映画「記憶屋」佐々木蔵之介と蓮佛美沙子の「消したくない記憶」

インタビュー

(C)2020「記憶屋」製作委員会

忘れたい記憶がある人たちが、記憶を消してくれるという都市伝説的な「記憶屋」の正体に迫る織守きょうやさんの小説を実写映画化した「記憶屋 あなたを忘れない」が1月17日から公開されます。記憶屋に記憶を消してほしいと願う弁護士役を演じた佐々木蔵之介さんと、記憶屋を探し求める主人公の恋人役を演じた蓮佛美沙子さんに、それぞれ映画の見どころなどを聞きました。

(C)2020「記憶屋」製作委員会

主人公の大学生・吉森遼一(山田涼介さん)は、恋人の澤田杏子(蓮佛さん)にプロポーズし、OKをもらいますが、杏子は突然、遼一の記憶をなくしてしまいます。遼一は、杏子の記憶を取り戻そうと、大学の講師で弁護士の高原智秋(佐々木さん)とともに、記憶屋を探します。高原は、病気のため余命わずかで、一人娘のためにある記憶を消したいと考えていました。遼一たちが杏子の記憶が失われた原因を探っていくうち、運命を変える事実が明らかになります。

佐々木蔵之介「すべての記憶はその人自身」

――余命わずかな高原弁護士を演じるに当たって、どのような演技プランを立てましたか?

平川(雄一朗)監督から「高原はずっと記憶屋を探している」と伺ったので、ならば記憶屋の存在を最初は信じていない方が良いのでは?と相談しました。「いるわけがない」と否定しながらも「あれ?いるかもしれない」「ひょっとして、いた?」「いるの?」と段階を踏む過程があった方が、観客の皆さまにもこのファンタジーな世界観に入りやすいのではないかと考えました。

――記憶を消すという行為についてはどう思いますか?

この映画のストーリーの様に、何かしらの事件に巻き込まれてしまい、記憶を消すことで、そのトラウマを消し去ることが出来るのであれば、当事者本人が記憶を消すことに対して否定は出来ないかなとは思います。

ただ、「恥ずかしい、消したい」の記憶って、居合わせた人は案外忘れていたりもします。また、失敗の記憶は、それを糧に成長出来たりもします。

劇中で高原の「娘の記憶を消す」という決断は自分なら?と思うとなかなか難しい問題ですね。

(C)2020「記憶屋」製作委員会

「昨日の夕飯、何食べたっけ?」くらいの記憶は、記憶屋さんにお願いしなくても、おのずと消し去られています(笑)。

――重いテーマでありつつも、山田さんとの共演シーンは、テンポが良く、心地良いものでした。山田さんは佐々木さんとの共演を願っていたそうですが、共演してみていかがでしたか?

高原と遼一が出会ってから記憶屋探しでバディーを組み、一緒に広島まで行くことになるので、2人の関係性を短時間で急速に接近させる必要がありました。「こんにちは、よろしくお願いします」という言葉だけではなく、くすぐるという肉体的な接触で笑顔を引き出せないかと思い取り入れました。結果、笑顔というより、変な声を引き出してしまいましたが(笑)。

山田くんとは今回が初めてで、「ずっと共演したかったんです」と言われ、とてもいい青年だ!と思いました(笑)。

余談ですが、広島ロケの後、『Hey! Say! JUMP』のコンサートにお邪魔させて頂きました。劇中の遼一は、広島から上京してきた素朴な役柄だったのに、会場の歓声の中で山田涼介は、めちゃめちゃキラキラしていました。

――佐々木さんは同時期に違う役柄を演じるときに、記憶を一度リセットしますか? 現場に行ってから切り替えますか?

たぶん、仕事をしているか、していないかのモードの切り替えはしていると思います。

同時期に違う役を演じる場合は、現場を離れれば自然とその役を離れることができます。

記憶をリセットする程の意識はないですね。

あと、例えばその日の仕事の出来不出来は感じますが、役柄をプライベートに持ち帰ったりはしません。

――年代の離れた俳優さんとのシーンが多くありましたが。

この年齢になるとバディーものとなると、年下の方と組むことが多くなります。もちろん「先輩としてしっかりしなければ」という思いもありますが、先輩方とご一緒する時より隙を見せる場面は多くなるかもしれません。隙を見せることで現場が和んだりリラックス出来たりもしますし。なので、敢えて、わざと、セリフを間違えたりしてるんです(笑)。

――広島ロケはいかがでしたか?

