ふたり支え合った「きらきら眼鏡」池脇千鶴さん、安藤政信さん

インタビュー

 ひたむきな恋と生きることの輝きを描いた映画「きらきら眼鏡」が、9月15日に全国公開されます。原作は「最後の1ページまで切ない……」と絶賛された森沢明夫さんの恋愛小説です。ヒロイン・あかねを演じた池脇千鶴さんと、あかねの恋人・裕二を演じた安藤政信さんに、撮影時のエピソードや映画の見どころなどを聞きました。

撮影中、ずっと池脇さんのことばかり考えていました

――――恋人の死によって無気力な日々を過ごす明海(金井浩人さん)は、いつも笑顔のあかねと出会います。明海はあかねにひかれていきますが、あかねには余命を宣告された恋人・裕二がいました。映画は、死生観と恋愛観を織り込みながら、3人のふれあいや心情を丁寧に描いています。まずは、台本を読んだときの感想を教えてください。

池脇さん:最初に台本を読んだとき、「死」という重いテーマを扱いながら、悲しみだけではなく、優しさと温かさをまとっている――そう感じました。すぐに「この映画に出たい」と思いました。

安藤さん:オファーがあったとき、テレビドラマで外科医を演じていたんです。患者を救う側で、ずっと「命」について考えていました。今度は救われる側から、「生きる」ということを考えてみたいと思いました。

――――つらい現実と向き合いながら、笑顔を絶やさないあかねは、池脇さんと自然に重なりました。あかねのどこに一番共感しましたか。

池脇さん:あかねは、見たものを輝かせる“きらきら眼鏡”を心にかけています。裕二さんが生きようと頑張っているのに、自分が落ち込んではいけない。つらいからこそ、笑顔でいよう。何事もきらきら輝かせて見ていこう。あかねは、そんなふうに考えたんだと思います。病気の人を支えることは、私にもできるかもしれません。でも、きっと誰かに頼りたくなる。誰にも頼らず踏ん張れる、あかねは強い人だと思います。

――――ベッドの上で裕二を演じるシーンが多く、動作や表情の変化など繊細な演技が求められたのでは。穏やかな裕二が激しく慟哭する姿が痛々しくて悲しくて印象的でした。

安藤さん:裕二は病室という無機質な空間にずっと閉じこめられています。そこで、何を感じて、どこまで表現するのか。すごく考えました。裕二は明海に嫉妬しているだろうな……。若くて健康であかねとどこへでも行ける。自分のいない場所で、二人でどんな景色を見ているんだろう。そういうことを病室で一人、ずっと考えていたと思います。自分は死ぬんだから、あかねを手放さなきゃと思いながら、でもずっと一緒にいたい。裕二になりきっていたので、撮影中、池脇さんのことばかり考えていました。池脇さんも、あかねとして裕二を支えてくれました。

――――大切な人を失う。大切な人を残していく。どちらもつらく悲しいことです。演じる上でとくに難しかったことはありますか。

池脇さん:難しさはなかったです。台本が素晴らしかったので、あかねや裕二さんの苦しみも、明海君の気持ちも手に取るようにわかりました。その思いをなぞるように演じました。

安藤さん:事前の打ち合わせも必要なくて、監督からも何も言われなかったですね。撮影が始まったら、裕二になって、スッと芝居に入っていけました。

すべてを受け入れて、生きていくことは難しい

――――心に残ったセリフやシーンを教えてください。

池脇さん:この映画には、本の一節で「自分の人生を愛せないと嘆くなら、愛せるように自分が生きるしかない」という言葉が出てきます。あかねはその言葉を見て「正しくて厳しい」と言いました。私もその通りだと思いました。確かに、自分の人生を愛せないときもあるじゃないですか。すべてを受け入れて生きていくことは、すごく難しいから。

安藤さん:裕二が「命のリレー」について話すシーンは、ワンカットでセリフがすごく長いんです。もう、覚えるのがたいへんで。「役者やめたい!」って思うくらい(笑)。

――――セリフはどうやって覚えますか。

池脇さん: 私は読みながら暗記します。会話を想定しながら、シーンを思い浮かべて覚えます。むかし、ある女優さんから「手で書いて覚える」と聞いて、びっくりしました。勉強みたいだなって。

安藤さん:なかなかセリフが入らないと、ストレスがたまっちゃって、台本を投げつけることがあります。いつも撮影が終わる頃には、台本がぐちゃぐちゃ。現場に行くと、みんなの台本がすごくきれいで、「何でだろう」って。今回の台本もひどいことになってます。

池脇さん:でも安藤君、現場に台本持ってこないよね? ちゃんとセリフが入っている。

安藤さん:天才なのかな(笑)。でも、勘違いも多くて。ほかの作品ですが、現場で演じていても、何かしっくりこないんです。監督に「この状況だと、こういう感情の流れですよね」と確認したら、「安藤君、このシーンは1年後だよ」って言われた。台本の「1年後――」というト書きを読み飛ばしてたんです。そりゃあ、しっくりきませんよね。

池脇さん:やっぱり天才(爆笑)。

池脇さんにリベンジしたかった

――――お二人の息がピッタリ合っていますが、共演した印象を教えてください。

池脇さん:これまでも、お仕事が一緒になったことありますが、お話しをしたのは今回が初めて。安藤君は普段もこんな感じで、裏表がない方なんです。でも、裕二さんを演じるときは、スッとなりきる。

安藤さん:以前、少年鑑別所を描いたドラマに池脇さんが出ていて、「何てうまい女優さんだろう」って衝撃を受けました。そのあと、何本か映画も見たんです。けだるい表情と透明感のある声にすっかり魅せられて。うまいな、すごいなあって。

――――ファンになっちゃった?!

