橋本愛さん、渡辺大知さん「何者にもなれない」若者演じる

インタビュー

橋本愛さん(右)、渡辺大知さん

 地方都市で暮らす若者たちの心模様を描いた映画「ここは退屈迎えに来て」(廣木隆一監督)が10月19日に全国公開されます。原作は、若い女性たちのリアルな姿をつづり続ける作家・山内マリコさんの小説。高校を卒業後、“何者か”になりたくて東京で就職したものの、10年後に古里へ戻り、やり場のない思いを抱えながら日々を過ごす主人公を、橋本愛さんが演じています。橋本さんと、主人公の元同級生役を演じた渡辺大知さんに、作品の見どころなどを聞きました。

心にモヤモヤ抱えた人の救いに

――完成した作品をご覧になって、どんなことを感じましたか。

橋本さん まず最初に「安心した」という気持ちが浮かびました。私は、原作の小説が一読者として好きだったので、原作者の山内さんをがっかりさせたくないという気持ちが強かったんです。でも、出来上がった作品を見たら、すごくいい映画になっていたし、原作の核となる部分も大事に守れていたので、よかったと思いました。

渡辺さん はじめに原作や脚本を読んだときに感じたのは、「鬱屈うっくつとした生活の中にも、きらめきはあるんだ」ということだったんです。映画を見て、それが見事に映像化されているなと思いました。特別な事件が起きるわけでもなく、淡々とストーリーが進んでいく映画なんですが、登場人物や街の風景がすごくみずみずしいんです。何でもないことの大切さ、何でもないことの中に潜んでいるきらめきが映し出されていて、「この映画はきっと、心にモヤモヤを抱えた人の救いになるな」と感じました。

メイク 津田雅世(モッズ・ヘア) ヘア 夛田恵子(モッズ・ヘア) スタイリスト 飯田珠緒

――演じるうえで、難しかったことは?

橋本さん 「まあ、(高校を卒業してから東京に)10年もいたしね」というセリフがあるんですが、私は今、22歳なので、高校卒業後の10年というのは、私には経験のない10年なんです。10年前というと、まだ小学6年生でしたから(笑)。役とリンクできる自分の経験がないから、想像で補うしかなくて、そこはやはり難しかったです。

渡辺さん 僕は、「新保くん」という男性の高校時代から現在までを演じたのですが、自分が高校生に見えたかどうか(笑)。僕自身はまさに10年前が高校3年生で、現在の新保くんと同年齢なんです。僕の場合、20歳ぐらいまでは、高校生活の記憶がまだ自分に染みついていて、懐かしい感覚はなかったけれど、28歳の今は、高校生活というものがすごく遠くに行ってしまったようで、切なくなる年齢になったと思っているんです。あんなに鮮明だった高校時代の記憶が、「あれ、ちょっと忘れてるな」と思うことが増えて、すごく寂しくなる。そんな年齢になったんだなあと。そういう意味では、今回の作品でも、等身大の自分が感じている寂しさを出せたかなと。

際立つ「存在力」

――ロケ地は富山でしたが、映画を見ていると、見たことがないのにどこかで見たような風景の映像が続きます。渡辺さんも、ご自身の出身地(神戸市)を思い出したそうですね。お二人の「地元の風景」はどのようでしたか。

橋本さん 私は熊本の出身ですが、やっぱり富山と似ているんです。でも、似ているけれど、何かが違う。明らかに違うのは、夕日です。熊本ではまぶしくて見ていられなかったけれど、富山だと「きれいだな」って、ずっと夕日を見ていられるんです。気候が関係しているのか、空気が違うせいなのか、よく分からないけれど。

渡辺さん 僕の地元は神戸の山奥で、実は地元に住んでいた頃、夕日、つまり太陽が真っ赤になるところを見たことがなかったんです。周りが山に囲まれているから、夕日になる前に、太陽が山に隠れてしまうんです。空はオレンジ色がかるけれど、夕日は見たことがなかった。だから、東京で初めて真っ赤な夕日を見た時は、感動で泣きました(笑)。

ヘアメイク 吉村健(AVGVST) スタイリスト Shinya Tokita

――共演して、お互いの印象は?

