高橋一生、ラブドール職人をリアルに体現 映画「ロマンスドール」

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ラブドール職人とその妻の日々を描いた小説を映画化した「ロマンスドール」が24日に公開されます。原作者であるタナダユキさんが自ら脚本・監督を手掛け、ラブドール職人の北村哲雄を高橋一生さんが、その妻の園子を蒼井優さんが演じます。美人で気だてのいい園子に一目ぼれして結婚したものの、ラブドール工場で働いていることを園子に言い出せない哲雄。平穏で幸せな生活も、哲雄がドール作りに没頭すると、二人の思いは徐々にすれ違っていきます。タナダ監督と高橋さんに撮影のエピソードや作品の魅力について聞きました。

高橋一生という俳優に新鮮な驚き

―――タナダ監督は「哲雄を託せるのは高橋一生さんしかいない」と確信していたそうですが、決め手は何だったのでしょう。

タナダ 高橋さんと最初に仕事をご一緒したのは、化粧会社のウェブサイト用のショートムービーでした。80年前のクリーニング屋さんという設定で、布に薬剤を付けて、トントンと叩いて染み抜きするシーンがあったんです。お芝居はもちろん、非の打ち所がなく、手先が器用で何でもすぐにできてしまう。すごい人だなあと、ビックリしたんです。そのときから、ひそかに「哲雄にどうかしら……」と思っていました。

―――高橋さんは、タナダ監督だから出演を決めたと聞きました。

高橋 初めて仕事をしたときのタナダさんの印象は「きちんと芝居を見てくれる方」でした。それは今も変わりません。一つ一つの芝居の機微を逃すまいとしてくださる。ご自身の中にブレない芯があって、確固とした世界観を持っている。それでいて、それを広げていくことに躊躇(ちゅうちょ)がない、とても柔軟な方です。僕は、俳優とは基本的に「提示するもの」だと思っています。タナダさんは、俳優の提示を受け止めてくれて、なおかつ自分の色を失わないんです。出来上がった作品にもブレがない。俳優の芝居を生かして、柔軟に対応してくださるから、安心して演じられるんです。

―――結婚後、哲雄と園子の思いや愛の形が少しずつ変化していきます。高橋さんは哲雄の心の機微を丁寧に演じられていますが、役作りでこだわったことはありますか。

高橋 「こういう芝居をしよう」と意図して演じることはなかったです。例えば、セットが非常に作り込まれていて、現場に入ったら、その空気感に反応して哲雄になることができる。役作りはしていないんです。哲雄は僕のある側面です。

タナダ 高橋一生という俳優に新鮮な驚きを覚えました。一つのシーンを何度か撮っていますが、同じ芝居がないんです。たぶん、「同じ芝居をして」と言えば、同じにできる人だと思います。でも、哲雄になり切っているから、同じ芝居にはならないんです。特にドールを作るシーンでは、完全に哲雄になっていた。すごく集中していて、話しかけられないくらいでした。

―――高橋さんは、実際に工場に行って、ドール作りを学んだそうですね。

高橋 職人の方が粘土を切りながら、「こうやるんだよ」と教えてくださって、全部の工程を習いました。夢中でドールを作っていたら、いつの間にか年内の撮影が終わっていました。

タナダ ドール職人としての技術は就職できるくらい。すぐにエースになれます(笑)。撮影のときも、油断していると、粘土の原型がどんどん出来ていくんですよ。「ちょっと待って、撮影が追いつかない!」って。せっかく作ったのに崩さなきゃいけなくなって(笑)。

ベッドシーンはリアルとファンタジーの境界線狙う

―――後半、かなり大胆なベッドシーンがありました。リアルでいて生々しくなく、とても美しくて、目が離せなくなりました。

高橋 そこは、タナダさんの手腕だと思います。映画はドキュメンタリーじゃないですから、作劇として胸に迫るように作らなければならない。監督があの世界観を作ってくれたから、僕も芝居をしていて違和感がなかった。

タナダ R指定の映画はそこそこ撮ってきましたが、「美しく撮ろう」と意識したのは今回が初めてでした。はかなく美しい園子を残したかったので、リアルとファンタジーの境界線を狙いました。スタッフ一丸となって作り上げたシーンです。現場は体育会系のノリでした。

―――役者やスタッフから監督に提案して、流れが変わったシーンもありますか。

タナダ 何でも言いやすい現場にしたかったんです。だから、スタッフの提案は「これは、違うな」と思ってもやってみる。そっちの方がよかったら、変えちゃいます。ストライクゾーンは広くしています。高橋さんのアイデアを採用したシーンもありました。作品を最終的に良くすることが、私の仕事ですから。

―――最近では珍しいフィルムでの撮影でした。

タナダ フィルムは予算もかかるし、仕上げにも時間がかかります。若いスタッフは初めての経験で緊張していました。難しいところもあったし、アクシデントもありました。だからこそ、「フィルムで良かったね」と言ってもらえる作品にしたかったんです。

高橋 フィルムの質感がよく出ています。そこも見ていただきたいです。

優しくしている“つもり”で、伝わっていないのかもしれない

―――蒼井優さんについて、お聞かせください。

タナダ・高橋 頼もしい!