安藤さん:一緒に仕事がしたいと思い続けていたら、ある連続ドラマで共演することになった。すごく楽しみにしていたのに、現場ではぜんぜんセリフが言えなくて、ひどい出来だったんです。

池脇さん:覚えてます。ミステリーでしたよね。初日がいきなり謎解きのシーンで、探偵役の安藤君がみんなを集めて事件を説明するんです。安藤君がずっと話していて、ほかの人は見てるだけ。

安藤さん:うまくいかなくて、ものすごく悔いが残ってた。だから、この映画のオファーが来たとき、「ちゃんと出来るところを見せてやる!」と。リベンジの気持ちで挑みました。

池脇さん:「きらきら眼鏡」は裕二の存在で成り立つ映画。わたしも安藤君に支えられました。

安藤さん:あー、よかった(笑)。

悲しいだけじゃない、温かさをまとった映画

――――この映画でいちばん伝えたいことは何ですか。

池脇さん:見終わったとき、生きていく重荷を少しでも下ろしてもらえたらいいなと思います。悲しいだけじゃない、温かさをまとった映画です。最後のシーンの明海とあかねの表情を見ていただければ、きっとわかっていただけると思います。

安藤さん:何でもない日常に幸せを見つけられる、きらきら眼鏡のような映画です。静かで穏やかな海、美しい夕景、セリフとセリフの間合いなど、じっくり楽しんでください。映画館を出たときに、余韻に浸ってほしいと思います。

 (聞き手:読売新聞メディア局・後藤裕子、撮影:金井尭子)

池脇千鶴(いけわき・ちづる)
女優

 1981年11月21日生まれ。1997年「三井のリハウス」第8代リハウスガールでデビュー。1999年『大阪物語』(市川準監督)で映画デビュー。2001年にはNHK連続テレビ小説「ほんまもん」で主演。『ジョゼと虎と魚たち』(03/犬童一心監督)、『そこのみにて光輝く(14/呉美保監督)など数多くの映画やドラマに出演し、国内外の数々の映画賞を受賞。公開待機作に『半世界』(阪本順治監督)など。

安藤政信(あんどう・まさのぶ)
俳優

 1975年5月19日生まれ。1996年、映画『キッズ・リターン』(北野武監督・脚本)にて俳優デビュー。同年の映画賞新人賞を総なめにする。その後『サトラレ』(2001/本広克行監督)への出演をはじめ、数多くの映画・テレビに出演。09年『花の生涯・梅蘭芳』(チェン・カイコー監督)にて海外進出。俳優のみならずフォトグラファーとしても活躍し、多才ぶりを発揮している。近年のテレビドラマでは「コード・ブルー―ドクターヘリ救急救命―3rd season」(フジテレビ)に出演。

【映画情報】

「きらきら眼鏡」

(c)森沢明夫/双葉文庫 (c)2018「きらきら眼鏡」製作委員会

 大切な人がいなくなる。その時どう生きる――?

 高校時代の恋人の死という癒えない傷を抱えた明海は、死んだように無気力な日々を過ごしていた。ある日、一冊の古本がきっかけであかねと出会う。「時間って命と同じだから、もたもたしてたら時間切れになっちゃうよ」。あかねから、そう教えられる。いつも前向きで笑顔のあかねは、見たものぜんぶを輝かせる“きらきら眼鏡”をかけているという。だが、彼女もまた余命宣告された恋人の裕二と向き合うつらい現実を抱えていた。過去から立ち直れず、もがきながら生きてきた明海にとって、毎日を輝かせようとするあかねに、次第に惹かれていく――。

出演:金井浩人 池脇千鶴/古畑星夏 杉野遥亮 片山萌美 志田彩良/安藤政信
監督:犬童一利
脚本:守口悠介
制作:「きらきら眼鏡」制作実行委員会/Chaos Entertainment
原作:森沢明夫「きらきら眼鏡」(双葉文庫)
協力:船橋市 船橋ロケーションガイド ふなばし撮ぉりゃんせ/千葉県 千葉県フィルムコミッション/勝浦市 勝浦ロケーションサービス
配給:S・D・P
宣伝:アゲハテイル/エレクトロ89
製作:「きらきら眼鏡」製作委員会/NPO法人船橋宿場町再生協議会
(c)森沢明夫/双葉社 (c)2018「きらきら眼鏡」製作委員会
公式HP

9月15日(土)有楽町スバル座ほか、全国順次公開