらやむ夫とかわいい娘がありながら、10年ぶりに再会した元恋人に心を揺さぶられた女性の恋愛模様が美しく官能的に描かれています。主人公の村主塔子役を夏帆さんが演じ、塔子の元恋人・鞍田秋彦役を妻夫木聡さん、塔子に好意を寄せる職場の同僚・小鷹淳役を柄本佑さん、塔子の夫・村主真役を間宮祥太朗さんがそれぞれ演じています。妻夫木さんと柄本さん、間宮さんに、撮影のエピソードや映画の見どころなどについて聞きました。
ずっと塔子のことばかり考えていました
―――妻夫木さんの演じた鞍田は、言葉で語るより、たたずまいやまなざしで表現することが多かったように思いました。どのように鞍田にアプローチしましたか。
妻夫木 台本を最初に読んだときは、「このときはこういう顔をしよう」とか、どう演技するかを頭で考えていたんです。でも、役づくりをしていく中で、そういう思いが一切消えていきました。ただ塔子を見つめて、塔子に寄り添うことをイメージしました。撮影中は、ずっと塔子のことばかり考えていました。

―――鞍田は建築家という設定で、塔子と二人で理想の家の模型を作るシーンがありました。二人の距離がぐっと近づいて、どんどん気持ちが寄り添っていく感じがしました。
妻夫木 設計事務所で塔子が隣に座ったとき、すごくドキドキしたんです。何かに没頭しているときは、余計なことを考えないから、純粋にこの人と「窓から見える同じ景色を見ていたい……」という気持ちが出たんじゃないかな。遊園地でデートするより、二人で模型を作る方がずっと楽しい。そういう思いをたっぷり演じました。
―――小鷹は一見、軽そうですが、思いやりと気配りのある奥深い男性。塔子の心を開いていくキーマンでした。柄本さんは小鷹のイメージを広げるために工夫したそうですね。
柄本 妻夫木さんと夏帆さんの関係がどんどん深くなっていくので、小鷹は抜けの良い、軽やかな感じを出したいと思いました。鞍田とは対照的なタイプなので、髪の毛をクルクルにしました。イメージは漫画『スラムダンク』の宮城リョータです。女の子にもてないけど、憎めなくて、なぜかみんなに愛される。

妻夫木 小鷹はすごく難しい役なんです。薄っぺらく見えそうなところを、柄本さんは地に足が着いているように、ギリギリのところで演じている。塔子と遊んでやろうとしているようで、本当に恋しているようにも見える。
柄本 そう言っていただくと、すごくうれしいです。妻夫木さんとは、久しぶりの共演でした。元々、妻夫木さんの大ファンだったので、目と目を見合わせて芝居するのが怖かった。今回、同じシーンは少なかったですけど、妻夫木さんが一言話すと、世界が広がる感じがするんです。前回の共演のときより、さらに深みが増したというか。
―――間宮さんが演じた真は、一流商社に勤務し、家庭を大事にする申し分のない夫。でも、実はマザコンで独りよがりという難しい役でした。食事やワインの飲み方などの品が良くて、真の育ちの良さを感じました。
間宮 所作はキレイな方がいいなと意識はしました。ただ、塔子とすき焼きを食べるシーンは、少しだけ下品さを出したくて。例えば、真はすき焼きの肉ばかりを食べ続けます。ちょっと下品に感じませんか? 僕は個人的に、鍋で肉だけ食べ続ける行為が許せないんです(笑)。それから、卵をかき混ぜる音が、見ている人のカンに触るといいなと。真の身勝手な内面がにじみ出るよう意識しました。

―――間宮さんはお二人とは初共演ですか。
間宮 同じシーンが一度もないので、厳密には共演してないんです。僕、妻夫木さんとの共演を楽しみにしていたのに、ぜんぜん会えなくて……。完成した映画を見たら、鞍田や小鷹と一緒にいる塔子が、すごく魅力的なんです。真といるときの塔子は抑圧されている感じで、いつもうつむいている。塔子の魅力を引き出せる、妻夫木さん、柄本さんのすごさを感じました。
