映画「天命の城」男たちのスリリングな対決に監督が込めた思い

インタビュー

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 イ・ビョンホン(『マグニフィセント・セブン』)を筆頭に、キム・ユンソク(『海にかかる霧』)、パク・ヘイル(『殺人の追憶』)と韓国のスター俳優たちが顔をそろえる映画『天命の城』が6月22日から公開されます。朝鮮史上もっとも激しい戦いと言われる「丙子の役」を舞台に、3人の男がドラマチックにぶつかりあう歴史大作で、音楽を坂本龍一が担当しているのも話題です。日本でもヒットしたコミカルな『怪しい彼女』から一転、緊張感あふれる作品を創り上げたファン・ドンヒョク監督に、本作の魅力を語ってもらいました。

イ・ビョンホンを追いかけて

―――清の軍勢12万に攻囲された李氏朝鮮の王・仁祖。厳寒の中、付き従う兵の矢は尽き、逃げ遅れた民の食糧は底をつきます。いかに生きるべきか、死ぬべきかを模索する男たちのスリリングな画面にくぎ付けになりました。「丙子の役」は、韓国では有名なのですか

 授業で習いますから、誰でも一度は聞いたことがありますが、多くの人は詳しく知らないかもしれません。私もこの映画を作るまで、それほど詳しくありませんでした。とても悲惨な戦争の記録なので、皆さん知ろうと思わないのかもしれませんね。

―――理知的な印象のキム・ユンソクさんに「降服するなら死を選ぶべきだ」と言わせ、ヒーロー的な役回りの多いイ・ビョンホンさんに、「弱者は生き残るために何でもするべきだ」と言わせていますね。意外な人選でした。

 3人のキャスティング、なかでも対立する2人の大臣を誰が演じるかが、本作が成功するか否かの分かれ道でした。哀しくて難しいお話ですが、一方で大きな予算がかかってもいます。出資者に「この俳優が出るなら出資します」と言わせなければいけません。特に(イ・ビョンホンさん演じる)崔鳴吉(チェ・ミョンギル)役は難解です。知的で冷徹、同時に人間味にあふれてもいる。演じられる力と華を持っているのはイ・ビョンホンさんしかいなかったし、もし断られていたら本作は撮影できなかったかもしれません。最初に提案した時、彼は「難しそうですね」というあいまいな返事をされたので、追いかけて行って実際に会い、説得し、シナリオも書き直し、ようやくOKをいただきました。

―――戦争アクションと宮廷劇の両面がありますね。

 原作にもその両方がありましたが、自分でも新しい要素を加えました。城内での論争の結果が戦争に繋がっていく形になるように心がけました。

極寒のオールロケ、馬の扱いに苦労

―――本作はすべてロケ撮影だと聞きましたが、リアリズムあふれる演出が印象に残ります。吹き荒れる吹雪、冷や汗が出そうなアクション、苦労も多かったのではないですか。

 最初から最後まで寒かったので、寒いという事すら忘れてしまいました(笑)。俳優さんも慣れてきて、途中からは不平不満も消えて「寒い」と言わなくなりました。最後まで苦労したのは、馬の扱いです。馬は敏感な動物なので、非常に扱いが難しいのです。常時60頭をそろえ、これを走らせ、歩かせ、並ばせるというのは大変な作業で、俳優が落馬したこともありました。もう2度と馬が出てくる映画は撮りたくないと思っています(笑)。

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―――馬を巡る、なんともいえないエピソードがありましたね。仁祖の兵が「軍の威容を保つためには馬が必要だ」と、民家の屋根からわらをはがして馬に食べさせますが、結局その馬は死んでしまい、兵士がその馬の肉を食べるという。

 これは実際に、「丙子の役」の記録に残っている話です。原作にもこのシーンがありまして、読んだ時に「逆説的で、皮肉な話だなぁ」と思いましたね。馬のために屋根をはがすなど、あきれてしまう選択だとは思いますが、兵士にとっては仕方のない選択です。しかしその馬が死んでしまい、ほかに食料がなければ馬を食べるのも仕方のない選択です。悲惨ではあるけれど、どこか笑ってしまうような連鎖、戦争によって生まれる皮肉を見せたいと思いこの場面を入れました。非常に重要なシークエンス(流れ)です。

坂本龍一の音楽にNOを2回

―――籠城が長引き事態が悪化するにつれ、生き続けるために清に従属するべきだと主張する崔鳴吉と、死を覚悟して徹底抗戦するべきだと叫ぶ金尚憲(キム・サンホン)の対立は先鋭化します。監督個人の考え方はどちらに近いのでしょうか。

