日常生活では、会社の上司や友人などの理不尽な言動に振り回され、モヤモヤを感じることもしばしば。そんな時には、周りの人たちに流されず、マイペースでたくましく生きるヒロインを描いた漫画に力をもらえるはずです。コミックのスペシャリストに、おすすめ作品を聞くこの企画。後編は、女性のための書店「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」(東京・日比谷)の当山明日彩さんに、3作品の魅力を聞きました。
流されない女1位!? 頬をたたかれたような言葉の衝撃
「ちひろさん」安田弘之著(秋田書店)
「流されない女」と聞いて、最初に思い浮かぶのがこの人。流されない女部門があれば、堂々の1位になる女性です。
主人公・ちひろさんは、海辺の小さな弁当屋で働く元風俗嬢。作中で、女子学生がちひろさんのことを「こんな大人の人を見たことがない」と表現していますが、まさにその通り! ゴミ置き場から時計を拾って来たり、公園の鉄棒にぶら下がってみたりと、変わった女性で、考え方も少し違う。職業や肩書、外見などで人を判断せず、誰に対しても等しく接する姿に、「こんな生き方ができたらいいな」って憧れてしまいます。
「もういいよ、酒がマズくなった」。
風俗時代の後輩に、「弁当屋よりいい仕事がある」と言われた時、放った一言。核心を突かずに過ちに気づかせるこの威力。ひどい言いように一瞬思えるけれど、相手のことを思った上でのことと、愛読者にはわかるんです。

後輩の言葉って、世間の声と一緒。それに喝を入れてくれるちひろさんの姿は、読んでいて爽快で、時々、自分も頬をたたかれたような気持ちになります。
叱ってほしい時や、思いつめて何も考えられない時、読めばパワーをもらえるはずです。
現代に見る「大和撫子」
「ちいさこべえ」望月ミネタロウ著(小学館)

現代に見る「大和撫子」――この作品に出てくる「りつ」は、まさにそんな存在です。
実家の工務店が火事で焼け、亡くなった両親の代わりに青年が再建を目指す物語。20歳のりつは、そこでお手伝いとして住み込みで働く幼なじみですが、延焼した福祉施設の子ども5人を引き取ってきてしまいます。
工務店の職人たちのご飯を作って、家事もこなすだけでも大変なのに、子どもたちは問題児ばっかり。それでもしっかりと地に足をつけて暮らしている。その姿がきれいだなあと思うんです。

「だいじょうぶっ!」。りつが河原に立って一人で叫ぶシーン。りつの性格が、よく表れています。そういう様を誰にも見せない姿に、憧れを覚えるのは私だけではないはず。
原作は山本周五郎の『ちいさこべ』、元が古い小説なので現代的に見ると「効率的」ではないけれど、遠回りしてでも手に入れなきゃいけない大事なことを知っている。現代でもそれは変わらないことを教えてくれます。流されないための大切なことを、どうか見つけて下さい。
迷った時に背中を押してもらえる一冊
「Pop Life」南Q太著(集英社)

自分に肯定的になれない――。そんな時のおすすめはこれ。2巻完結ですぐ読めるので、仕事でへとへとの日でも、読めば、胸がじんわり温かくなります。
シングルマザーのさくらと明海が、それぞれの子どもたちも一緒にシェアハウスで暮らす物語。世間体を気にせず、自分たちの心のままに伸びやかに暮らしているのがかっこいい。散歩に行ったり、子どもたちと遊んだりといった、ありふれた日常を大事に過ごす様子が描かれています。
「いいんじゃない。いいと思うよ」。さくらが、大きな決断を打ち明けた時、明海はそう軽く答えます。「なんで?」「私は無理だわ」など一切言わず、応援してくれる人がいると頑張れますよね。

自分で考えて動きたいのに、周りの人からいろいろ言われて、疲れることもある。そうやって流されまいと頑張っている時、明海さんの言葉ってすごく大事なはず。自分の決断に迷いながらも一歩足を踏み出してみたい時、優しく背中を押してくれる作品です。
また、「『結婚』は人生の絶対やらなきゃいけないこと」のような時代が終わった今、新たなライフスタイルの指南書としても読んでいただきたい作品です。南Q太先生のあとがきも必読!
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流されない女たちにパワーをもらい、梅雨時の憂鬱な気分を吹き飛ばしましょう!
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ちひろさん
ちいさこべえ(電子書籍)
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