「黄金夜界」の危ない魅力、人生に大切なのは愛か金か

News&Column

 愛と金。この世で一番大切なものは、どちらなのか。人生の大テーマを真正面から問う橋本治さんの新聞連載小説「黄金夜界」が、大詰めを迎えています。IT社長の妻となったモデルのMIAと、無一文から成り上がろうとする貫一を軸に進む物語は、スリリングな展開にはまる人が続出中。紙面を飾るmaegamimamiさんの繊細な挿絵とともに、フィナーレへと進む小説の魅力を紹介します。

原作は120年前の「金色夜叉」

 実はこの小説は、120年前の明治時代に読売新聞で連載され、大人気を博した尾崎紅葉の「金色夜叉こんじきやしゃ」を、平成を舞台に橋本さんが書き直したもの。昨年9月30日から、読売新聞朝刊で連載中です。橋本さんは、「『金色夜叉』は、大通俗で、遠い昔の忘れ去られた物語のように思われかねませんが、私にとってはとても現代的なものを暗示する興味深い作品」と語っています。

 「金色夜叉」の主人公、貫一は、早くに親を亡くし、鴫沢しぎさわ家に引き取られます。同家の娘、宮と将来を約束したにもかかわらず、突然、宮は資産家の息子、富山と結婚。裏切られた貫一はエリートの道を捨て、高利貸しになるという物語です。

 かたや「黄金夜界」の主人公の名は、原作のまま貫一。ヒロインの宮は、少し漢字を現代風に変えてモデルの「MIA」こと美也となっています。物語は、平成のあるおおみそか、東京のタワービルで開かれたバブルなカウントダウンパーティーで、IT企業の社長が美也を見初めることから始まります。美也は、東大生の貫一と将来の約束をしていたのに、社長のもとに走ってしまいます。美也へのリベンジを誓った貫一は、大学をやめて働きに出て――、というのが、これまでの大まかなあらすじ。

今を映すカップルの軌跡

 話題となっているのは、「いま」を映し出すその場面設定と展開の面白さです。

 家出をした貫一が向かうのはネットカフェ。次に、後継ぎのいない老夫婦が営む町工場にたどりつき、工場が廃業した後は、ブラックな居酒屋チェーンで社長の右腕になります。その後、起業して、「わらじメンチカツ」を出す飲食店のイケメン社長に。美也に捨てられ、世間知らずだった男がいまや、SNSでの話題作りをしかけ、ふてぶてしいまでに冷徹にお金を稼ぐ経営者に様変わりしています。

 かたや美也は、モデルとして働く一方で、和服を着て相撲観戦に行く、人もうらやむ生活を送っています。しかし、「仮装パーティー」と夫に連れられて出かけた伊豆のホテルが、まさかのスワッピングパーティーの会場で……。「昼ドラも真っ青」なほどテンポが早い展開と、新聞掲載ギリギリの危うい描写に、「橋本先生、すごいです」などと多くの感想が担当者のもとに寄せられています。

 イラストは、テレビドラマ「カルテット」などの絵を担当し、女性に人気のmaegamimamiさん。男女の美しい姿も、際どい場面も、都会的な洗練された絵で作品をひきたてています。

格差と矛盾、明治と平成との共通点

 「金色夜叉」が始まった1897年、明治半ばの日本社会は、日清戦争に勝利して経済成長を続けていたものの、足尾銅山の鉱毒事件が深刻化するなど社会の矛盾が広がっていました。現代も表向きは、東京都心には高層マンションが次々と立ち、東京五輪を控えて好景気に見えるものの、東日本大震災からの復興は道半ばで、格差が広がり、少子高齢化がいよいよ進んでいます。120年の時を隔てて、現代に生まれ変わるべき必然があったともいえるでしょう。

 物語は、ネットニュースで貫一の活躍を見つけた美也が、貫一と再会する展開にさしかかっています。果たして、立場が変わってしまった男女が出会って何が起こるのか。早くもドラマ化を望む声などもあり、フィナーレまで目が離せません。(読売新聞文化部・待田晋哉)