東出昌大さん、唐田えりかさん、映画「寝ても覚めても」で恋人役

インタビュー

東出昌大さん(右)と唐田えりかさん

 同じ顔をした2人の男性の間で揺れ動く女性の恋愛模様を描いた映画「寝ても覚めても」が、9月1日(土)に全国公開されます。原作は、芥川賞作家・柴崎友香さんの同名小説。ミステリアスな自由人・麦(ばく)と、実直なサラリーマン・亮平の2役を東出昌大さんが演じ、本作で本格な女優デビューを飾った唐田えりかさんがヒロインの朝子役に挑んでいます。東出さんと唐田さんに初共演の印象や演技への思いなどについて聞きました。

1人二役、演じ分けは考えず

――大阪で暮らしていた朝子はある日偶然、麦と出会い、運命的な恋に落ちます。ところが、半年ほどたって麦は突如、朝子の前から姿をくらまします。それから2年後、朝子は東京で麦とうり二つの亮平と出会い、付き合うようになりますが、やがて麦がタレントとして活躍していることを知って動揺します。東出さんは今回、初めて一人二役に挑戦したそうですが、麦と亮平をどのように演じようと考えましたか。唐田さんは、東出さんの二役にどんな印象を抱きましたか。

 東出さん 気をつけたのは、麦と亮平を演じ分けようと考えないことでした。撮影本番前のテストでは、濱口(竜介)監督の指示で、感情を排してセリフを読むようにしました。セリフに感情を込めていいのは本番の1回だけ。いざ本番になって感情を込めてお芝居をしてみると、麦の時には、彼の無愛想で無遠慮なしぐさが自然と生まれたし、亮平の時には、朝子の顔色をうかがったり、その場の空気を読みながら話をしたりする部分が自然に生まれてきました。

 唐田さん 東出さんが麦の時は、すごく怖かったです。存在がふわふわしていて、どこかに消えちゃいそうな。それでいて、目が合ったら殺されそうな(笑)。でも、亮平の時は、すごく穏やかで、優しく包み込んでくれるような感じでした。

――関西弁のセリフが多かったですが、東出さんは埼玉出身、唐田さんは千葉出身ですね。自然に話すのは難しかったのでは?

 唐田さん そうですね。方言指導の方からいただいた音源をひたすら聞いて、自分の中に関西弁をしみ込ませてから撮影現場に入ったという感じでした。

 東出さん 亮平が朝子に告白するシーンで、撮影当日にセリフが1語だけ削られたんです。僕は何百回もそのセリフの練習をして、口がもう覚え込んでしまっているから、本番ではつい、削られた1語も口に出ちゃうんですよ。本番当日のセリフカットは大変でしたね(笑)。

素直さと頑固さを併せ持つ女優

――共演してみて、お互いにどんな印象を抱きましたか。

 東出さん 素直さと、いい意味での頑固さを持った女優さんだなと思いましたね。監督とプロデューサーが話していたんですが、「撮影が進むにつれて、どんどんきれいになっている」と。僕もご一緒していて、見た目の美しさだけでなく、朝子ゆえの強さや透明度がだんだん増していく印象を受けました。カメラの前に立った時に魅力を増すのは、これぞまさしく女優さんだなと。

 唐田さん 東出さんの姿勢から、いろんなことを学ばせていただきました。東出さんはすごく努力家。セリフが全部頭の中に入っているのに、それでもずっと台本を読んでいるんです。こんなにすごい俳優さんでもずっと努力し続けている。だからすごいんだなと。お芝居でもたくさん助けていただいて、私はずっと東出さんに甘えてばかりだったなと感じています。

――麦と亮平という2人の男性を巡る朝子の言動は、同じ女性から見ると、驚いてしまう部分もあり、でも、心のどこかでうらやましいと思う部分もあるのではないかと思います。朝子のような女性をどう思いますか。

 唐田さん 初めて脚本を読んだ時から「朝子は自分とよく似ているな」と思っていたんです。

――どんなところが似ているのでしょうか。

 唐田さん ほとんど全部(笑)。直感で行動したり、自分にうそをつかないところが私っぽいです。

 東出さん 今の話を聞いて、監督が「映画の演出の仕事の大部分は、キャスティングが決まった時点でほとんど終わっている」とおっしゃっていたことを思い出しました。

――キャスティングの時点で、唐田さんと朝子が似ていることを、濱口監督は見抜いていたということですね。東出さんは、麦と亮平ではどちらが素の自分に近いですか。

 東出さん 愛想がない、遠慮がないところは麦に近いと思います。でも、それって日常生活で人とコミュニケーションを図るうえで一番大切なことなので、気をつけないと(笑)。

