ガラスの仮面の“幻の名作”…「紅天女」でヒロインを演じる思いとは?

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美内すずえさんの人気マンガ「ガラスの仮面」をもとにした歌劇「紅天女」が、2020年1月11~15日の5日間、東京・渋谷のBunkamuraオーチャードホールで上演されます。ヒロインの阿古夜/紅天女を演じるのは、ソプラノ歌手の小林沙羅さん。意気込みと見どころを聞きました。

紅天女 「ガラスの仮面」は、1976年の初刊から現在まで49巻が出版され、累計発行部数は5000万部を超えます。「ガラスの仮面」の作中劇「紅天女」は、戦乱と天変地異が続く南北朝時代を舞台に、世を鎮めるため天女の像を作るよう帝(みかど)に命じられた仏師と、村娘・阿古夜の悲恋を描いた物語。大女優の月影千草のみが主役を演じることができる“幻の名作”とされていましたが、月影が女優を引退したことから、北島マヤと姫川亜弓の2人がその座を競い合います。

――昨年9月に行われたオーディションで、約70人の候補者の中からヒロインの座を勝ち取りました。

「紅天女がオペラ化される。オーディションで主役を選ぶ」という案内を見たとき、舞台に関わる多くの人が、「大好きな『ガラスの仮面』だから受けよう」と思ったはずです。私もその中の一人でした。子どものころから、ずっとマンガを読んでいました。「ガラスの仮面がオペラになるんだったら、私が受けないわけにいかない。私がやらなくてどうするの」。そんな気持ちでオーディションに臨みました。なによりも、オペラファンではない人も知っている作品ですから、この作品をきっかけに幅広い人にオペラの舞台を見てもらえることがうれしいですね。

――ヒロインの阿古夜と紅天女を1人で2役演じるということでしょうか。

阿古夜は巫女さんのような立場で、紅天女が乗り移って、「梅の精の神様」の言葉を伝える役目です。阿古夜と紅天女は、それぞれ別のキャラクターですが、一心同体でもあります。だから、阿古夜を演じているかと思えば、徐々に紅天女が乗り移ってくるというシーンもあるので、大変難しい役です。舞台では、歌い方、発声方法、声色など表現方法を変えて、それぞれの役に変化をもたせると思います。二つの役をスイッチで切り替えるというわけではなく、グラデーションのようにそれぞれを行き来するイメージ。その変化もぜひ見ていただきたいです。

「舞台では自分を思いっきり解放します」

北島マヤ、姫川亜弓の2人と同じ気持ち

――舞台女優にとって、「ガラスの仮面」の「紅天女」を演じるというのはどのようにとらえていますか。

「紅天女」は、ガラスの仮面の(北島)マヤちゃんと(姫川)亜弓ちゃんの2人のどちらか、月影先生が認めた一方だけが演じることができるという設定です。マンガのストーリーはまだ続いていますから、2人よりも前に私が紅天女を演じてしまうのは、「すみません」と申し訳ない気持ちもあります。でも、マヤちゃん、亜弓ちゃんと同じように、舞台を目指す人たちはみんな、それぞれのオーディションを勝ち抜かなければいけないので、日々、勉強や練習を積み重ね、ライバルとの競争を繰り返しています。そういう意味では、置かれている状況や気持ちは2人と同じだと思います。

――小林さんは11月に、童謡や唱歌を中心とした「日本の詩」というCDアルバムを出しました。今回のオペラも日本語で歌われるそうですね。

オペラの舞台はドイツ語やイタリア語というイメージがあり、日本語の歌詞は歌いにくいのではないかと思われるかもしれません。でも、子音と母音で発音される日本語は、イタリア語と近い構造です。響きも美しい言葉ですから、日本語に感情をのせていくという表現方法は特別難しいということはありません。今回の舞台では、日本語字幕が出ますので、オペラは聞き慣れないという人でも、音楽とストーリーに集中できると思います。日本発のこの素晴らしい作品が、海外にも認められるきっかけになるといいなと思っています。

歌のレッスンに励む小林さん(昭和音大で)