―――すごい、同時に即答ですね。

タナダ 初めて仕事をしたとき、優ちゃんは21歳くらい。まだ少女の面影がありました。その頃から、しっかりした考えを持っていたけれど、さらに頼もしくなっていました。そして、明るい! スタッフが緊張しない自然な雰囲気を作ってくれるんです。直前まで、高橋さんと楽しそうにおしゃべりしていて、撮影に入ると、すっと園子になる。プロの仕事を見せていただきました。

高橋 蒼井さんが園子として、その場にいてくださるので、僕はいつでも哲雄になれました。

―――哲雄は仕事にのめり込むあまり、園子や家庭を顧みなくなります。実際に、既婚の女性の多くは、「夫が家事や育児を手伝ってくれない」という悩みを抱いています。

高橋 「結婚したら、夫が振り向いてくれなくなった」という話をよく聞きますが、それは、男性側からも言えることなのかもしれません。女性も子どもができると、どうしても意識がそちらに向いてしまうでしょうから。僕は、ニュートラルな立場で男女どちらの意見にも耳を傾けるべきだと思っています。どちらも優しくしている“つもり”で、少しも伝わっていないのかもしれない。そして、「わかってくれない」と思ってしまう。タナダさんは「男性も女性も滑稽だよ」という描き方をされます。それは、監督が男性とか女性とかの視点を超えているからだと思います。

―――「私のこと、わかってよ」と押しつけるのではなく、わかり合うためには、お互いに努力しなくてはダメなんですね。

タナダ 生活の中で、哲雄にも園子にも澱(おり)みたいなものがたまっていきます。すれ違いが増えて、夫婦に危機が訪れる――。そういうことって、実際にもありますよね。結局、夫婦は他人ですから、努力してコミュニケーションを取るしかないと思います。片方だけの努力ではどうにもならない。それに、家族だから何でも言い合えるわけじゃない。むしろ、言いにくいこともあるでしょう。少し優しさをかけあうだけで、世界が変わると思います。「お互いちょっとだけ歩み寄りませんか?」と。

高橋 「この映画を見て、嫁を抱こうと思いました」という感想があったそうで、素晴らしいな思いました。

タナダ 最高ですよね。それで夫婦円満になるなら、この映画を作ってよかったと思います。

(取材/読売新聞メディア局 後藤裕子、撮影/金井尭子)

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高橋一生(たかはし・いっせい)

1980年12月9日生まれ、東京都出身。ドラマ・映画・舞台と幅広く活躍。2012年に舞台『4four』の演技において第67回文化庁芸術祭賞演劇部門新人賞、18年にはエランドール賞新人賞、第31回日刊スポーツ映画大賞助演男優賞などを受賞。近年の主な出演作に、ドラマ「僕らは奇跡でできている」(18/KTV)、「みかづき」(19/NHK)、「東京独身男子」(19/EX)、「凪のお暇」(19/TBS)など。映画では、『嘘を愛する女』(18)、『blank13』(18)、『空飛ぶタイヤ』(18)、『億男』(18)、『九月の恋と出会うまで』(19)、『引っ越し大名!』(19)などがある。現在、スナフキンの声をつとめるアニメ『ムーミン谷のなかまたち』(NHK BS4K)のシーズン2が放送中。2月より、舞台出『天保十二年のシェイクスピア』(井上ひさし作/藤田俊太郎演出)に出演する。

タナダユキ

2001年脚本・出演も兼ねた初監督作品『モル』で第23回PFFアワードグランプリ及びブリリアント賞を受賞。04年劇映画『月とチェリー』が英国映画協会の「21世紀の称賛に値する日本映画10本」に選出された。08年脚本・監督を務めた『百万円と苦虫女』で日本映画監督協会新人賞を受賞し、その後も映画『俺たちに明日はないッス』(08)、『ふがいない僕は空を見た』(12)、『四十九日のレシピ』(13)、『ロマンス』(15)、『お父さんと伊藤さん』(16)や、配信ドラマ「東京女子図鑑」(16/Amazonプライム・ビデオ)、TVドラマ「蒼井優×4つの嘘 カムフラージュ」(08/WOWOW)、「週刊真木よう子」(08/テレビ東京)、「昭和元禄落語心中」(18/NHK総合)など数々の話題作を世に放ってきた。

映画概要

「ロマンスドール」

(c)「ロマンスドール」製作委員会

北村哲雄(高橋一生)は、東京の美大を卒業後、ラブドール制作会社で働き始める。美術モデルとして出会った園子(蒼井優)に一目ぼれをして結婚。幸せな日常を送りながらも、ラブドール職人であることを隠し続け、やがて仕事にのめり込むうちに家庭を顧みなくなった哲雄は、恋焦がれて夫婦になったはずの園子と次第にセックスレスになっていく。いよいよ夫婦の危機が訪れそうになった時、園子は胸の中に抱えていた秘密を打ち明ける……。

監督・脚本:タナダユキ
出演:高橋一生、蒼井優、浜野謙太、三浦透子、大倉孝二、ピエール瀧、渡辺えり、きたろう
原作:タナダユキ「ロマンスドール」(角川文庫刊)
配給:KADOKAWA
(c)「ロマンスドール」製作委員会
公式:https://romancedoll.jp/

2020年1月24日(金)、全国ロードショー