被災地で元気をもらう

――朝子と亮平が東京で東日本大震災を体験し、その後、2人でボランティアとして東北の被災地に出向き、朝市の手伝いをするシーンがあります。宮城県名取市などでロケを行ったそうですが、現地では何を感じましたか。

 唐田さん 被災地の皆さんから逆に元気をもらいました。皆さん、日常をすごく楽しんでいて、復興に向けて一丸になって頑張ろうという底力のようなものを感じました。忘れられない貴重な体験でした。

 東出さん 東北の被災地は、濱口監督がドキュメンタリー映画(「なみのおと」「なみのこえ」など)を作るために心血を注いできた場所でもあるので、そこでお芝居ができることは、役者冥利に尽きると思いました。仲本工事さんの演じる平川という男性が、朝市に店を出していて「こんなものでもないと、誰もそのうち来なくなる」とつぶやくシーンがあるんです。大きな災害が起きても、人は時間がたつにつれて忘れてしまいがちです。亮平と朝子は震災以来、たびたび被災地を訪ねてボランティアに励んでいるのですが、それってすごく大事なことだとあらためて思います。

――今作は、今年5月に開かれたカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品されました。カンヌで印象に残ったことは?

 唐田さん レッドカーペットの上を歩いたことですね。写真でしか見たことのない世界だったので、実際に歩いている時はあまり実感がなくて。日本に戻って、撮っていただいた写真を見て初めて「ああ、カンヌに行ってきたんだな」と実感したような。カンヌではずっと夢見心地のような気分でした。

 東出さん 海外の記者が濱口監督に「この作品はジャパニーズ・ホラーなのか」と質問したんです。それに対して、監督が「ある意味ではホラーかもしれない。愛というものはある種の狂気だから、その愛が見え方によっては狂気に映ったとしたら、それはその通りだと思う」と答えたのが印象的でした。大人の恋愛映画なのか、ジャパニーズ・ホラーなのか、解釈は人それぞれですが、ただそこには確かに愛というものが映し出されているので、ぜひ作品を見て楽しんでほしいですね。

役者として骨太に

――唐田さんは、今作が女優としての本格デビュー作ですが、今後、どんな女優になりたいと思っていますか。

 唐田さん この作品で朝子を演じたことを通じて、演技というのは、あれこれ考えるのではなく、まず自分が感じることが大事なのだと学びました。これからもそれを大事にしていきたいです。濱口監督には「唐田さんは、演技ができない人ですね」って言われました(笑)。でも、本当にそうだなって。自分が本当に感じたことじゃないと演じられない。うそだとばれちゃうんです。だから私は、今はできる役の幅が狭いと思うんですが、その分、「狭いけれど強い」ものにできたらという思いがあります。

――東出さんは今年、30歳になりました。何か期することはありますか。

 東出さん 20代の頃は、映画やテレビドラマ、たくさんの作品に出演させていただくことができました。でも、30代からは、役者としての「骨」をもっと太く、しっかりさせていかないといけないなと思います。1作1作、目の前の作品に心血を注ぎながら、骨を太く、肉ももっと付けていかないと、この世界で生き残っていけないと思っています。

(取材・読売新聞メディア局 田中昌義、撮影・高梨義之)

東出 昌大(ひがしで・まさひろ)

1988年、埼玉県生まれ。「桐島、部活やめるってよ」(2012年)で俳優デビューし、第36回日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞。主な出演映画に「GONIN サーガ」(15年)、「デスノート Light up the NEW world」(16年)、「聖の青春」(16年)「予兆 散歩する侵略者 劇場版」(17年)など。NHK連続テレビ小説「ごちそうさん」(13年)でお茶の間でも人気を博し、「コンフィデンスマンJP」(18年)など、テレビドラマでも活躍中。2018年は本作、『ビブリア古書堂の事件手帖』(11月1日公開)含め6作品の出演映画が公開される。11月には三島由紀夫原作の舞台化「豊穣の海」への主演が決定している。

唐田 えりか(からた・えりか)

1997年、千葉県生まれ。2014年、アルバイト先のマザー牧場でスカウトされ芸能界入り。15年に大手企業CMに抜擢ばってきされ、一躍話題に。テレビドラマでは「こえ恋」(16年)、「ブランケット・キャッツ」(17年)、「トドメの接吻」(18年)などに出演。ファッション誌「MORE」の専属モデルとしても活躍中。17年からは、韓国にも活躍の場を広げ、大手企業のCMなどに出演し、さらなる注目を集めている。本作「寝ても覚めても」で初ヒロインを務め、本格的に映画デビューを果たす。

©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS

『寝ても覚めても』は9月1日(土)より全国公開。
監督:濱口竜介 出演:東出昌大、唐田えりか、瀬戸康史、山下リオ、伊藤沙莉、渡辺大知、仲本工事、田中美佐子ほか
配給:ビターズエンド、エレファント・ハウス