世界的ベストセラー「ダ・ヴィンチ・コード」などで知られる米国の作家ダン・ブラウン氏の最新作「オリジン」(KADOKAWA)が発刊されました。ハーバード大教授のロバート・ラングドンを主人公にした人気シリーズの5作目で、人工知能(AI)の助けを借りて人類の起源の謎に迫ります。刊行を記念して東京で開催されたトークセッションで、AIと人類の未来、作品への思いを語りました。
舞台はスペイン、元教え子の暗殺に巻き込まれて……
専門の「宗教図像解釈学」を駆使して、パリやフィレンツェなどで難事件を解決してきたラングドン。誰もが知る名画や歴史的建造物が事件の鍵となる驚きと興奮がシリーズの魅力です。今回の舞台はスペイン。ビルバオの「グッゲンハイム美術館」を訪れたラングドンは、元教え子の暗殺事件に巻き込まれます。

「いつもラングドンは、行くべきでないところに、タイミング悪く行ってしまう人」と、主人公の運の悪さを語るブラウン氏。舞台にスペインを選んだ理由は、「古代と現代を同時に扱う物語にピッタリ。豊かな伝統と宗教、高い科学技術力を併せ持った国だから」。これまでルネサンス芸術や宗教学をベースに事件を解決していたラングドンですが、今回は「彼を現代アートの世界に飛び込ませたかった。専門外の難解なアートの前で、ラングドンは大いに戸惑います」と明かしました。
「宗教と科学」 衝突によって生まれる新たな関係
ブラウン氏の作品では、「宗教と科学の対立」が一貫してテーマになっています。その背景には、自身の生い立ちが影響しているそう。父親は数学者、母親は宗教音楽家で、「夕食の時、母は神の恵みに感謝する祈りを捧げ、父は皿に添えられたニンジンで円錐曲線の講義をします。でも、2人は信念を巡ってケンカすることはなく、お互いを尊敬して、深く愛し合っていました。宗教と科学が共存していたのです」

ところが、ブラウン氏は9歳の時、二つの世界観の矛盾に気がついたそうです。聖書には神が7日で天地を創造したと書いてあるのに、学校ではビッグバンによって宇宙ができたと教わり、どちらが正しいのかを神父に尋ねると、「いい子はそんなことを聞かないものだ」。それ以来、宗教と科学の衝突はブラウン氏を混乱させ、やがて、二つの世界を探求することが人生最大のテーマになったといいます。「オリジン」の中でも、「科学のもとで神は生き残れるのか?」といった疑問が様々な形で投げかけられます。
「古代の人々は人知を超えた現象を説明するために、多くの神を創造しました。潮の満ち引きはポセイドンの気まぐれ、雷はトールが怒って投げた稲妻。人間は、自分を取り巻く世界にわからないことがあると、その隙間を神で埋めたのです。ところが、科学が進歩して、“隙間の神”の神殿は小さくなっていきました。潮の満ち引きも雷も疫病が広がる理由も、いまは科学で説明できます。しかし、科学が解明していない謎が残っています。われわれはどこから来たのか。われわれはどこへ行くのか。『オリジン』では、聡明な未来学者が、この謎を解き明かします」
AIを相棒に、人類最大の謎を解き明かす
ラングドンは、暗殺された元教え子が開発したAI「ウィンストン」と共に、人類の起源に迫っていきます。AIを相棒にした理由は、「AIはパワフルな技術で、人類の知能を上回るだろうと思います。私たちにとって未知のシンギュラリティ(技術的特異点)です。その時、私たちはAIの奴隷になってしまうのでしょうか? 人類はAIを制御できると、私は信じています。人間の創造力と愛する力を信頼し、画期的なテクノロジーが人類に豊かさをもたらすと。私はAIの未来において、楽観主義者なんです」
さらに、「遠方の誰かと電話でつながり、コンピューターで会話し、インターネットで情報を収集する――。テクノロジーは世界中のあらゆる人々とのコミュニケーションを可能にしました。神を探して空を見上げるのはなく、互いを見つめ合うことで結びついたのです。テクノロジーが新しい精神性や宗教の源になるかもしれません」と、宗教と科学の未来像を語りました。
