悩みのトンネル抜け…木村カエラさん「ちいさな英雄」テーマ曲

インタビュー

 昨年夏「メアリと魔女の花」を大ヒットさせたアニメ制作会社・スタジオポノックの新プロジェクト「ポノック短編劇場」が始動します。第1弾は「ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―」。「メアリ~」を監督した米林宏昌さんが初めてオリジナルストーリーで挑む「カニーニとカニーノ」など、日本アニメ界を担うクリエイター3人が情熱を注いだ短編3本を集めたオムニバス作品です。エンディングテーマ「ちいさな英雄」を歌うのは、「Butterfly」「向日葵」などのヒット曲で知られるアーティスト、木村カエラさん。カエラさんに、本作の見どころ・聴ききどころに加え、音楽観や人生観などについて聞きました。

子どもと親、両方の目線で作詞

――オムニバス作品のエンディングテーマですね。正直なところ、難しくなかったですか?

 はい。スタジオポノックの西村義明(プロデューサー)さんから「3つの話をまとめる曲を作ってほしい」というお話をいただいた時は、「え? そんな大役、私にできるんだろうか……」と不安でした。スタジオポノックにおじゃました時、西村プロデューサーから「カエラさん、ドリフターズの『8時だョ!全員集合』ですよ! 『全員集合』はエロやドタバタ、いろいろなコントが並んでいても、最後にセットが全部壊れて、皆で『いい湯だな』を歌って全部を吹き飛ばす。あんなイメージのエンディングテーマをお願いしたいんですよ!」と説明されまして(笑)。「カエラさんは、まっすぐな声で気持ちを届けることのできる人だからお願いしたんですよ」という、すごく素敵すてきな言葉もいただいたので、「それならできます」とお返事しました。家族、恋人同士、子供たち、おひとりさま。いろいろな年代の方がこの映画を見て、エンディングに流れる曲を自然に口ずさんで劇場を後にするような曲を作ろうと思いました。

――歌詞の1番は子どもを見守る大人の視点で、2番は子どもの視点で書かれていますね。

  最初から両方入れたいと思っていたんです。「毎日がジェットコースター」という一節がひらめいたとき、「子どもの視点では『毎日いろいろなことが起きて楽しい』という意味になるけれど、親にとっては『子どもに振り回される』という意味になるなぁ。子どもと親、両方の目線で歌詞が書けるなぁ」と思ったからです。3本の短編はどれも、主人公と周囲とのかかわりを描いています。歌詞の冒頭に「あーそぼあそぼ」という呼びかけを持ってきたのは、ひとりでは遊べないよね、だれか横にいないとね、という気持ちを表現したかったからです。実は、大人目線で書いた1番の歌詞だけ書いて西村さんに聞いてもらった時に「2番は子ども目線で書いてほしいんですねえ」と言われ、まさに自分が思っていたことでしたので、うれしい驚きでした。

――パワーポップにわらべ歌が乗っているミスマッチ感がユニークです。カエラさんらしいという気がします。

 ありがとうございます。

――「ちいさな英雄~」をご覧になって、どんな印象を持ちましたか。

  印象的だったのは「透明人間」です。透明なのに立体的で、表情や感情までこちらに伝わってくる作画のすごさを皆さんに体感していだきたいと思います。「カニーニとカニーノ」は本当にきれいな作品です。その美しさにぜひ注目してほしいですね。「サムライエッグ」は、男の子が成長していく姿、大きくなるにつれて優しさを身につけていく姿にぐっときました。親だったらだれしも感じたことがあると思う、あの姿です。

絵本を描いて自分と向き合う

――アーティストとしてのカエラさんは今どんな時期にあるのでしょう。2016年に発表したアルバム「PUNKY」では、詰め込めるだけの矛盾を詰め込んだ「好き」という曲がとても印象的でした。

 2004年のデビューから10周年が過ぎ、アルバムを作っていく中で「さあ、木村カエラは次にどこへ行ったらいいのかなあ……」という悩みの時期に入ってしまいました。「好き」もそうですが、「私が私らしくあるためにはどうしたらいいのかなあ」という「悩みモード」が続く中で作られたアルバムが「PUNKY」でした。ですから、音は元気なのに、どこかモヤモヤしている楽曲がたくさん入っていて。「悩みモード」から抜けられない時に、「いったん音楽を離れて、自分がやりたいことをやってみよう」と思って、「PUNKY」に収録した「BOX」という曲をもとに絵本を描いたんです。絵本を描いて自分を落ち着かせた、そんな時期でしたね。