橋本さん 渡辺さんは、高校時代に同級生の「椎名くん」にあこがれていたジェンダーレスな役を演じられています。渡辺さん本人も中性的な印象がすごく強いんです。自分の中にどんな役を入れても、どんな形にもなれて、どんな色にも変われる。渡辺さんが出演した他の作品を見ても、「新保くん」とは全然オーラが違って、全然違う人に見えました。ミュージシャンとして活動しながら、役者としてもこんなことができるなんて、すごいなって。

渡辺さん 橋本さんと初めて会った時から印象が変わっていないのは、その「存在力」です。例えるなら、セリフを言う前からセリフが始まっているかのような。ミュージシャンにもいるんですよ、歌う前からかっこいい人、ステージに出てきた瞬間からかっこよくて泣けてきちゃうような人が。橋本さんも、画面に映り込んだ瞬間に、もう何かが始まっている感じがするんです。そう思わせる橋本さんは、映画界にとってすごく大事な存在だし、一映画ファンとしても、橋本さんが映画界にいてくれるのは有り難いことです(笑)。

(C)2018「ここは退屈迎えに来て」製作委員会

「何者でもない」と自覚することが大事

――この映画で描かれている人物たちは、「何者にもなれなかった人々」です。お二人は「何者か」になりたいけれど、なれなくて悶々もんもんとした経験はありますか。

橋本さん 私は「何者かになりたい」と思ったことがないんです。自分探しをする前に、芸能界に入ったせいかもしれないけれど。それに、「何者かになること」が正しいとも思っていません。何者かになるよりも、何者でもないことを自覚する方がすごく大事だと思っているんです。「何者かになりたい、大きくなりたい」と思っていても、その思いに固執するあまり、むしろ自分がどんどん小さくなってしまうという矛盾が起こる気がするから。

渡辺さん 橋本さんの言いたいことがすごくよく分かる。僕も「何者かになりたい」という感情が浮かんだことがなかったから。音楽も、やりたいと思う前からやっていたし、役者になりたいと思ったこともなくて、気付いたらやっていた、という感覚でした。でも、30歳目前になって初めて考えたんです。「あれ? なんで今、これをやっているんだっけ?」って。振り返ってみれば、やっぱり自分も何者かになりたかったんだと、最近気付いたんです。何者かになることが正しいとは今でも思っていないけれど、その思いは純粋な欲望だし、大事にしたいです。

――橋本さんは、夢かなわず地元に戻った女性を演じたわけですが、橋本さんにはかなえたい夢はありますか。

橋本さん 何だろう……。一生、風邪をひかない体を作りたいです(笑)。

――風邪をひきやすい?

橋本さん そんなことはないのですが、寝不足だったり、疲れてきたりすると、それが体調面にダイレクトに表れてしまうので。丈夫な怪物みたいになりたいです(笑)。

――渡辺さんは、ロックバンド「黒猫チェルシー」のボーカルとしても活躍しています。渡辺さんにとって、音楽の仕事と役者の仕事は同質なものなのでしょうか。

渡辺さん 僕の中には、一つのところにとどまっていられないという部分があって、自分を全然違うところに持っていきたくなる時があるんです。僕にとって、役者の仕事は「求められること」であり、音楽の仕事は「求めること」なので、対照的ではあるけれど、音楽にも演技的な側面があって、そこは役者の仕事と似ています。今は、振り子のように両者を行ったり来たりしながら、自分でバランスをとっているのかなと思っています。
(取材:読売新聞メディア局・田中昌義、撮影:金井尭子)

橋本 愛(はしもと・あい)

1996年生まれ、熊本県出身。2010年、映画「告白」で注目される。「桐島、部活やめるってよ」(12年)などで第86回キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞、第36回日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。主な映画出演作に「リトル・フォレスト二部作」(14、15年)、「PARKS パークス」(17年)、「残穢(ざんえ)─住んではいけない部屋─」(16年)、「美しい星」(17年)など。19年のNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」への出演を控えている。

渡辺 大知(わたなべ・だいち)

1990年生まれ、兵庫県出身。ロックバンド「黒猫チェルシー」のボーカル。2009年、映画「色即ぜねれいしょん」で俳優としてデビュー。同作で第33回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。以降、音楽活動に並行し、数々のドラマ・映画で俳優活動を展開。主な出演作に、 NHK連続テレビ小説「まれ」(15年)、映画「くちびるに歌を」(15年)、「勝手にふるえてろ」(17年)など。11月には主演映画「ギャングース」の公開も控える。

映画「ここは退屈迎えに来て」は10月19日(金)全国公開。
監督:廣木隆一
出演:橋本愛、門脇麦、成田凌/渡辺大知、岸井ゆきの、内田理央、柳ゆり菜、亀田侑樹、瀧内公美、片山友希、木崎絹子/マキタスポーツ、村上淳
配給:KADOKAWA