音大進学を決めたのは受験1年前

――東京芸術大の声楽科を卒業され、ウィーンやローマにも留学しています。幼い頃から音楽の英才教育を受けているのでしょうか。

言葉を発するようになるころから歌っていたみたいです。観劇好きの両親に5歳くらいから演劇を見に連れて行ってもらいました。舞台のカセットテープを手に入れて、何回も巻き戻し、擦り切れるほど繰り返し聴き、せりふや歌をすべて覚えてしまいました。舞台を見に行けば、子どもながらに、「いつか私もこのステージに立つ」という気持ちでいました。

ただ、将来の進路を本気で考えたのは、高校2年の秋ごろでした。学校の先生から音大受験を勧められ、そこから、本格的に勉強を始めました。イタリア語で歌う課題曲があるのに、イタリア語なんて聞いたこともなかったんです。「R」の発声を「アールルルルル」と舌を巻くのができず、毎日歩きながら練習しました。自由曲のオペラ・アリアも結局2曲しか覚えられないような状態で受験に臨みました。大学に入学したら、周囲はそれこそ音楽エリートばかりでしたから、必死で勉強しました。

――「ガラスの仮面」でいえば、小林さんは「姫川亜弓」タイプかと思いました。

舞台が好きで、好きで、あらゆるエネルギーをそこに集中してしまうというところは、むしろマヤちゃんタイプかもしれません。小学校の学芸会でも、「主役をやりたい人」と聞かれれば、真っ先に「はーい」と手を挙げていました。人前でパフォーマンスをすることが楽しくて、それを褒められるのがうれしくて仕方ない子どもでした。もちろん、うまくいかないことやつらいこともありました。それでも舞台が好きだから、辞めたいと思ったことはありません。

歌劇「紅天女」のポスター

「紅天女」は宇宙の真理

――1月11日からの本番に向け、練習が本格的になっていきます。

アスリートがそれぞれの競技に合った体つきになるように、声楽家も体が変化していくんです。本番を控えて、練習時間が5、6時間に及ぶことも珍しくありません。空気を目いっぱい体に取り込んで声を出すので、あばら骨が縦に開いたようになります。声がぶれないように、足を踏ん張りますから、下半身の筋肉がパンパンになるんです。稽古は大事ですが、休息をとることも心がけています。のどが壊れないように、自分の楽器を守るようにしています。

――「紅天女」がどのようなストーリーなのか気になります。

私は、台本を読んで思わず泣いてしまいました。この世の成り立ちを描くような、大変、壮大なストーリーです。阿古夜の恋模様もありますが、人間と自然、宇宙の真理といった、とても大きな世界観を感じとることができます。観客の方が壮大なストーリーに身を委ねられるような舞台にして、観客席と一体になって「紅天女」の世界を作り上げていきたいと思います。

小林沙羅(こばやし・さら)
ソプラノ歌手

東京都出身。東京芸術大学音楽学部卒業。同大学大学院修士課程修了。2010年度上期野村財団奨学生、11年度文化庁新進芸術家在外研修員。14年度ローム・ミュージック・ファンデーション奨学生。10年から15年にウィーンとローマで研修と演奏活動を行う。17年第27回出光音楽賞受賞。日本声楽アカデミー会員。藤原歌劇団団員。

「ガラスの仮面より 歌劇 紅天女」
2020年1月11日~15日 各日午後2時開演(午後1時開場)
Bunkamura オーチャードホール(渋谷駅から徒歩7分)
各日とも午後1時15分から、美内すずえさんと郡愛子さんのスペシャルトークを開催

原作・脚本・監修:美内すずえ
作曲:寺嶋民哉
総監督:郡愛子
指揮:園田隆一郎
演出:馬場紀雄
特別演出振付:梅若実玄祥
【キャスト】
阿古夜×紅天女:小林沙羅/笠松はる
仏師・一真:山本康寛/海道弘昭
帝:杉尾真吾/山田大智

チケットの予約・問い合わせは日本オペラ振興会チケットセンター 

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