――絵本を描くことで、どんな意識の変化がありましたか。

 絵本を描くというのは、常に自分自身と向き合うことでした。だれかの意見を聞くことなく、すべて自分で決めるという作業を久しぶりに経験したような気がしました。音楽活動を始めて10年たったということは、10年間聴いて下さる方がいらっしゃった、だから今の自分がいるということですよね。その間にいつしか、皆さんが求めているものを気にしながら作品を作っていくようになり、自分の感覚が半分くらしか作品に投影できなくなり、自分が本当は何をしたいのか、よくわからなくなってしまったのだと思います。でも、絵本を描くことによって、うまくトンネルを抜けることができました。もともとは、新しい環境に飛び込んだ子どもたちの心が不安定になる様子をみていて、「これを読んでみんな元気になれー!!!」という思いで絵本を描こうと思ったのです。でも、好きなように描いているうちに、私自身も吹っ切れました。悩みのトンネルを抜けて、しかも絵本を描き終えて“子ども”に意識が向いている中、「ちいさな英雄」のエンディングテーマのお話をいただいたので、無理なく、気持ちよく曲を作ることができました。本当に良いタイミングでした。

――カエラさんが人に何かを伝える手段として有効だと思うのは音楽? 絵本? アニメーション映画?

  一番自由度の高い絵本ですね。曲を作るのはすごく難しいですから(笑)。音楽、アニメ、絵本はそれぞれ、人生への寄り添い方が違うような気がします。音楽でいうと、たとえば私の曲を聴くと、私から「君は一人ぼっちじゃないよ」と語りかけられている気がすると思います。後になって振り返って、曲を聴いていた時代や情景の香りを思い出せたりもしますよね。絵本は「この感情って大切だよね」と気づかせてくれることが多い気がします。アニメは、観客のイマジネーションをめちゃくちゃ刺激してくれますよね。自分の想像力をバーンと飛び越える展開を見ていると「楽しいなあ」と思います。心の扉を開ける効果といいますか、「自分はこういう感情も持っていたのか」と驚かされることも多いです。

子どもはパワーの源

――カエラさんにとって子どもはどんな存在ですか。

  パワーの源です。自分に対してパワーをくれるという意味でもそうですし、子ども自身がこれからの未来を切り開くパワーであるという意味でもそうです。周囲すべてにパワーをくれる「生き物」だと思いますね。

――自分の中に「子ども」が残っていると思うことはありますか。

  自分がわがままになる時、残っていると思いますね。我慢せず自由に生きるのが子どもだと思いますから、我慢ができなくなると「やばい、子どもだ……」と思ってしまいます。

――それは良くないことだと思います?

  思わないです()

――バラエティー番組「世界の果てまでイッテQ!」(日本テレビ系)の楽曲募集に応募して、法被姿ではじけた姿を見せてくれました。あれがカエラさん本来の姿ですか?

  そうですね。あれが本来のカエラさんです()。全部本来のカエラさんですけれど。あれは、それこそ「PUNKY」を作っている最中でした。レコード会社の会議室で「そんなことやっていたら『PUNKY』が期限に間に合わないよ」と反対されましたが、「『イッテQ』が募集しているんだからアルバムはストップします。今作らないと他の人に取られてしまうでしょ!」と、まじめに言いましたからね。好きなことは絶対にやりたい、という気持ちが強いのだと思いますね。まさに本来のカエラさんです。

(聞き手:読売新聞メディア局・中村文陽、撮影:高梨義之)

(C) 2018 STUDIO PONOC

<「ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―」あらすじ>

 カニの兄弟が繰り広げる大冒険を描く『カニーニとカニーノ』の監督は、スタジオジブリ在籍時に『借りぐらしのアリエッティ』『思い出のマーニー』、昨年スタジオポノックで『メアリと魔女の花』を手掛けた米林宏昌さん。アレルギー症状を抱えながらもたくましく生きる男の子と母親の絆を描く『サムライエッグ』を監督するのは、今年4月に亡くなった高畑勲さんを支え続けた百瀬義行さん。他人から見えない男の孤独な闘いをアクション満載で活写する『透明人間』は、アニメーターとしてスタジオジブリ作品の「動」の部分を担ってきた山下明彦さんが監督する。8月24日(金)より、東宝系ほか全国ロードショー。

木村 カエラ(きむら・かえら)

 1984年生まれ。東京都出身。 2004年6月、シングル「Level42」でメジャーデビュー。14年、メジャーデビュー10周年を迎え、ベストアルバム「10years」、8枚目となるオリジナルアルバム「MIETA」をリリース。17年5月、JRA『HOT HOLIDAYS!』のCMソングとなっているシングル「HOLIDAYS」をリリース。今年4月、絵本「ねむとココロ」を発売。8月22日にデジタルシングル「ちいさな英雄」を配信。