動物写真家の岩合光昭さん(68)が初メガフォンを取ったことで話題の映画「ねことじいちゃん」が2月22日に公開されます。小さな島で暮らす老人・大吉と、飼い猫・タマの日常を描いた本作で、ヒロイン・美智子役を務め、大の猫好きとしても知られる柴咲コウさんに、映画の見どころを聞きました。
岩合監督のオファーを受けたワケは?
――初メガホンの岩合監督からオファーを受けたときの心境は?
普通は原作や脚本の内容をよく読み込んだ上で、出演を決めるのですが、「ねことじいちゃん」は岩合光昭さんが監督で、立川志の輔さんが初主演ということを聞いて、二つ返事でOKしました。脚本も、出演を決めてから読み込んだんです。岩合さんの初監督作品は2度とないので、ぜひこの作品に関わりたいと思いました。
――柴咲さんから見て、岩合監督ならではの「これはすごいな!?」と思うシーンはありましたか?
猫だけを撮るショットがかなりありました。岩合さんが猫の隙というか、ありのままを切り取っていて、さすがだなと思いました。脚本に「(猫が)威風堂々と」って書いてあって、「どうやって撮るんだろう?」と最初は不安でした。共演の小林薫さんも、「『猫待ち』があるんだろ?」とおっしゃっていたんですが、岩合さんは猫の動きを見事に切り取っていましたね。とにかく、タマ役のベーコンがすばらしかったです。
――お気に入りのシーンは?
大吉さんとタマちゃんの何げない日常の掛け合いですね。気持ちがほっこりするというか、「生活ってこういうことだな」と思いました。妻(田中裕子さん)に先立たれた大吉さんが、妻が残したレシピを見ながら料理を作るという姿勢もすてきですが、それをじっと見つめるタマもかわいくて。古風な一軒家で一人と一匹が仲良く暮らす姿って、すごくぜいたくなことだなと思いました。

私の父もそうですが、高齢男性の独り暮らしって、身の回りのことが面倒くさいというか、自分のケアがおろそかになってしまいがちです。でも大吉さんは、きちんと暮らしていて、見習わなければならないところがたくさんあると思いました。あとは、三毛猫のミーちゃんをはじめ、たくさんの猫ちゃんを抱っこできてうれしかったです(笑)。
猫は言葉を交わさなくても分かり合える大事な存在
――ご自身も猫を飼っていますが。柴咲さんにとって猫とは?
現在はのえる(7)という女の子を飼っています。私にとっては癒やしですね。人間の言葉で会話はできないけれど、話さなくても気持ちは通じていると思っています。自己満足かもしれませんが、きっと分かり合えていると思っています。いいときも悪いときもずっとそばに寄り添ってくれる大事な存在です。
猫は、言葉はしゃべれなくても、アイコンタクトで補ったり、鳴き声で訴えてきたりと、遊んでほしい時はものすごく要求してくるんです。その要求にこたえると、また鳴いたりするので、本当に賢いと思います。
志の輔さんに頭が下がる思い
――俳優としての志の輔さんはいかがでしたか?
現場ではいつも低姿勢で、謙虚な方でした。あいさつもとても丁寧で。普段、私たちはメイク中だと鏡越しに「おはようございます!」と、顔を見ず、声だけであいさつしてしまったりするんです。でも、志の輔さんは、メイクが終わってからもう一度見えて、顔を見て「おはようございます。今日もよろしくお願いいたします」と、あいさつをしてくださるんです。あいさつ一つ取っても心を込めてされるのだと、頭が下がる思いでしたね。私ももっと礼儀をちゃんとしないといけないなと反省しました。
――岩合監督の映画への思いは感じましたか?

映画への一途な思いを感じました。岩合さんがこだわって撮りたいと思うところもあったと思います。初監督で勝手が分からないことがある中で、スタッフさんの助言やアドバイスを取り入れ、製作チームともよく話し合って、より良いものにしたいという姿勢を感じました。また、俳優側のちょっとした疑問も、真摯に聞いてくださって、その場で臨機応変に対応してくださいました。そういうやり取りを経て、作品がより良くなったと思います。
いつも「初心」を忘れずに
――岩合監督ならではのエピソードはありますか?
猫の自然な表情を撮るために、大きな声を出さないようにしたり、猫の扱いにあまり慣れていない俳優さんが、猫をぎゅっと抱きしめたりすると、「そんなに強くしないで!」と猫を気遣われるところもあり、そんなところが岩合さんらしいなと。(笑)
――美智子をどんなところに気をつけて演じましたか?
島の住人は年齢層が高くて、若い世代は美智子と郵便局員の聡(葉山奨之)、それに島唯一の診療所で働くお医者さんの若村先生(柄本佑)ぐらい。なので、美智子の存在が、私と同世代の方にもこの映画を見てもらうきっかけになればと思いました。美智子のキャラクターや振る舞い方で、見る方への物語の浸透の仕方が違ってくると思い、監督やほかの役者さんとも話し合って、監督が求める「美智子像」に近づけたらと思って臨みました。特に監督からは「お芝居をしないでください」と言われたので、表情や間合いをなるべくナチュラルにと心がけました。