撮影なんですが、なんだか山田くんと一緒に旅行に行った感覚でした(笑)。1泊2日という短い時間ではありましたが、瀬戸内の海や小高い場所から見た夕景の島々がなんとも穏やかで美しかったです。その美しい景色を一緒に共有できたことは、遼一と高原の関係をグッと近づける要素にもなったと思います。

――余命がわずかという役柄でしたが、見終わった後、人生観を話し合いたくなるような作品だったと思います。

50代になって、やはり肉体的には衰えて来ています。若い時は一点突破の力技でアプローチをしていましたが、今は年をへて獲得した技術で抜け道を通ります(笑)。ただ、単に楽はしてはいけないぞ、と思っています。

以前、ちょうど50歳になった時、奥田瑛二さんから「50代は大事だぞ。この1年どうやったかで、今後の10年が決まる」というアドバイスをいただいたことがあります。さあ、どうなるのでしょう…(笑)

――楽しんで仕事をしている先輩俳優が多いように見えます。

都内で行われた映画のイベントで

今回、田中泯さんと佐々木すみ江さんという大先輩と共演させていただきました。「記憶屋なんてものはいない」と思っていても、お二人が記憶屋について話をされると、物すごいリアリティーが生まれてくる。話を聞いていると、記憶屋が目に浮かぶんですよ。それぐらいの演技力ということでもあるんですが、お二人の人生経験や積み重ねてきたものが、演技に説得力を生むんだなと、現場にいながら思いました。

すみ江さんとは、広島ロケで一緒でした。ホテルの朝食会場や移動の車の中で色々とお話しさせて頂きました。現場では「なんて明晰めいせきな芝居だ!」と驚きました。すみ江さんと共演した記憶は僕の宝物です。

――記憶をなくして失敗したことはありますか?

お酒を飲んで記憶をなくしたことはあるけれど、今のところそこまで大きな痛手はなかったのでは?と思っていますが……。

――映画の見どころを。

いいことも悪いことも、甘いことも苦いことも、すべての記憶はその人を現します。人生、誰もがこの先に何が起こるか分かりません。この映画を観て、今を大切に生きてほしいと思います。

蓮佛美沙子「ちょっと明るい未来を想像してもらえれば」

――原作を読んだ感想は?

「記憶屋」という設定が面白いなと。原作も映画もそうですが、最後の答えを明示してないところがすごくすてきだなと思いました。記憶を消してしまう、誰かのつらいこともすべて忘れられるということが、はたして正しいのかどうか。「何が善で、何が悪か」の答えを読者に委ねて、読者に考える時間を与えてくれる作品だなと思いました。

(C)2020「記憶屋」製作委員会

――原作で参考にした点はありましたか?

原作と映画では結構違う部分があったのですが、杏子の責任感の強さや芯の強さなど、原作を読んで自分が受けた杏子の印象はそのまま、演じたいなと思いました。杏子と遼一の関係性も原作と映画ではだいぶ違っていたので、役のベースを意識する以外には、あえて原作のことをあまり考えないようにして役に取り組みました。

――恋人の記憶だけを失ってしまうという、すごく難しい役どころだと思います。

記憶屋に遼一についての記憶を消された杏子は、遼一に心を開くとまではいかないのですが、徐々に警戒心を解いていき、本当に微々たることだけれど、ラストに向けてちょっとずつ「あれ? この人、なんだかすごく私に対して一生懸命だし、何か思ってくれているのかな?」という心の柔らかさを取り戻していく。そういう感じはすごく意識しましたし、そこが肝なのかなってと思いました。記憶を取り戻したわけではないのですが「何か心のどこかに引っかかるな」というのは、監督とお話する中で丁寧に表現しようということになりました。そして、ラストシーンでちょっと明るい未来をお客さんに想像してもらえればと。

――一度好きになった人をもう一度好きになるということでもあるそうですね。

杏子が遼一を記憶から消した背景は、ものすごくつらくて悲しいことです。でも、その事実を越えて、またここから2人の恋が始まるんだろうなという、最後は明るい一歩になってくれればいいなという気持ちで演じていました。

――記憶屋に消してほしい記憶と、消したくない記憶は?

