三浦しをんさん、女性同士の運命の恋を描いた「ののはな通信」出版

インタビュー

 直木賞作家の三浦しをんさんが、約3年ぶりの長編小説「ののはな通信」(KADOKAWA)を出版しました。ミッション系のお嬢様学校に通う野々原茜(のの)と牧田はな。運命的な恋に落ちた2人の20年間を書簡形式で描いた女子大河小説です。女の子同士のひそやかな恋、裏切りと決別――。そして再び2人の人生が交わり、新たな関係が築かれていきます。三浦さんに、恋をして成長する女性たちへの思いや執筆時のエピソードなどを聞きました。

自分の世界を変えるくらいの「恋」を描きたかった

―――手紙やメモ、メールのやり取りだけで、2人の女性の人生が浮き彫りにされていく展開が圧巻でした。書簡形式の小説を書いた理由を教えてください。

 「女の子2人が主人公の三島由紀夫っぽい小説を」という依頼をいただいて、「わかりました!」と返事をしたんです。でも、あとから考えたらまったく分かってなかった。「三島っぽい女の子小説って何だ?」って。考えているうちに、三島が太宰治にすり替わり、女学生の日記か書簡にしようと思いつきました。実は「コンパクトに書いて」とも言われたんですけど、ぜんぜんコンパクトになりませんでした。結局、「女の子の小説」しか依頼の内容に合ってないです。

―――「のの」と「はな」の友情は、やがて恋心へと変化していきます。

 人は自分と異質なものを知って世界が広がると思うんです。自分と違う存在と直面して、その相手とどう向き合うのか。異文化の衝突によって起こる変化を描きたかったんです。友情でも成立したかもしれませんが、恋愛の方がより濃密に描けると思いました。ごく若い時に自分の世界を変えるくらいの衝撃を体験して、その体験が彼女たちの人生にどんな影響を与えていくのか。20年、30年にわたる長い物語を書きたかったんです。

―――物語の始まりから、ののとはなは仲良しの友だちです。三浦さんの脳内には、2人の出会いの設定はあるのですか。

 妄想はあります。聖フランチェスカは中高一貫の女子校。はなは高校から転入してくるのですが、すごく珍しいことなんです。転入初日、はなが教室に入ってきた瞬間、ののは心を撃ち抜かれます。「ズギューン!」という感じです。そのときは「恋愛」という意味でのひと目ぼれではなかったと思います。「話が合いそう」とか「親しくなれそう」という直感みたいなものでしょうか。はなは、どこに行っても誰とでもうまくやっていける人。摩擦が生じないよう、適度な距離感で他人と接します。でも、「ののだけは他の子と違う」と思い始める。「何でだろう。ののとだとリラックスして話せるし、本音もスルッと言っちゃう」みたいな。

「ののはな通信」KADOKAWA/1728円(税込み)

―――最初、ののはクールでシニカルな女の子だと思っていたのですが、実は臆病で傷つきやすいところがある。一方、ふわふわ甘い砂糖菓子みたいなはなは、芯が強くて激しいところがある。

 恋愛としてかれる相手には、自分とまったく違う部分と、すごく似ている部分がちょうどよく配分されているものではないでしょうか。まったく違っても、似すぎていてもダメだと思います。ののとはなは、その案配がいいのかもしれません。

―――決別した2人が再会した後の展開も意外でした。はなの覚悟に驚かされ、取り残されたののに感情移入して、最後は涙腺が決壊して大変なことに。

 はなが結婚して、アフリカに行くという展開は決めてありました。政情不安定な国で、あらがいようのない暴力に巻き込まれる。実在の国にすることも考えましたが、結局、架空の国にしました。書き始めたとき、ラストまでだいたいの道筋はできていました。でも、そこに行き着くまでが大変でしたね。こんなに長くかかるとは思いませんでした。

基本的に男性にはキビシイです

―――以前書かれた「秘密の花園」(新潮文庫)も聖フランチェスカが舞台ですね。

 私も女子校の出身で、そのイメージで作り上げた舞台が聖フランチェスカです。「秘密の花園」を書いた後、もう1回登場させたかったんです。「ののはな」を書きながら、「うふふっ、実は同じ学校」と思っていました。気づいていただいて良かった(笑)。

―――どちらの聖フランチェスカでも、生徒と教師の恋愛が描かれています。「ののはな」に登場する与田は、女生徒をもてあそぶ最低の教師ですね。

 いやー、与田は人気ないですよね。私も彼は最悪だなと(笑)。とくにモデルはいませんが、思春期の女子から見た“与田”像はこんな感じ……というのはありました。「こういう先生、すごくいやだけど、どこかにいるかも」と思っていただければうれしいです。