妻夫木 間宮さんの演技は、確かに品があると思います。台本での真のイメージは、もっとわがままでマザコンで嫌なヤツ。ところが間宮さんが演じると、真の苦悩やつらさもわかる気がしてくる。「真の言ってることも間違ってないよなあ。彼には彼の生き方があって、誰が悪いわけでもない」と思えるんです。この作品は、「塔子の選択」だけの物語じゃなくて、真にも選択があったことがわかる。演じる役者によって、こんなにも役に振り幅があるのかと感じました。
柄本 僕も台本を読んで、真はひどいヤツだと思っていたけど、間宮さんが演じると、持ち前のチャーミングさが役ににじみ出ちゃう。だから、真に共感できるんです。ただの悪役で終わっていない。
間宮 ありがとうございます。あぁ、お二人との共演シーンがなかったのが、つくづく残念です。
夫婦のあり方が、身につまされて……
―――本作で描かれている「大人の恋愛」について、どう思いますか。
妻夫木 若い頃って、好きとか嫌いとか、付き合うとか付き合わないとか、決められたルールの中にいます。鞍田と塔子にとっては、そういうのはどうでもいいんだと思います。特に鞍田は、相手が自分をどう思っていても関係ない。ただ、一緒にいたい。それだけなんです。監督とも話したんですが、この愛は「宿命」なんです。僕も、自分の妻とどうして結婚したのか、と考えると、宿命だったと思える部分もあります。一緒にいることを選んだのは、切っても切り離せないものがあったからだと思います。
柄本 僕も結婚していますが、この映画が作られた意味を考えました。『Red』を見ることで、どこか違う場所に連れて行ってもらえる。そこは夢みたいな世界かもしれない。塔子が最後に選択したことも、今の世の中では「やってはいけない」こと。その、やってはいけないことを疑似体験できるんです。すっきりして、「明日も頑張ろう!」と思える。こういう作品には、そんな意味があるんだと思います。
間宮 僕の演じる真は、妻の塔子に「妻」として「母」として、どう生きるべきかを言い続けます。一人の女性として見てあげないんです。愛し方として、そこがいけないと痛切に感じました。僕は結婚してないけど、すごく身につまされて。これじゃいけない、気をつけないと……。
柄本 いや、そこまで思い詰めなくても(笑)。
妻夫木 一人で背負い込まなくていいから(笑)。
結婚はオリジナル、それぞれのスタイルがあっていい
―――妻夫木さんは、今年、不惑の40歳ですが、20代、30代と違う手応えみたいなものは感じますか。
妻夫木 20代のときは手応えを感じていました。30代になって、その手応えがまやかしだと気がついたんです。あんなに楽しくて、芝居のことだけ考えていたのに、だんだん凝り固まってきた。20代のうちは早く大人になりたかったのに、30代の自分は意外と子どもだったんです。だから、40代になったら、大人として余裕を持ちたい。20代、30代でできなかった“遊び”ができればいいかな。そう思えるようになったのは、結婚して、家族ができたことが一番大きいと思います。仕事オンリーだった僕の人生が、一気に広がったんです。この先の人生がすごく楽しみです。
―――間宮さんは独身ですが、真を演じて、それまでの結婚観は変わりましたか。
間宮 そもそも、結婚観を持ってなかったんです。仲のいい友人が結婚して、醸し出す雰囲気が変わっていくのに興味はありましたけど、「自分が結婚するなら……」と思うことはなかったですね。でも、真を演じてみて、結婚観はない方がいいのかなと。真は両親を見て育ったから、「正しい家庭」という意識にがんじがらめになっている。そこに塔子を当てはめようとして、お互い追い詰められてしまう。結婚してない僕が言うのも何ですが、結婚はオリジナルなものでしょう? それぞれのスタイルがあっていいはずなんです。だから、独身の僕が、結婚観を持つ必要はないのかなと思います。