基本的には消したくないです。つらいこととか、挫折して心が折れそうになったことは、自分自身にもありましたが、そういうことを経験したからこそ、何か違う自分にちょっとずつ変われたと思うので、絶対に忘れてはいけないと思っています。

ただ一つだけ、記憶を消したいことがあります。2016年のNHK連続テレビ小説「べっぴんさん」に出演したとき、主題歌がMr.Children(ミスターチルドレン)さんの「ヒカリノアトリエ」でした。私、小学校からミスチルさんがずっと大好きなんです。朝ドラのご縁でライブに行かせていただいたとき、メンバーの皆さんにごあいさつをしたのですが、実際にお会いしたら、動揺してすごく泣いてしまったんです。昔から大ファンだったのでその思いがダダ漏れして、感情が制御できなくなって。人生でも3本の指に入るぐらいの挙動不審になってしまい、本当に申し訳なかったというか。穴があったら入りたいなって思うほどで、そこだけ記憶から消したいです(笑)。

――別の役を演じるときは、それまでの役の記憶をリセットを演じていますか?

同時期に違う作品をやっているときや、頭の中を切り替えなければいけないときは、その都度リセットします。お芝居しているときには、役を色や季節でイメージしています。「この子は、春夏秋冬でいったら春だからピンクだな」とか。自分でスイッチが入るワードや質感を何となく覚えておいて、例えば1日の間で切り替えなければいけないというときに、それをすぐ思い出します。基本的に、1つの役が終わって次となったときには、意識せずとも切り替えられるほうだと思います。

――ちなみに、今回の杏子役は季節や色でいうと?

杏子は、淡いピンクのイメージで、記憶を消されてからの杏子は、青っぽい藍色をイメージして演じていました。

――原作がある作品に出演することが多いと思いますが、共通して心がけていることは?

作品にもよりますが、「君に届け」(2010年)や「鋼の錬金術師」(2017年)の時のように原作が漫画のときは特別です。ファンの方も多いので、最初の衣装合わせを大事にしています。なんなら漫画からそのまま出てきたような感じになればと思って。小説だったら、ビジュアルに関する記述が書いてあったら、それを自分で書き出して、できるだけ寄せるよう努力します。

――お気に入りのシーンは?

遼一と杏子がお台場でデートをした回想シーンがあるのですが、撮影時に山田君だと周りの人に全然ばれませんでした。「おーい、ここに『Hey! Say! JUMP』の山田君がいますよー!」って言いたかった(笑)。それくらい、山田君が遼一になり切っていたんでしょうね。

――先ほど、嫌なことを忘れないような話がありましたが、忘れることと忘れないこと、どちらが正しいと思いますか?

どちらも正しいと思いますが、やっぱり私は基本的に忘れたくないです。でも、もし杏子と同じ境遇になったら、記憶屋を呼んじゃうかもなって思います。忘れるのも正解だし、忘れないのも正解。だからこの作品がおもしろいのだと思います。私も撮影中、ずっと考えさせられました。

――映画の見どころを教えてください。

この作品がいいのは「記憶屋という映画をこういうふうに見て欲しい」という答えを出してないところだと思います。人間のエゴとか、人と人とが寄り添って生きていくのに何を大切にしたいかということを、この作品を見ているうちに、つい自分に置き換えて考えてしまいます。自分と向き合える時間をたくさんくれる、すごくすてきな作品だと思います。「記憶屋って、誰のことなんだろう」というミステリー作品のような要素もあって、犯人探しのような見方もできますが、もっとその掘り下げたところにある「何を信じるか」「何を大事にするか」を楽しんで味わってみてもらえる作品だと思います。

(取材/メディア局編集部・遠山留美)

公開情報

(C)2020「記憶屋」製作委員会

映画「記憶屋 あなたを忘れない」
1月17日(金)から全国ロードショー

監督:平川雄一朗
キャスト:山田涼介、芳根京子、蓮佛美沙子、佐々木蔵之介ほか
原作‎: ‎織守きょうや
配給:松竹

【予告編・Youtube】