 難しいですね。本当に難しい質問です。いつも、心の深いところでは金尚憲の考え方に寄り添いたいと思っているのですが、実際には、難局に直面すると崔鳴吉のやりかたを取ってしまいます。心は金尚憲の哲学に依っているのですが、頭の中では崔鳴吉の考え方を追い求めてしまう……。頭と心は違う、ということなんでしょうか。

―――本作は清の黎明期を描いていますが、清の最後を描いたのがベルナルド・ベルトルッチ監督の『ラストエンペラー』です。両方の音楽を日本の坂本龍一さんが担当していることに因縁を感じますが、ここを意識して坂本さんに音楽を依頼したのですか。

 もともと『ラストエンペラー』が好きで、坂本さんの作った楽曲も大好きでした。偶然の一致なのですが、清の始まりと終わりを描いた2本の映画を、同じ音楽監督が担当しているのというのは本当に不思議な縁だと思います。実は私が学生時代、撮影した短編に坂本さんの音楽を入れさせていただいたことがあり、「是非一度一緒に仕事をしてみたい」という気持ちは常に持っていました。今回お願いし、了解をいただくことができました。

―――坂本さんは監督のイメージ通りの音楽を作ってくれましたか。

 完成した音楽はとても気に入っています。この映画のランクをひとつ高くしてくれたと思います。ただ、最初は意見の衝突もありました。坂本さんはニューヨークにおられたので、最初は電子メールで曲の提案をいただきました。考えていた音楽と少し違ったので、「少し違うのですが」とお返事しました。坂本さんは了解されて、しばらくして2回目の提案をいただいたのですが、これもイメージと違ったので「やはり違います」とお返事したら、坂本さんからは「では監督は、いったい何を作りたいのでしょうか……」と困惑されていました。3回目に送られてきた曲が『出城』という名前を得て、仁祖が城を出て敵地に向かうシーンに使われています。坂本さんからは「ベルトルッチ監督にも提案を2回断られ、『2回断ったのはあなたが初めてです』と言いましたが、今回も3回目でOKでしたね」と言われましたよ(笑)。

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歴史の教訓、現代と照らし合わせたい

―――歴史ドラマは、必ず現代への教訓を内包しているものだと思いますが。

 本作は360年前の話ですが、歴史は繰り返します。当時と現在の状況は似ている気がします。李氏朝鮮は明や清といった強大な国に挟まれて色々な葛藤がありました。韓国は米国や中国との間で朝鮮半島を巡る外交問題を抱え、国内では政治家の対立があります。当時と現在を重ね合わせてみると、似ているところが多くあります。

 本作を通じて、過去を振り返ることで現在を見つめ直すこと、失敗から学ぶことを観客に伝えたいという気持ちがありました。個人のレベルでみれば、大義や名分、哲学や信念を守り通す人もいれば、苦痛や恥辱に耐えかねて信じることをやめてしまう人もいるでしょう。たとえば上司から不当な扱いをされた時、会社をやめるべきか我慢して会社にとどまって月給をもらうべきかという悩みもあるかもしれません。

 国家的な状況と、個人が抱える状況。私はこの2つの側面から、本作を現代に照らし合わせてみたいと思うのです。

ファン・ドンヒョク
監督

 1971年生まれ。2007年『マイ・ファーザー』で監督デビュー。14年『怪しい彼女』で沖縄国際映画祭観客大賞”Peace”部門グランプリを獲得。

あらすじ

  1636年(仁祖14年)。中国全土を支配していた明が衰退し、勢いを増した清は李氏朝鮮の王・仁祖(パク・ヘイル)に臣従を要求してくる。仁祖がこれを拒むと、清は12万の軍勢を差し向け、鴨緑江を越え朝鮮半島へ侵入する(「丙子の役」)。極寒の中、仁祖はかろうじて王都・漢城(現在のソウル特別市)南漢山城に逃れ、わずかな手勢や市民ら1万3000人と籠城の構えを取る。仁祖を補佐する大臣たちの意見は真っ二つに割れる。国の未来のためには和睦して生き残るべきだと説く崔鳴吉(イ・ビョンホン)。死を覚悟して徹底抗戦するべきだと主張する金尚憲(キム・ユンソク)。清の援軍が迫り、城内の食糧が尽きる中、仁祖と2人の大臣に決断の時が迫る――。6月22日より、TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー。 清の軍勢12万に攻囲された李氏朝鮮の王・仁祖。厳寒の中、付き従う兵の矢は尽き、逃げ遅れた民の食糧は底をつく。いかに生きるべきか、いかに死ぬべきか。