―――与田をはじめ、はなの父親や夫の磯崎など、「ののはな」に登場する男性はみんなどこか屈折しています。

 私、基本的に男性にはキビシイです(笑)。常に興味津々で、理解したい、知りたいと願ってはいますが。例えば、「まほろ駅前」シリーズの多田や行天は、ドリームとしての男性。好みという意味ではなく、「こういう人がいたらいいな」という思いの投影です。

―――三浦さんは登場人物の容姿について具体的な描写をせずに、「よく見るときれいな顔立ち」などと、ぼやかして表現します。理由はありますか。

 なるべく具体的に書かないようにしています。マンガや映画は視覚表現なので、ぱっと見れば容姿や雰囲気が伝わります。小説だと文章でいくら描写しても、思い浮かぶ容姿は読む人によって違う。だったら書かなくてもいいのかなと。指が美しいとか、その人を象徴する大切な情報なら書きます。それ以外は読者に委ねて、好きな姿を思い浮かべていただければ。与田もどんな顔だかわからないので、ご自由に「嫌なヤツ」の顔を当てはめてください。

編集者の仕事はケーキの差し入れだと思ってました

―――編集者を目指して就活しているときに、入社試験の作文が担当者の目にとまり、作家になることを勧められたと聞きました。なぜ、編集者になりたかったのですか。

 マンガや小説が好きだったので、働くなら出版社だと思っていました。マンガの編集者になりたくて、面接で志望する部署を聞かれたら、その出版社のマンガ雑誌の名前を挙げていました。とにかく本の世界で仕事したかったんです。実は、編集者がどんな仕事をしているのか、具体的には知らなかったんです。マンガ編集者の仕事はケーキの差し入れだと思ってたくらい(笑)。実際に編集者の方と仕事をするようになって、「私には無理だな」と思いました。気が利かないし、作品に対して的確なアドバイスもできない。作家の体調が悪いときや、締め切りに追われて精神的に不安定になったとき、支えたりなだめたり。絶対に無理でしたね。

―――作家になっていなかったら、どんな仕事をしていましたか。

 古本屋さんです。以前、アルバイトをしていました。古本屋には見たことのない本がたくさんあって、「へー、こんな本もあるんだ」と驚きと発見があるんです。しかも、それを探している人がいる! 仕入れの仕方、売値の付け方など、古本周辺のあれこれが面白くて。最近、町の本屋さんがなくなってきているので、自分で新刊書店をやってみるのはどうだろう、なんて夢想もしますね。

―――作家と本屋なら親和性が高いですね。

 でも、自分の本の売れ行きが気になるから、店長はできないですね。いつも本屋の新刊コーナーは急いで通り過ぎちゃうんです。「並んでなかったらどうしよう」と思うし、逆に積み上がっていたら、売れてないのかと心配になる。だから、本屋をやるなら、猫店長にレジ番をしてもらいたいです(笑)。

 (聞き手:読売新聞メディア局・後藤裕子、撮影:金井尭子)

三浦しをん(みうら・しをん)
作家

 1976年、東京生まれ。2000年『格闘する者に○(まる)』でデビュー。以後、『月魚』『ロマンス小説の七日間』『秘密の花園』などの小説を発表。『悶絶スパイラル』『あやつられ文楽鑑賞』『本屋さんで待ちあわせ』など、エッセイ集も注目を集める。06年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞を、12年に『舟を編む』で本屋大賞を、15年に『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞を受賞。ほかに、『むかしのはなし』『風が強く吹いている』『仏果を得ず』『光』『神去なあなあ日常』『天国旅行』『木暮荘物語』『政と源』などがある。

「ののはな通信」

 最高に甘美で残酷な女子大河小説の最高峰。三浦しをん、小説最新作。

 横浜で、ミッション系のお嬢様学校に通う、野々原茜(のの)と牧田はな。庶民的な家庭で育ち、頭脳明晰めいせき、クールで毒舌なののと、外交官の家に生まれ、天真爛漫らんまんで甘え上手のはな。2人はなぜか気が合い、かけがえのない親友同士となる。しかし、ののには秘密があった。いつしかはなに抱いた、友情以上の気持ち。それを強烈に自覚し、ののは玉砕覚悟ではなに告白する。不器用に始まった、密やかな恋。けれどある裏切りによって、少女たちの楽園は、音を立てて崩れはじめ……。運命の恋を経て、少女たちは大人になる。

KADOKAWA/1728円(税込み)