いつも、演じる時は「初心」です。新しい作品の撮影に入るときは、まっさらな気持ちで臨みます。初めての監督さんとのお仕事も「一期一会」ですし、作品と対峙する初めての瞬間のフレッシュさも忘れないようにしたいです。
――ロケは愛知県の佐久島で行われたそうですね。
宿の方がとてもよくしてくださいました。毎回食事にも気を配ってくださって、お魚はもちろんですが、ワカメがとてもおいしかったです。
デビュー20周年で思うこと
――今年、デビュー20周年だそうですが、振り返ると感慨はありますか?
特にないです(笑)。高校生の時にデビューして、気がついたら37歳に。でも、長く活動してこられたのは、支えてくださったみなさんのおかげだと思います。そのことはいつも忘れないようにしたいです。
――女優、アーティスト、レトルト食品のプロデュース、ファッションブランドの立ち上げなど、幅広く活動されていますが、それぞれ、どのようにバランスを保っていますか?

どれも楽しみながらやっていけたらいいなと思っています。やっていくうちに、いい意味での欲もどんどん湧き上がってきますし、自分がやりたいことと、周りから必要とされることがうまくマッチすれば一番いいですよね。それはとてもぜいたくなことですが、大事にしていきたいです。
――長いお休みができたら、行ってみたいところは?
ロンドンはピカピカに晴れていないグレーな感じが好きで、何度も訪れています。体の疲れを取るために、リゾート地へ行くのもいいんですけれど、今は「活動期」なので、まだ行ったことがないニューヨークの街並みや人々の暮らし、商業施設などを見てみたいです。休みながらも、何か影響を受けていたいんです。
――今回の映画のように、将来どこかに住んでみたいという夢はありますか?
今の積み重ねで、未来の在り方も変わっていくと思うので、まだ何十年先のことは考えていませんが、自然が豊かなところで暮らしたいなと思います。岐阜に陶芸家の友人がいるんですが、そこは家の後ろに山があって、そばを川が流れていて、庭と裏の山の風景が共存しているんです。そんなところで暮らせたらなと思います。自分で焼いたお皿で、自分の作った料理を食べたりして。
――最後に映画の見どころを。

猫が癒やしになるのはもちろんですが、人間と猫が暮らす島の風景を通して、「豊かさって何だろう」と考えさせられる映画です。大きな事件が起こったり、ドキッとする事件があるわけではないんですが、人々の日常を切り取った、こんなにすてきな映画が作れるんだなぁって思いました。自分の人生と重ね合わせながら見ていただけるとうれしいです。
(聞き手・メディア局編集部・遠山留美、撮影:金井尭子)
【ストーリー】
世界の街角からかわいい猫を紹介する旅番組「岩合光昭の世界ネコ歩き」(NHK・BSプレミアムで放送中)が人気の動物写真家・岩合光昭さん初監督作品。
2年前、妻に先立たれ、猫と高齢者ばかりの太平洋に浮かぶ宮ノ島で、愛猫のタマと一人と一匹で暮らす、島の元の校長・春山大吉と島の人々とのおだやかな日常を描いたヒューマンストーリー。主演は、映画初主演となる落語家の立川志の輔さんが務め、柴咲さん演じる美智子は、ある日都会から島に移り住み、おしゃれなカフェをオープンします。始めは敬遠していた島の人々も、美智子の人柄にひかれ、次第にカフェに集い、交流していきます。全シーンに必ずどこかに猫がいる――――猫と人間の愛しい物語。
【公開情報】「ねことじいちゃん」2月22日(金)公開
監督:岩合光昭
原作:ねこまき(ミューズワーク)「ねことじいちゃん」(KADOKAWA)
脚本:坪田文、エグゼクティブプロデューサー:藤本款、企画:野副亮子
キャスト
主演:立川志の輔
柴咲コウ、柄本佑、銀粉蝶、山中崇、葉山奨之、田根楽子、小林トシ江、片山友希、立石ケン、中村鴈治郎(友情出演)、田中裕子、小林薫、ベーコン、小梅
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