カンヌ最高賞「万引き家族」ビルの谷間から見える生々しさ

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©2018「万引き家族」製作委員会

 カンヌ国際映画祭最高賞パルムドール受賞作の「万引き家族」が6月8日から公開されます。映画でさまざまな家族の形を描き続けてきた是枝裕和監督。その撮影中に現場を取材しました。

 主人公一家=写真=はどこにでもいる3世代家族のようですが、実はかなりのワケあり。東京の下町、高層マンションの谷間にぽつんと立つ古びた平屋でひっそり暮らしています。この日、撮影されていた家族の食事の風景は、貧しくても幸せ、といった雰囲気。でも、この家族、いろいろ秘密があります。例えば、生活費に関しては、足りない分は万引きで。家族は、「犯罪」を重ねてつながっています。

 誰にも顧みられずに都会の片隅で生きる人々を描くという点は、是枝監督が2004年に発表した「誰も知らない」を思わせます。ただ、時がたち、「おそらく家族というものの社会でのありようが大きく変わってきた」と是枝監督。「いろいろな意味で、つながっているものがほどけている気がしている」とも。それを「確認したい」という思いがあって、この物語は生まれたようです。

 家族を演じるのは、リリー・フランキーさんと安藤サクラさん、松岡茉優さん、樹木希林さん。オーディションで選ばれた2人の子役、城桧吏(じょうかいり)さんと佐々木みゆさんも参加しています。是枝監督は配役する上で「毒を吐くのが上手な人がいい」と考えたそうです。「今回、みんな小さなウソを重ねていくので」

撮影現場での是枝監督(左)と佐々木さん

 家のシーンの撮影は、まず、制作スタッフが都内で見つけた一軒家で撮影を行い、その後、再現するセットを撮影所内に作りました。子役たちに配慮し、夜という設定のシーンを日中に撮影するためだそうです。セットに引っ越しても「(家の様子が)そっくりそのままロケの場所と同じだったので、脳が錯覚しますね」と、是枝組初参加の安藤さん。

 しかし、なぜその家が良かったのでしょう。是枝監督は、ビルの谷間に立つ様子を見て、「海の底にぽつんと取り残されているような感じがした。そういう場所から、水面の光を見上げているような人たちの話を撮りたいな、と思った」そうです。

 物語と場所、登場人物とが互いに作用しあって、映画が深まる。それが是枝作品の妙味です。出演を重ねてきた樹木さんは、今回の撮影中に「役がうわーんとみんなの体を通して生きてくる感じがした」と話します。「あ、これが(ほかの監督と)違うんだなって」

 撮影の様子をモニター越しに見て驚いたのは、見知ったはずの俳優たちが、まるで別人のように見えたこと。とにかく生活感たっぷり。最近の日本映画ではお目にかかれない生々しさが、その体から、ものがあふれる雑然とした室内から、漂ってきます。

 やはり是枝組は初めての松岡さんは「(舞台の家は)ほこりっぽいし汚いし、でもすごく居心地がいい。自分の実家とは全然違う場所なのに、息がしやすいというか、あんまり帰りたくないなあって」と、すっかりなじんでいます。リリーさんも「なんか居やすい」とか。「どこからが撮影で、どこからがプライベートなのかわかんなくなるっていうか、そういう空気になっちゃう。(是枝監督の現場では)いつもそういう魔法にかかる感じはします」

 さて、観客も魔法にかけてもらえるでしょうか。公開が楽しみです。(読売新聞文化部・恩田泰子)

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