階級格差を超えた愛…ロヘナ・ゲラ監督インタビュー

インタビュー

ロヘナ・ゲラ監督

ラブストーリーを通じてインドの階級格差を描いた映画「あなたの名前を呼べたなら」が公開されました。2018年のカンヌ国際映画祭批評家週間で「GAN基金賞」を受賞したのをはじめ、多数の映画賞を受賞している秀作です。監督・脚本を手掛けたロヘナ・ゲラさんが先ごろ来日し、自身初の長編監督作品について、そして、インドの女性を取り巻く状況について語ってくれました。

雇い主と使用人のラブストーリー

映画の舞台は、経済発展が著しいインドの都市ムンバイ。農村出身のラトナ(ティロタマ・ショーム)はメイドをしていますが、夢はファッションデザイナーになること。夫を亡くしたラトナは、建築会社の御曹司アシュヴィン(ヴィヴェーク・ゴーンバル)の高級マンションで働いていました。アシュヴィンはもうすぐ結婚するはずでしたが、寸前になってフィアンセの浮気が発覚し、破談に。それまで接点がなかったラトナとアシュヴィンは、「結婚の失敗」という共通点によって距離を縮めていきます。

ラトナ(ティロタマ・ショーム、右)とアシュヴィン(ヴィヴェーク・ゴーンバル)は互いに意識するようになる (C)2017 Inkpot Films Private Limited, India

この物語を描くきっかけは、ゲラさんの子供時代の体験だそうです。「家には住み込みの乳母がいましたが、私の家族にとってはごく自然なことでした。とても親しい関係だったのに、乳母の待遇に『なにか違うのではないか。不公平なのではないか』と子供心に感じていました」。そうした階級格差に対する思いが結実したのが、この映画だそうです。

雇い主と使用人のラブストーリーにしたのは、格差問題に対する面白いアプローチだと思ったからだとゲラさんは言います。「スタッフからは『絶対起こりえない物語』と言われたけれど、人は人だと思いたいから、私の考える“愛”を描きたかった。もしかしたら、現実にこのようなラブストーリーがたくさん起こっているかもしれません。でも当然、みんな秘密にするから、本当のところはわかりませんが……」

映画の中で、若くして未亡人になったラトナは、再婚どころかアクセサリーを着けることさえもできません。故郷にいたら「自分の人生をあきらめなければならない」状況。しかし、ラトナは屈せず、都会に出て、メイドの仕事をしながらデザイナーになる勉強を始めます。一方、アシュヴィンは、アメリカでライターとして働いていましたが、兄の死で父の経営する会社の後継ぎにさせられ、夢半ばで敷かれたレールを進むことになります。

ゲラさん自身、アメリカで大学教育を受けるなど海外生活が長く、インドを「外からの視点」で見られることも、物語を紡ぐ上で重要な役割を果たしたようです。

インドでは現在も女性に対する性暴力事件が後を絶ちません。これについて聞いたところ、ゲラさんは「正直言って、胸が痛みます。まだまだ父権主義な国で、私の見ている限りでは、より安全な状況には全くなっていない」と憂います。

「2、3年前にインドに住んでいた時に、通いのメイドさんは夜、家に帰る時に『この道を絶対通っちゃいけない』と気を付けなくてはなりませんでした。階級がある程度、防御してくれるのも事実。たとえば、私は車で移動するから大丈夫だけど、低い階級の人は歩いて帰らないといけないので、危険度が増すのです。難しい問題です」

本作を目にする日本の観客に対し、ゲラさんは「自分に刷り込まれた偏見で人間を見るのではなく、偏見のない目で本来のその人自身を見てほしい」とのメッセージを寄せていました。

(取材/メディア局編集部 杉山智代乃)

【公開情報】
「あなたの名前を呼べたなら」 
8月2日(金)より、Bunkamuraル・シネマ(東京・渋谷)ほか全国公開
監督:ロヘナ・ゲラ
出演:ティロタマ・ショーム、ヴィヴェーク・ゴーンバル、他
公式ウェブサイトhttp://anatanonamae-movie.com/