―――柄本さんは小鷹を「行き過ぎない70点の男」と評していました。柄本さんは自分を何点くらいだと思いますか。
柄本 えっ、点数つけるの? 僕は学生時代、全然もてなかったんです。僕の「かっこいい」と、女の子たちの「かっこいい」に果てしない距離があって。ジーパンにTシャツを着て、キャップをかぶって、文庫本をポケットに差してるのが、一番かっこいいスタイルだと思ってたんですよ。休み時間に文庫本を読んでいたら、女の子が「何読んでるの?」と声をかけてくれる……と妄想していたんですが、誰も寄ってこなかった。そのスタイルを実践しているときは、100点の気分でしたが、他の人から見たら0点でした。
モヤモヤしたら、思い切って現実逃避してみる
―――塔子は専業主婦から働くことを選びます。30代の女性はライフスタイルが変わる時期で、仕事や恋愛、結婚と、悩みがつきません。塔子のように小さな悩みをいっぱい抱えてモヤモヤしている女性たちに、アドバイスをお願いします。
妻夫木 喜びって、意外とその辺に転がっているもので、それに気付けば、「自分は幸せなんだ」と思える。例えば、おしゃれをして、おいしいフレンチを食べに行く。「おいしかったね」と思えるだけで、少し幸せになれます。そういう積み重ねって大事で、少しずつ増やしていけばいいんじゃないかな。彼氏とうまくいかなくなったら、二人で温泉にでも行って、気分転換しましょう!
柄本 イライラしているときって、自分を客観的に見られなくて、小さく凝り固まっているんだと思います。どこかで、視野を広くした方がいい。僕は「そんなことやってる場合じゃないよ」ということを、あえてやります。思い切って現実逃避しちゃうんです。例えば、大変なことは横に置いて、ゲームに没頭する。それから横に置いた問題を考えてみたら、違う見方ができるかもしれない。嫌なことから逃げるのは、悪いことばかりじゃないと思います。
間宮 30代の女性って、働き始めてから10年くらいですよね。僕もこの仕事を始めて、10年になります。今って、情報過多で混沌(こんとん)としていますよね。僕はモヤモヤしたら一度、そういう現実を切り離してみます。何もない山のロッジに行って、ボーッとしながらお酒を飲む。そうすると、「あのときのあれって、そんなに深刻に考えることじゃないな」と思える。ゆったりした時間を過ごすだけで、気持ちの切り替えになって、日常のチクチクした思いがとけていくんです。
(取材/読売新聞メディア局 後藤裕子、撮影/金井尭子)
【あわせて読みたい】
松坂桃李さん、柄本佑さん、杉野遥亮さん、時代劇「居眠り磐音」で幼なじみ役に
黒羽麻璃央 LINEの短文連投は苦手!?
高橋一生、ラブドール職人をリアルに体現 映画「ロマンスドール」
【概要】
『Red』
情熱、衝動、愛、危険、希望、あなたにとっての「Red」とは?

誰もがうらやむ夫、かわいい娘と暮らし、“何も問題のない生活”をおくっていた村主塔子(夏帆)は、かつて愛した男・鞍田秋彦(妻夫木聡)と10年ぶりに再会する。鞍田は、ずっと行き場のなかった塔子の気持ちを、少しずつほどいていく。もう二度と会いたくなかった、本当に愛していた人に出会ってしまったら……。塔子は、誰もが想像しなかった“選択”をし、“決断”を下すことになる。
出演:夏帆、妻夫木聡、柄本佑、間宮祥太朗
片岡礼子、酒向 芳、山本郁子/浅野和之、余 貴美子
監督:三島有紀子
原作:島本理生『Red』(中公文庫)
脚本:池田千尋 三島有紀子
企画・製作幹事・配給:日活
制作プロダクション:オフィス・シロウズ
企画協力:フラミンゴ
(c)2020『Red』製作委員会
公式サイト:https://redmovie.jp/
公式Twitter:@red_movie2020
2020年2月21日(金) 新宿バルト9ほか全国公開